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【FC本部構築決定版:第5回】フランチャイズ本部の権利・責任を契約書に落とし込む

 

これまで、フランチャイズ本部立ち上げに取りかかる前の事前準備から、ビジネスモデルの整理とブラッシュアップ、加盟者に提供するサービスと加盟条件の設計等、フランチャイズ本部をつくるために検討が必要となる項目を多岐にわたって紹介してきました。
ここまでの取り組みを経て、ようやくフランチャイズ契約書類の整備に取りかかっていきます。

弊社にご相談に来られる方で「フランチャイズ契約書だけすぐにつくってほしい」とおっしゃる方もいらっしゃいます。たしかに、フランチャイズ契約書だけあれば形的にはフランチャイズ展開を開始することができるかもしれません。
しかしながら、「フランチャイズ展開を開始すること」と「フランチャイズ展開で成功すること」は全く異なる次元のお話です。フランチャイズ契約書はフランチャイズ展開に必要不可欠なツールではあるものの、フランチャイズ契約書があることが成功要因とはなりえません。

また、自社のビジネスモデル等について十分な検討を進めてこなければ、自社に最適化されたフランチャイズ契約書を作成することは不可能です。どの企業にも当てはまるような一般的なフランチャイズ契約書では、フランチャイズ契約書に期待される機能を十分に果たせない可能性もあります。これでは本末転倒です。

ですから、弊社がコンサルティングのご依頼を受ける場合には、これまでご紹介したプロセスを経たうえで、フランチャイズ契約書の作成に取りかかるようにしています。
フランチャイズ展開を開始することではなく、成功することを目指して、十分な準備を経て、フランチャイズ契約書の作成に取り掛かっていただきたいと思います。

第5回目は、フランチャイズ契約書類作成の考え方をご紹介します。


<目次>

<シリーズ>
第1回:フランチャイズ展開をはじめる前に準備すべきことを知る
第2回:フランチャイズ展開する標準店舗モデルを確立する
第3回:加盟店に提供するフランチャイズパッケージを作り込む
第4回:本部が受け取る加盟金やロイヤリティを設定する
第5回:フランチャイズ契約書類を整備する
第6回:加盟店開発戦略を策定する
第7回:フランチャイズ本部のスタッフを育成する
第8回:フランチャイズ本部立ち上げを成功させるためのポイント

なお、FC展開について詳しく知りたい方は、弊社YouTubeチャンネルをご覧ください。


 

(1)契約プロセスと必要書類一式の洗い出し

契約書類というと、フランチャイズ契約書だけをイメージするかもしれませんが、加盟者希望者が現れてからフランチャイズ契約を締結するまでには、実に様々な書面が必要となります。

フランチャイズ契約締結までのプロセスは企業によってまちまちとなりますので、まずはこのプロセスを明確化し、必要な契約書類一式を明らかにする必要があります。
一般的なフランチャイズ契約締結までの流れとしては、以下のような形になります。こちらを参考に、自社にあわせたプロセスを確立し、必要な書面を整備していくとよいでしょう。

①加盟希望者が出現

本部の事業説明会や個別相談を経て、具体的に加盟を検討している人が現れます。

② 秘密保持契約書の締結

加盟希望者に対してより詳細な情報を開示する前に、秘密保持契約を結びます。
既存店舗の収益情報など、重要な情報は秘密保持契約締結後に開示するとよいでしょう。

③ 法定開示書面の説明

法定開示書面とは、契約前にフランチャイズ本部が加盟希望者に対して交付・説明することが求められている情報をまとめた書面です。
飲食・小売業は、「中小小売商業振興法」により、契約前に指定事項を記載した書面を交付し、その記載事項について説明をすることが義務付けられています。
また、「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」でも同様の情報開示がフランチャイズ本部に求めており、こちらはサービス業も対象となります。

以上から「法定開示書面を提示しない本部=情報開示がしっかりとできていない本部」といえます。法定開示書面の説明は、フランチャイズ本部の義務と心得ましょう。
なお、法定開示書面やフランチャイズを規制する法律の詳細についてお知りになりたい方は、以下を参照いただければと思います。

フランチャイズ本部が知っておくべき法律①中小小売商業振興法

フランチャイズ本部が知っておくべき法律②独占禁止法(フランチャイズガイドライン)

また、フランチャイズ本部の中には法定開示書面をインターネット上で公開している本部もあります。
日本フランチャイズチェーン協会が運営するJFAフランチャイズガイドには、複数社の法定開示書面が公開されていますので、参考までに確認してみるとよいでしょう。

④ 加盟申込

加盟希望者の加盟意思が固まったら、加盟申込書を提出してもらいます。
その際、加盟審査やその後の手続きに必要な情報もあわせて提出していただくとよいでしょう。
一般的には以下のような内容が考えられます。

ア) 加盟希望者が個人の場合

  • 印鑑証明書(3ヵ月以内)
  • 住民票(3ヵ月以内)
  • 預金残高証明
  • 履歴書、職務経歴書
  • 確定申告書 等

イ) 加盟希望者が法人の場合

  • 履歴事項証明書(3ヵ月以内)
  • 印鑑証明書(3ヵ月以内)
  • 直近決算書(貸借対照表、損益計算書)3期分程度
  • 代表者の履歴書、職務経歴書 等

