美容室やエステ、まつげエクステサロン、ネイルサロンなどの美容業で多店舗展開を進める際の効果的な方法に「のれん分け」があります。「オーナー制度」や「独立支援制度」「社内フランチャイズ制度」などと呼ばれることもあります。
>「のれん分け」や「フランチャイズ」について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
スタッフの独立志向が旺盛な美容業において、「のれん分け」はいまやなくてはならない仕組みとなっています。しかしその一方で、正しいのれん分けの仕組みのあり方や構築手順を理解しないまま導入を進め、結果としてのれん分けが失敗に終わるケースがあることもまた事実です。
そこでこの記事では、美容室やエステサロン等といった美容業におけるのれん分け制度のつくり方や制度構築時の注意点について詳しく解説したいと思います。
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なお、のれん分け制度について詳しく知りたい方は、弊社YouTubeチャンネルをご覧ください。
(1)美容業界におけるのれん分けの現状
のれん分け制度のつくり方や制度構築時の注意点の解説に入る前に、美容業界におけるのれん分けの現状を確認しておきましょう。
美容業界における「のれん分け」で最も有名なのは美容室「アース」ではないでしょうか。“統一を目指さず、個性を伸ばすフランチャイズ”をコンセプトに、2019年5月時点で、のれん分け店舗数247店舗、独立オーナー100名超を実現しています。
美容室アースの暖簾分けフランチャイズシステムについては以下の記事が参考になります。
「アース」は強制しない 美容師一人ひとりの個性を生かしてフランチャイズオーナー100人を達成
2019.06.14 次世代を創る情熱リーダーたち SUPER CEO
また、その他にも美容業界でのれん分けを導入している企業の一例としては、美容室アッシュ、ファミリーヘアサロンSEASON、美容室TRUTHなどがあげられます。
各社、WEBサイト上でのれん分け制度を積極的にアピールしています。
>美容室アッシュ
>ファミリーヘアサロンSEASON
>美容室TRUTH
美容業界では美容室チェーンを中心に多くの企業がのれん分け制度を活用していることがわかります。それだけ、美容業界において「のれん分け制度が不可欠な仕組み」になっている証といえるでしょう。
(2)美容室がのれん分けを導入するメリット
美容業界においてのれん分け制度の導入が進んでいる理由として、のれん分け制度の導入で本部が得られる4つのメリットの存在があげられます。
①ノウハウや顧客基盤の流出を防止できる
美容業には「ノウハウや顧客基盤がスタッフに帰属する」という特性があります。そのため、スタッフが退職してしまうと、会社はスタッフが保有するノウハウに加え、顧客基盤まで失うことになります。
「これまで一生懸命育ててきたスタッフが、独立する自分のお店に顧客を連れていってしまった…」等のように、やるせない思いをしたことのある経営者も多いのではないでしょうか。
一方で、のれん分け制度を使って独立してもらえれば、スタッフに帰属するノウハウや顧客基盤をグループ内に囲い込むことができます。のれん分けの活用により、美容業の経営者にとって最も悩ましい問題である「ノウハウや顧客基盤の流出」を防止することができるのです。
②社員のモチベーションアップを実現できる
「のれん分けによる独立」というキャリアの選択肢が社員に明示されることによって、将来独立を目指す社員のモチベーションが上がり、定着率も向上することが期待できます。
美容業では、サービスそれ自体で競合他社と差別化することはできません。サービスを提供するスタッフの仕事に対する姿勢やモチベーションが競争力の源泉となります。
そのため、のれん分けの活用によって社員のモチベーションや定着率を高めることができれば、自然と店舗の競争力も向上していくことになります。
③優秀な人材の採用を促進できる
また、のれん分け制度が社内に整備されていることを求職者に対して積極的に情報発信していくことにより、求職者から見た「会社の働く場としての魅力」が高まり、独立志向の高い優秀な人材が集まってくることも期待できます。
人手不足問題が深刻化している現代の美容業において、のれん分けの活用は人手不足問題を克服するための有効なツールとなります。
>のれん分けの導入によって得られる人的側面のメリットについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
④環境変化に強い経営体質を実現できる
のれん分けした店舗の経営責任は、一経営者となる独立者が負うことになります。仮に、新型コロナのような環境を一変させる出来事が発生し、のれん分け店舗の売上が急減したときにも、店舗に生じる損失は独立者が負担します。
直営店と比べて本部の責任範囲が縮小しますので、その分、本部は環境変化に強い経営体質を実現することができます。
>のれん分けによって実現できる「身軽経営」について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
(3)のれん分け制度づくりの7つの手順
このように、美容業にとってなくてはならない仕組みとなっているのれん分けですが、しっかりとしたのれん分け制度をつくるには、細かな準備が必要です。
のれん分け制度づくりは、次の7つの手順で進めていきます。
①独立者の選定基準を明確化する
②のれん分けパッケージをつくる
③加盟金やロイヤリティを決定する
④独立形態を設計する
⑤のれん分け契約書類を整備する
⑥のれん分け制度を社内外に発表する
⑦独立に向けた教育と動機付けを行う
のれん分け制度づくりの詳細はこちらのコラムにまとめていますのでご参照ください。