⑤ 加盟審査

加盟希望者から受領した書類及び面談時の対応等の結果を踏まえて、加盟可否を審査します。
フランチャイズ展開の成功を左右する最大のポイントは、加盟審査といっても過言ではありません。同じ船に乗せてはいけない人を乗せることがないよう、多面的な視点から十分に審査をした上で意思決定をしましょう。

⑥ 審査結果の通知

加盟審査の結果を加盟希望者に対して通知します。
審査に合格した場合には、その後の手続きの流れを書面にまとめて渡すとよいでしょう。

⑦ 加盟申込金の徴収

フランチャイズ本部によっては加盟申込金を徴収するケースがあります。

フランチャイズ契約前にも、フランチャイズ本部には物件探索のサポートや立地評価など、一定の負荷が生じます。
それらの負担を負ったにも関わらず、フランチャイズ契約締結前に、加盟希望者に加盟意思が無くな、加盟するのを取りやめた場合、本部は一方的な損失を受けることになります。

このような事態を避けるためにも、加盟審査後、加盟申込金を徴収するのです。
加盟申込金は、覚書等で「いかなる理由があっても返金しない」旨を確認しておくことで、仮に加盟希望者が、加盟申込金の支払い後に加盟することを取りやめたとしても、返金する必要は無くなります(ただし、その金額が、本部が負担する業務に対して相応のものである必要はあります)。

フランチャイズ契約締結前に本部に一定程度の負担が生じる場合には、加盟申込金を設定しておくとよいでしょう。その場合、加盟申込金の取り扱いなどを規定する覚書が必要となります。

⑧ 店舗物件の探索・選定・評価

店舗物件を加盟希望者に探索してもらう場合には、出店立地の基準をまとめた基準書を用意する必要があります。

⑨ 店舗物件の決定

公募物件の審査を行い、店舗物件を確定させます。

⑩ フランチャイズ契約書の読み合わせ

フランチャイズ契約書の条項は数十項目にわたることが一般的です。
記載されている内容も専門的なものが多いため、加盟希望者が単独で読むだけですべてを理解することは難しいものといえます。

ですから、フランチャイズ契約書は本部と加盟者で必ず読み合わせを行い、フランチャイズ契約書の各条項が意味する内容を十分に理解してもらいましょう。
万が一、後からトラブルが生じた場合にも、この読み合わせを行っていることが、フランチャイズ本部の立場を守ることにつながっていきます。

⑪ フランチャイズ契約書の預託

フランチャイズ契約書を読み合わせただけでフランチャイズ契約書の内容すべてを正確に理解することは不可能ですから、フランチャイズ契約書の読み合わせ後は、1週間から2週間程度、加盟希望者の検討時間を設けましょう。
これも、前項と同様、不測の事態が発生した際に本部の立場を守ることにつながります。
尚、フランチャイズ契約書を加盟希望者に預託するにあたっては、期間満了後に返還することを一筆交わしておくことをおすすめします。

⑫ 加盟金等の加盟費用の徴収

加盟金は、フランチャイズ契約締結日までに振り込んでもらうことが一般的です。
フランチャイズ契約書の預託と併せて加盟金等の請求書を渡し、加盟金等の支払いを確認したうえで、フランチャイズ契約締結日を迎えるとよいでしょう。

⑬ フランチャイズ契約の締結

 

(2)フランチャイズ契約書の作成方法

質の高いフランチャイズ契約書を整えることは、フランチャイズ展開の成功要因にはなりえませんが、成功するための重要な要素であることは間違いありません。
たとえば、穴だらけの契約書では、加盟店とのトラブルになった際に本部に大きな損害が発生し、結果としてチェーンの競争力が失われてしまう、といった事態が起きかねません。

これまで取り組んできたことの集大成として、自社に最適化されたフランチャイズ契約書を整備していきましょう。

① フランチャイズ契約書を作成する際の基本的な考え方

フランチャイズ契約書の作成方法の説明に入る前に、フランチャイズ契約書を作成する上での基本的な考え方と言いますか、心構えを確認しておきましょう。

ア)経営理念、ビジネスモデル、フランチャイズパッケージを踏まえてフランチャイズ契約書を作成する

これまでフランチャイズ本部立ち上げ時に検討すべきことを多岐にわたりご紹介してきました。
フランチャイズ契約書の作成にあたっては、これらの要素すべてを契約書に盛り込んでいく必要があります。
ですから、本部によってフランチャイズ契約書の内容は千差万別です。

例えば、販売促進策一つをとっても、

  • すべて本部でやるのか
  • 本部と加盟者それぞれで取り組む範囲が決められているのか。その場合、加盟者が取り組む範囲はどこからどこまでか
  • すべてが加盟者にゆだねられているのか。禁止事項はないのか

など、多様なパターンが考えられます。

これを検討せずに契約書のテンプレートをそのまま使ってしまったとしたら、自社のモデルとフランチャイズ契約書に不整合が生じ、後々困ることになりかねません。
フランチャイズ契約書の内容は、その企業の経営理念やビジネスモデル、フランチャイズパッケージによって決まることになります。
良いフランチャイズ契約書とは、企業の経営理念やビジネスモデル、フランチャイズパッケージに基づき、一貫性を持って漏れなく必要な要素が盛り込まれている契約書といえます。
サンプルや他社契約書の流用等は絶対に避けましょう。

イ)フランチャイズにとって最も重要なブランド・ノウハウ・顧客基盤の保護規定を厳格にする

フランチャイズ本部にとって最も大切なものは、本部が加盟者に対して提供するブランドやノウハウ、顧客基盤となります。ブランド価値の毀損やノウハウ・顧客基盤の流出は、本部に多大なる損害を与えることになるからです。
ですから、その点を意識して、フランチャイズ契約書を作り込む必要があります。

具体的には、以下の点について、念には念を入れて契約書を作り込むことが求められます。

  • ブランドの価値が毀損しないよう、商標の取り扱いや運営品質を一定水準に保つために守らなければならないことを漏れなく明確に盛り込む
  • ノウハウや顧客基盤の流出が起きないよう、加盟者がフランチャイズ契約の有効期間中はもちろんのこと、フランチャイズ契約終了後もノウハウや顧客基盤を自社フランチャイズ事業以外に使用することができないよう規制する。

② フランチャイズ契約書の検討事項

ここからは、フランチャイズ契約書に記載すべき要素のポイントをご紹介していきます。
なお、ここで紹介する内容は一般的なフランチャイズ契約書に盛り込まれる要素であるものの、これがすべてというわけではありません。
以下の要素に加えて、自社のビジネスモデルやフランチャイズパッケージ踏まえ、必要な要素を漏れなく盛り込んでいきましょう。

ア)契約の性質

フランチャイズ契約とは、本部が加盟者に対してフランチャイズパッケージ(商標、ノウハウ、開業サポート、継続的な経営指導、情報システム等)を提供し、その対価として加盟者が本部に対して対価(加盟金、ロイヤリティ等)を支払うものです。

本部が自社のビジネスモデルやフランチャイズパッケージのブラッシュアップをし続ける一方、加盟者は本部の定めた一定のルールに従い、店舗運営を行う義務があります。
フランチャイズ契約書のはじめでも、この契約の性質を確認しておきましょう。

イ)加盟者の独立性の確認

加盟者とフランチャイズ本部はそれぞれ独立した事業体であること、フランチャイズ本部は加盟者の成功を保証しないこと、加盟後に生じる全ての責任は加盟者が負うものであることなど、加盟者がフランチャイズ本部から独立した事業者であることを確認します。

独立事業者にとっては当然のことなのですが、加盟希望者の中には「フランチャイズに加盟すればすべてうまくいく」等と安易な考えをしている方もいますので、加盟者の独立性を明文化して、加盟希望者と読み合わせをすることが、後々に本部を守ることにつながります。

ウ)加盟金

加盟金の金額と支払期日に加えて、加盟金が何の対価であるのかを明記しましょう。
加盟金の性質を明示することは、中小小売商業振興法や独占禁止法の「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」でも本部の義務として定められています。

また、加盟金には「いかなる理由があっても加盟者に返還されない」旨の定め(加盟金不返還特約)があることが一般的です。過去の判例でも、加盟金を返還しない相応の理由があれば、加盟金不返還特約は有効と判断されています。

エ)保証金

フランチャイズ本部によっては、加盟者が本部に対して負う債務を担保するため、加盟保証金を徴収することがあります。
保証金は預託金となりますので、フランチャイズ契約終了後、加盟者が本部に対して負う債務を清算した後に、残額が加盟者に返還されます。
加盟者が本部に対して一定程度の債権を有する仕組みとなっている場合には保証金を設定しておくとよいでしょう。金額は本部によってまちまちですが、加盟者が本部に対して負う債務の1~2ヵ月程度が目安となります。

なお、加盟者の立場で見れば、保証金も初期コストの一つとなります。個人や小規模事業者を加盟対象とした場合、初期コストを低く抑えることが加盟者開拓において極めて重要な要素となります。その点も考慮して、金額を設定するとよいでしょう。

オ)開業前研修費

開業前研修費を加盟金とは別枠で設定する場合には、その金額や支払い方法、支払期限を明記します。

なお、加盟金とは別に研修費を徴収する場合、研修費が加盟金に含まれる場合と比較して、当該費用が何の対価であるかがより一目瞭然になります(研修費が加盟金に含まれる場合は、研修費が占める割合がどの程度かは不明瞭)。そのため、例えば、研修費を支払ってもらった後に、加盟者が研修を受講せずに加盟を取りやめた場合、当該研修費は原則返還しなければなりません。

公平な決め方ではありますが、本部が一方的に損害を被らないよう、その取り扱いは十分に検討して決める必要があるでしょう。

カ)ロイヤリティ

ロイヤリティについても、加盟金と同様、何の対価であるのか、その性質を明示する必要があります。
加えて、ロイヤリティの算定基準についても、明確に定義しておく必要があります。
例えば、「売上高に対する10%」と一言でいっても、その売上高とは税抜きなのか、税込みなのか、また、値引き前なのか、値引き後なのか等、様々な解釈が可能です。

コンビニ本部では、粗利益にロスが含まれるかどうかで本部と加盟者間に認識の相違が生じ、大きなトラブルに発展しました。
このような事態が生じぬよう、疑義が生じない算定基準を設定しておきましょう。

キ)売上予測の取り扱い

売上予測の有無を定めます。最近では、特にフランチャイズ展開初期段階の本部においては、売上予測を実施しないことが多いようです。売上予測を実施しない場合には、その旨を明確化しておくとよいでしょう。