(4)美容業においてのれん分けを成功させる5つのポイント
美容業のビジネスモデルや独立者の特性を考えた場合、のれん分けの成功のためには次の5つのポイントを踏まえて制度設計を進めていくことが大切です。
①のれん分けする店舗は、小さすぎず、大きすぎないサイズとする
のれん分け制度を利用する人材は、基本的にリスクを取ることを嫌います(リスクがとれる人材は、のれん分けをつかわずに自力で独立してしまいます)。
そのため、のれん分けする店舗が、事業リスクの大きい大型店舗の場合、スタッフはなかなか一歩を踏み出すことができません。
一方で、独立者が単独で運営できるような小型店舗では、自力で独立するのと変わらないため、のれん分けを利用するメリットが少なくなってしまいます。
なお、美容業で独立を目指す人はスタッフを、雇用をしなくても運営できる小規模店舗で独立する傾向にあります。
しかし、これはスタッフのためにも、業界の発展のためにもおすすめできません。この点については、会社で働いているうちにしっかりと教育しておくべきでしょう。
この点について詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
以上から、のれん分けをする店舗の規模は、自力で独立するには少しリスクがある程度の規模とすることがおすすめです。具体的なイメージとしては、オーナー+スタッフ2名くらいで運営できる規模が最適でしょう。
②初期投資が極力少ないモデルとする
美容業で独立する人材は、比較的若い年齢で独立する傾向にあることもあり、独立までにそれほど多くの資金を蓄えることはできません。加えて、職人タイプの人材が多いこともあり、初期投資が1千万円以上必要となるようなモデルでは、なかなか一歩を踏み出すことができません。
そのため、のれん分け制度では独立者の初期投資が極力低額で済むモデルを構築し、独立へのハードルを引き下げておくべきでしょう。独立形態としては「経営委託モデル」がおすすめです。
>経営委託モデルの詳細はこちらのコラムにまとめていますのでご参照ください。
③集客面でのメリットを提供する
美容業では、スタッフは会社で働いている間に施術や店舗運営ノウハウの大半を習得してしまいます。そのため、「会社からノウハウを提供する」というメリットだけでは、独立者にとってのれん分けを利用するメリットがそれほど感じられません。会社としては、独立者がのれん分けするメリットを明確にしなければなりません。
最もわかりやすいメリットは資金的なサポートを行うことですが、「カネ」の問題は経営には避けて通れない問題ですから、本部、独立者双方のためにも、資金面については最小限のサポートに抑制したいところです。
そこで大切になることが「集客面でのメリット」を提供することです。
のれん分けすることで、自力独立では得られない集客面でのメリットを享受できるのであれば、施術や店舗運営ノウハウを習得しているスタッフであっても、のれん分けを利用する価値を感じることでしょう。
例えば、
・本部が実施している宣伝に特別価格で参加できる
・本部から一定程度顧客を紹介する
・本部がWEB広告による集客を代行する
などが考えられます。
④個人店では得られない情報を提供する
美容業では、日々新しい技術が生まれていますし、トレンドも変化しています。独立して成功をしていくためには、これら最新の情報を積極的に収集し、店舗運営に反映していかなければなりません。
しかし、個人店がこれらの情報を収集するのは、金銭的にも、時間的にも限界があります。これらの情報収集を怠った結果、開業時は順調でも、時間の経過とともに業績が落ち込んでいくことはよくある話です。
そのため、本部が独立者に対して、個人店では簡単には得られない情報を継続的に提供することができれば、独立者にとってのれん分けで独立するメリットが生まれてきます。
例えば、
・本部が実施している会議や研修会に参加する権利を与える
・本部が使用している情報共有システムを閲覧する権利を与える
などが考えられます。
⑤顧客基盤の流出を防止する
美容業には顧客基盤がスタッフに帰属する特性があることはすでにお伝えしました。
この特性がある以上、独立後も顧客基盤の流出には注意しなければなりません。
例えば、契約期間終了後、独立者が看板を掛け変えて同じ事業の経営を続けた場合、本部は
のれん分け店舗を利用していた顧客の大半を失うことになりかねません。
このような事態を避けるためにも、独立者にのれん分けした事業と同種または類似する事業を経営することを禁止する競業避止義務を課し、違反した場合には違約金を請求するなど、顧客基盤の流出を防止する対策を講じておく必要があります。
なお、顧客基盤の流出を防止する契約書の作成について詳しく知りたい方は以下コラムをご覧ください。
>のれん分け契約書作成時の留意点についてはこちら
>のれん分け契約書に盛り込むべき条項ついてはこちら
まとめ
いかがでしたでしょうか?
美容業で多店舗展開を実現したい経営者にとって、「のれん分け」は非常に有効な手段であることがおわかりいただけたのではないでしょうか。
のれん分けで多店舗展開を成功させるためには、7つの手順に沿ってしっかりとした仕組みをつくり、3つのポイントをしっかりと押さえておくことが大切です。
このことにより、本部と独立者双方にとってメリットのある関係が実現され、お互いに成功をおさめることができるのです。
ぜひ、本記事を参考に、のれん分けを活用した事業展開にチャレンジしていただければと思います。
なお、弊社ではこれまで美容業ののれん分け制度構築やフランチャイズ展開を多数サポートしてきた実績があります。
解決しておきたいお困りごとや、より詳しくのれん分け制度の構築についてお知りになりたい場合は、ぜひお気軽に私共にお問い合わせください。
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