フランチャイズパッケージのところでも解説しましたが、本部が加盟者に対して売上予測値などを提示する場合には、その数字が客観的、かつ合理的根拠に基づいている必要があります。
根拠のない数値を出して、開業後、加盟者の実績が当該予測数値を大きく下回るようなことがあった場合、本部が責任を問われるリスクがありますので売上予測の取り扱いには十分に注意しましょう。

また、売上予測を実施しないにしても、加盟交渉を進める中で本部から加盟者に対して収支に関する何らかの資料が提示されることがあります。そのような資料を加盟者に予測値として捉えられてしまうと、それを下回った際に問題になりかねません。ですから、本部が提示したあらゆる資料について、それらを本部が保証するものではないことをフランチャイズ契約書上でも確認しておくとよいでしょう。

ク)店舗立地の選定

店舗立地については、加盟者の判断と責任のもとで決定してもらうものです。
本部によっては物件紹介をするケースもありますが、あくまで紹介であって、意思決定するのは加盟者です。当然、加盟者が決めた立地を本部は評価こそしますが、その立地で事業が成り立つことを保証するわけではありません。その点を明確にしておくとよいでしょう。

ケ)店舗移転や店舗外販売等の取り扱い

開業後、想定よりも業績が下回っている場合、加盟者が店舗の移転、または店舗外やインターネット上での販売などを希望することがあるかもしれません。
加盟店独自の判断で自由に店舗の移転や店舗外で販売することを認めてしまうと、チェーン店として収拾がつかない事態となりかねません。
仮に認めるにしても、事前許可制にする、認める範囲を制限する等、経営方針やビジネスモデルに応じて適切な定めをしておくとよいでしょう。

コ)店舗新設の取り扱い

2店舗目以降を出店する際の取り扱いを定めます。
フランチャイズ本部によって、店舗出店のたびに同じフランチャイズ契約を締結していく本部もあれば、店舗が増えるにつれて加盟金やロイヤリティが減額されていく本部もあります。自社のフランチャイズ展開方針に基づき、ふさわしい取り扱いを定めるとよいでしょう。

最近のトレンドとしては、1人の加盟者に複数店舗を展開してもらいたいと考える本部が多いようです。その背景には、優秀な加盟者に複数店舗経営してもらうことで、チェーン全体の競争力が高まることはもちろん、経営指導やコミュニケーションに必要な工数も減少するメリットがあるからです。このような本部では、店舗新設に対して加盟金やロイヤリティの減額規定が設けられているケースが多いです。

サ)テリトリー権の取り扱い

テリトリー権とは、フランチャイズ本部が加盟店に対して、特定の地域において与える独占的な販売権等を言います。加盟店に対してテリトリー権を認めるのかどうか、認めるとしたらどの程度の権利を与えるのかを契約書に定めておく必要があります。

テリトリー権を認める場合、実際の運用に際して様々な問題が生じることが予想されます。例えば、加盟店間での権利侵害はその典型例です。この場合、本部は仲裁に入ることになりますが、どの程度権利を保障するのか、ルール違反者に対してどのような対応をするのか等は非常に難しい問題です。そのため、最近ではテリトリー権を認めないケースが多いようです。

シ)店舗の設計及び施工の取り扱い

店舗ビジネスにおいて、店舗の内外装の構造やイメージは、成功する上で非常に重要な要素であり、本部のノウハウに該当します。
フランチャイズシステムにおいては、チェーン全体で統一的なイメージを保つことが重要ですから、本部の定める基準に従って設計や施工をすることを義務付けることが一般的です。

設計や施工を担当する業者を本部が指定することも可能です。ただし、本部の利益のためなど、不当な理由で加盟者の取引先を制限することは、独占禁止法違反となる可能性があります。
「チェーン全体で統一的なイメージを保つ」という目的の枠内で必要な制約を課すべきでしょう。

実務上では、ブランドイメージに大きな影響を及ぼす設計業務については本部もしくは指定する業者が実施し、施工については本部が業者を推奨するものの、必要な能力を有している業者であれば加盟者が選定してもかまわない、などとなっていることが一般的です。

ス)指定する物品の有無及びその購入先

店舗の設計や施工と同様、チェーンの統一性を保つうえで必要不可欠な物品がある場合には、購入する物品やその仕入れ先を指定することができます。
例えば、ラーメンチェーンで、フランチャイズ本部の定める味品質や効率性を担保するためには一定水準の機能を満たす厨房機器が必要であるならば、特定の厨房機器の購入を義務付けることには正当性があるものといえます。

ただし、その厨房機器がメーカー品であり、他の業者からより良い条件で仕入れることが可能であるとするならば、機器の指定はできたとしても、購入先まで指定するのは難しいものといえるでしょう。
仕入れ先を指定できるのは、その仕入れ先から購入しなければチェーンの統一性を保つことが出来ない等の条件が必要です。

セ)開業前研修の取り扱い

一般的なフランチャイズシステムであれば、開業前になんらかの研修を実施するはずですから、研修の内容や期間、受講対象者、費用などをフランチャイズ契約書上で明示しておく必要があります。

研修実施後にテストなどを行う場合には、テストに合格することを研修終了の要件としている本部もあります。一定水準の運営品質を保つためには、何らかのテストは実施しておきたいところです。その場合、テスト不合格時には追加研修が発生することになりますので、その際の費用負担(例えば1日●万円など)もあらかじめ決めておくとよいでしょう。これは、研修受講者の意識の向上にもつながります。

ソ)開業時における指導

フランチャイズ本部は、加盟者の開業に際して様々なサポートを行います。これは、加盟金を徴収する一つの根拠となりますから、サポートする内容は具体的に示しておくとよいでしょう。
一般的には、立地診断・選定、店舗設計及び施工、教育研修、開業手続き、経営会計業務、各種情報提供、その他開業全般のアドバイスなどが対象となります。

また、加盟店の開業日前後に本部スタッフを派遣して実地指導を行う場合には、実施限度日数を定めておくべきでしょう。これは加盟店からの要請により際限なく本部スタッフが現地に行かなければならなくなる事態が発生するのを予防するためです。加盟店の要請により、あらかじめ定めた日数を超えて本部スタッフが現地で実地指導する場合には、その際の費用負担も決めておくべきです。

タ)必要な許認可

フランチャイズ本部が展開する事業内容によっては、何らかの許認可を取得する必要があるケースがあります。万が一、加盟店が許認可を取得せずに営業するようなことがあった場合、本部の信頼に関わる問題となります。ですから、必要な許認可があればそれをフランチャイズ契約書上で明示するとともに、加盟者が許認可を取得していることを本部が確認できるよう、証明書などの提出義務を課しておくとよいでしょう。

チ)開店前の本部検査

フランチャイズチェーン全体のブランドイメージを保つ上で、各加盟店が本部基準を遵守することは極めて重要な要素となります。ですから、店舗の開店前には、本部が定めた基準を加盟店が遵守しているかどうか、検査をしておくべきしょう。
また、仮に本部の基準を守っていない場合には、開業を認めず、是正をさせるべきです。そのような内容をフランチャイズ契約書に盛り込んでおくとよいでしょう。

ツ)店舗の運営方法

チェーンシステムでは、各店舗で統一した運営を行うことが大切ですから、店舗の運営方法についても本部の定める基準を明らかにしなければなりません。
ただし、このような内容は多岐にわたるうえ、時の流れとともに変化していくものです。
ですから、それらの内容をフランチャイズ契約書に盛り込むよりも、マニュアルとして基準をまとめ、フランチャイズ契約書には「マニュアルを遵守すること」を義務として課すことが一般的です。
その場合、当然に店舗の運営方法を明確に示したマニュアルを整備し、日々ブラッシュアップしていくことが求められます。

テ)従業員の雇用

社員の雇用は、加盟店の責任の下でおこなってもらいます。
とはいえ、人件費削減のために過小人員で運営されるようなことがあると、本部としては困りますので、本部の定める人員数を加盟店の責任の下で確保してもらうようフランチャイズ契約書に明示するべきです。

また、最近では長時間労働、セクハラ、パワハラ、モラハラなど、企業の人事労務管理に対する世間の目が厳しくなってきています。仮に加盟店が前述のような問題を引き起こした場合、本部や他の加盟店にもマイナスの影響を起こしかねません。ですから、加盟店の責任のもとで労働関係法規を遵守することをフランチャイズ契約書に明記しておくとよいでしょう。
フランチャイズ契約書に記載するだけでなく、加盟店に対して十分な指導を行わなければならないことは言うまでもありません。

ト)商材等の調達について

店舗で使用する商材や原材料等について、本部もしくは指定業者からの仕入れを義務付ける場合は、その旨をフランチャイズ契約書に明記します。

フランチャイズパッケージのところでも説明したとおり、原材料等の仕入れ先を不当に強制することは、独占禁止法に定められた優越的地位の濫用に該当するリスクがありますが、フランチャイズシステムにおいては
「発注作業負担や仕入れコストの低減といった加盟店にとってのメリットがある」
「本部が提供する商品やサービス品質を担保するためには、当該原材料の使用が必要不可欠」
などのように、一定条件を満たすのであれば仕入れ先を本部または指定業者に強制することも認められます。

ですから、フランチャイズ契約書には、本部・指定業者からの仕入れを義務付ける記載だけではなく、仕入れを義務づける理由まで確認しておくと良いでしょう。

なお、世の中のフランチャイズ契約書を見ていると、おおざっぱな規定(例えば、店舗で使用する全ての原材料等を本部から仕入れるものとする、など)がなされていることがありますが、本部からの仕入れを義務付けるもの、推奨にとどまるもの、加盟店にまかせるものなど、一つのフランチャイズシステムの中にも様々な商材、原材料、消耗品等があるはずです。一つ一つ、その性質を明らかにして、切り分けて記載をしていくことをおすすめします。

ナ)店舗や設備等の更新について

店舗ビジネスで競争力を維持していくためには、一定頻度でリニューアルや設備更新を行っていく必要がありますが、フランチャイズシステムでは、加盟店舗の設備老朽化がしばしば問題となります。

店舗の維持、管理は加盟店の責任となりますが、加盟店の経営方針や資金事情の問題により、店舗のリニューアルや設備更新が実施されないケースはよくあることですので、そのようなことが発生しないよう「一定頻度でリニューアルや設備更新を行うこと」、「本部が必要と判断した場合には必要な処置を行う義務があること」をフランチャイズ契約書に明記しておくと良いでしょう。

なお、上記のような定めがあるとはいえ、フランチャイズ本部が加盟店に対してリニューアルや設備更新を強制することは実質的には困難です。ですから、フランチャイズ本部のリニューアルや設備更新の考え方について、加盟前に十分な説明を行い、方針を共有できた加盟希望者だけを加盟させる必要があるでしょう。

ニ)店舗の営業時間・営業日

店舗の営業時間や営業日について、チェーンで統一する場合には、営業時間や営業日を明記しましょう。
ただし、最近ではコンビニの24時間営業が世間から批判をされたように、加盟店の労働環境に対する世間の目が厳しくなってきています。従来はビジネスモデルの視点から営業時間や営業日を設定することがほとんどでしたが、今後は加盟店の労働環境についても配慮して、営業時間や営業日を設定する必要があるでしょう。

ヌ)情報システム

加盟者に使用を義務付ける情報システムがある場合には、その内容を定めます。その際、通信や保守の取り扱いについても定めておくとよいでしょう。通常、通信や保守については、加盟者の費用負担で対応してもらいます。
また、本部が用意した情報システムを使用する場合には、情報システム使用料を徴収することも可能です。その場合はロイヤリティ等と同様に、情報システム使用料の計算方法まで定義しておく必要があります。

ネ)販売する商品・サービスや販売方法について

チェーンシステムにおいては、各店舗で取り扱う商品・サービスや販売方法が統一されていることが大切ですから、取り扱う商品やサービス、販売方法についても統一的なルールを定めておく必要があります。
ただし、店舗運営方法と同様、これらの内容は多岐にわたるうえ、時の流れとともに変化していくものですから、それらの内容をフランチャイズ契約書に盛り込むよりも、マニュアルとして基準をまとめ、フランチャイズ契約書には「マニュアルを遵守すること」を義務として課すことが一般的です。

ノ)販売価格

販売する商品・サービスや販売方法と同様、チェーンシステムでは販売価格を統一することも重要な要素となります。商品卸先や協力先など、取引先の販売価格を不当に制限することは独占禁止法違反となりますが、フランチャイズシステムにおいては、各店舗で販売価格が統一されていることが、顧客が当該チェーンを安心して利用できる一つの理由となりますから、チェーンとしての統一性を担保する範囲内であれば、販売価格を指定することも認められます。

実務上では、本部は販売価格を指定するものの、加盟店の希望があれば、競争環境や地域性などを踏まえて販売価格の変更を認める可能性がある、といった規定がなされていることが多いようです。

ハ)法令の順守

法令を順守することは当たり前のことですが、ビジネスモデルによって、特に注意を払うべき法律(例えば、飲食業でいう食品衛生法など)があるはずです。
仮に、加盟店で法令違反に当たる行為が発生した場合、チェーン全体を揺るがす事態に発展する可能性があります。
ですから、その様な事態を予防するためにも、特に注意を払うべき法令については具体的に示すことにより、加盟者の法令順守に対する意識を高めておく必要があります。

ヒ)反社会的勢力の排除

どのような契約書にも、反社会的勢力の排除については記載があると思いますが、フランチャイズ契約書にも必ず入れておくべきでしょう。

フ)マニュアルの貸与

フランチャイズ本部にとって、マニュアルは最も重要な資産です。重要な資産が外部に流出することが無いよう、その取り扱いルールを厳格に定める必要があります。秘密保持義務の対象となる資産であることも明確にしておくべきでしょう。
マニュアルのポイントとしては、加盟店に“差し上げる”ものではなく、あくまで“貸し出す”ものであるということです。そのため、加盟契約終了後には、マニュアルを返却してもらうことになります。この原則をフランチャイズ契約書には明記しておくべきです。

貸し出すわけですから、加盟者に渡すマニュアルは、データではなく、冊子等の現物でなければなりません。また、現代では冊子等でも容易に電子データに変換することができますから、マニュアルの全ページに加盟店毎に割り当てたシリアルナンバーを振るなどして、できる限り、複製などができないように努めるべきでしょう。

当然、加盟店に貸し出したマニュアルの冊数、加盟店毎に割り当てたシリアルナンバー、返却の有無など、本部の管理業務は増えることになりますが、自社の重要なノウハウを秘匿するためには不可欠な業務といえるます。

ヘ)経営指導

本部と加盟者間でトラブルになる最大の要因は“加盟店の業績不振”ですが、その際に、次に問題になりやすいのが経営指導についてです。「加盟者の店舗業績が悪いのは、本部の経営指導が不十分だからだ」等と主張されることが多いようです。
経営指導の品質は、外から判断することができませんから、経営指導の定めが曖昧だと問題が生じやすくなります。経営指導の頻度や支援の内容は具体的に定めておくとよいでしょう。

なお、フランチャイズ本部によっては臨店指導(店舗に訪問して指導すること)を実施しないところもありますが、弊社では最低でも月1回は臨店して、加盟店オーナーや店舗責任者と話をする時間を設けることを推奨しています。
その背景には、フランチャイズシステムといっても、最終的には人と人との関係でしかないわけですから、月1回も会っていないのに信頼関係など築けるわけがない、という考えがあります。フランチャイズ展開を志向するのであれば、その程度の努力は実施するべきではないでしょうか。

ホ)開業後の研修会等

開業前研修についてはすでに触れましたが、フランチャイズシステムを展開していくと、その時々に応じて、研修を実施する必要性が生れてきます。
例えば、飲食チェーンで食中毒やアルコール誤飲等の事故が発生したときには、そのようなことを二度と発生させぬよう、再発防止研修を実施するかもしれません。

また、加盟店の店舗責任者が成長していけるよう、本部が実施する勉強会や店舗責任者会議に一定頻度で参加することを義務付けている本部もあります。
加盟店によっては、自社の経営方針や業務を優先して、本部が実施する研修会等に参加しない、といったことが生じる可能性もありますから、このような内容はあらかじめフランチャイズ契約書で参加する義務があるものとして定めておくとよいでしょう。

マ)商標の使用許諾

本部が所有する商標を加盟店に使用させる場合には、そのルールを明確化します。
商標は、本部にとってノウハウと同様、重要な資産ですから、加盟店が使用できる商標の種類と使用ルール(例えば、目的、使用範囲、使用方法、本部の事前許可の必要性等)は厳格にしておくべきでしょう。

なお、商標使用に加えて後述する秘密保持義務、競業避止義務については、加盟者による違反が発生した場合、フランチャイズシステムの根幹を揺るがしかねません。そのため、これらについて加盟店の違反行為が生じた場合には、違約金が発生する定めが設けられていることが一般的です。違約金の金額は、平均ロイヤリティの30か月前後が基準となります。

ミ)秘密保持義務

フランチャイズシステムでは、本部が保有するノウハウがビジネスの核となりますから、そのノウハウ流出が発生しないよう、加盟者には秘密保持義務を課す必要があります。
また、ビジネスモデル上、加盟店が社員やアルバイトスタッフを雇用する必要がある場合には、それらのスタッフに対しての管理監督の義務も課しておくべきでしょう。

ム)契約期間中の競業避止義務

競業避止義務とは、加盟店に対して、当該フランチャイズシステムと同種または類似の業務をおこなうことを禁止することをいいます。フランチャイズシステムでは、競業避止義務は絶対に定めなければならない条項の一つといえます。

仮に、加盟者による競業が認められてしまうと、本部から得たノウハウが別事業に流用される(秘密保持義務を課しているにしても、本部のノウハウを流用しているかどうかは外部からは判断できない)可能性があるからです。加盟者の中には、フランチャイズ本部のノウハウを盗むことを目的にフランチャイズ加盟する者もいますので注意が必要です。

競業避止義務を課すにあたっては、禁止の対象者と対象業種を明確化することが大切です。
禁止の対象者としては、加盟店の経営者はもちろんのこと、その親族や実質的に加盟店経営者が支配している第三者も対象にしておくとよいでしょう。また、対象業種についても、ノウハウ流用が可能な業種を幅広く指定しておくとよいでしょう。

メ)顧客情報の取り扱い

フランチャイズ本部にとって、顧客情報も重要な資産の一つです。その取り扱いも明確に規定します。

まずは、顧客情報の帰属がフランチャイズ本部になるのか、加盟者になるのかを明らかにします。
顧客情報の帰属をフランチャイズ本部とする場合には、フランチャイズ契約期間中は顧客情報の使用を認め、フランチャイズ契約終了時には顧客情報をフランチャイズ本部に返却してもらうことになります。

一方、顧客情報の帰属を加盟者とする場合には、フランチャイズ契約終了後には当該顧客情報を抹消してもらう必要があるでしょう。
取得した顧客情報をフランチャイズ契約終了後にも加盟者が使える状態にしてしまうと、別事業の宣伝をされてしまうなど、本部の顧客基盤にマイナスの影響を与える取り組みを実施されてしまう可能性があります。
ですから、フランチャイズ契約終了後には加盟者が顧客情報を保有できない状態にするとともに、フランチャイズ契約以外の目的に使用することを明確に禁止しておくとよいでしょう。

なお、顧客情報の帰属がいずれにせよ、顧客情報の取り扱いについて、厳格な管理規定を定めておく必要があります。

モ)本部が実施する宣伝広告活動

本部がチェーン全体の宣伝広告活動を実施する場合には、その旨をフランチャイズ契約書に定めます。

初期段階では、チェーン全体を対象とした宣伝広告活動は実施しないかもしれませんが、店舗が増えてくると、TVCMやインターネット広告などを展開する可能性もあります。そのような点も考慮して、必要に応じてフランチャイズ本部の判断でチェーン全体を対象とした宣伝広告活動を実施できるよう定めておくことが無難です。

フランチャイズ本部によっては、チェーン全体の宣伝広告活動にかかる経費の一部を加盟店に負担してもらうこともあります。後付けになると加盟者の理解を得にくいため、経費負担をしてもらう可能性があるのであれば、経費負担の考え方についても規定も盛り込んでおくとよいでしょう。

ヤ)加盟者が実施する宣伝広告活動

加盟者が実施する宣伝広告活動についてのルールを定めます。

  • 加盟者が独自の宣伝広告活動を実施することはできない
  • 事前に本部の許可を得れば、認められた範囲内で実施できる
  • 特定範囲内においては加盟店の判断で実施できる
  • 本部の用意したツールを使用すれば手段は問わない
  • すべて加盟者にゆだねられている

など、本部の方針によってルールの在り方は大きく変わってきますから、自社の方針やビジネスモデルを踏まえて、あるべき姿を規定します。

なお、インターネットによる情報発信の取り扱いは明確に定めておくべきでしょう。本部が当該ブランドのホームページやSNSを一元管理する場合、加盟店がフランチャイズ事業について独自のホームページやSNS等を立ち上げるのは禁止するケースが多いようです。

ユ)営業停止命令

これまでフランチャイズ契約書に定めておくべき事項を多岐にわたりご紹介してきました。これまで確認してきた事項をフランチャイズ契約書に盛り込んだとしても、加盟者がルール違反をする可能性はあります。
フランチャイズ本部が定めたルールを守らずに営業を継続されてしまうと、チェーンにとってマイナスになることもありますので、フランチャイズ契約書の定めに違反し、かつ本部の注意にも従わない場合には、本部は加盟店の営業停止を命じることができるよう定めておくとよいでしょう。

ヨ)会計書類の取り扱い

フランチャイズ本部にとって、加盟店の収益状況は是非とも把握しておきたいところです。
加盟店が高い収益性を上げているのであれば、自信を持ってフランチャイズ展開を進めていくことができる一方、加盟店の収益性が低ければ、フランチャイズパッケージの見直しやビジネスモデルのブラッシュアップが必要ということになります。
加盟店の収益状況をタイムリーに把握し、必要な対策を講じられるようにするためにも、加盟店には本部に対して定期的に会計書類を提出する義務を課しておくとよいでしょう。

ラ)保険への加入

いかなる業種業態であれ、加入すべき保険があるものと思います。
そのような保険への加入は加盟店まかせにせず、フランチャイズ契約書で加盟すべき保険を指定するとともに、保険証券の写しを本部に提出してもらい、間違いなく必要な保険に加入している状態を整えるべきです。

なお、本部の指定する保険代理店を通じて保険に加入することを義務付けている本部もあります。そのことが加盟店にとってメリットがあるのであれば、そのような定めをしておくのもよいでしょう。

リ)加盟者の地位の移転

事業譲渡や経営委託などにより、加盟者の地位が他者に譲渡されるケースがあります。
従来の加盟者とは良好な関係が保てていたとしても、その後、加盟店の経営者になるものと良好な関係を築ける保証はありません。
ですから、加盟者の地位の移転が生じる場合には、新たな経営者と面談を行い、信頼関係を築くことが出来そうな場合に限り、移転を認めるべきです。

フランチャイズ契約書でも、本部の事前の承諾がある場合に限り、加盟者の地位の移転を認める定めとしておくことが望ましいものといえます。

ル)本部の地位の移転

前項とは逆に、フランチャイズ事業の売却などにより本部の地位が他者に移転するケースも考えられます。その場合に、加盟店一社一社の承諾を得なければ本部の地位移転ができない、ということになると、事業譲渡等に多大な手間がかかることになり、実質的に譲渡をすることが不可能という事態になりかねません。ですから、本部の地位の移転については、本部の判断で実施できるように定めておくことが一般的です。

このような定めを設けておけば、将来的にエリアフランチャイズ制度を導入することになった場合にも、スムーズにエリアフランチャイズ本部に本部の地位を移転することができます。

レ)契約期間

フランチャイズ契約の期間は本部によってまちまちですが、基本的には、加盟店が十分に投資回収できる期間で定めておくとよいでしょう。一般的には、サービス業で3~5年、飲食業で5~7年が目安になるかと思います。もっともよくある契約期間は5年程度です。

フランチャイズ本部としては、契約期間が長い方がよいと感じるかもしれませんが、環境変化が急速に進む現代において、長い契約期間は大きなリスクとなります。そのため、契約期間があまりにも長いと、フランチャイズシステムの魅力が失われる可能性がありますので注意が必要です。

契約更新については、初期に設定した契約期間を繰り返すパターンと、1~2年程度で小刻みに更新していくパターンがあります。後述しますが、加盟店からの中途解約には違約金が発生することが一般的であり、これも契約期間と同様、更新期間が長ければ長いほど、加盟店にとってリスクが大きくなります。最近では、1~2年程度で小刻みに更新していくパターンが多いように感じます。

ロ)加盟店からの中途解約

加盟店が想定していた通りの収益性を上げられない場合、中途解約を希望することも考えられますので、そのルールを定めます。一般的には解約希望日の3~6ヵ月前までに本部に対して通知してもらいます。
ただし、フランチャイズ契約の中途解約は、本部にとってデメリットが大きく、安易な中途解約は防ぎたいところです。そこで、中途解約に対する違約金の定めを設けて、中途解約のハードルを高めている本部もあります。

違約金の定めについては、初期契約期間満了前の中途解約に対してのみ違約金が発生するケース、更新後の中途解約も違約金が発生するケースなど様々です。
なお、フランチャイズシステムでは、加盟店からの契約解除は比較的行いやすいのですが、本部からの契約解除は、相応の理由(本部・加盟者間の信頼関係を破壊するような行為)が無ければ、契約期間中はもちろんのこと、契約更新のタイミングであっても一方的に解約することはできないものとされていますので注意が必要です。

ワ)本部による契約の解除

前述の通り、フランチャイズ契約では、フランチャイズ本部からの解約が認められるのは、加盟者に本部・加盟者間の信頼関係を破壊するような行為があった場合に限られます。そこで、どのような行為が信頼関係の破壊に該当するのか、その具体的な内容を定めます。

フランチャイズ契約における解約条項としては、一般的な内容(例えば、倒産したとき、犯罪を犯したとき、契約締結にあたり虚偽の申告があったとき、など)に加えて、商標使用規定、秘密保持義務規定、顧客情報管理規定、競業避止義務規定など、フランチャイズシステムにとって特に重要な条項に違反した場合を設定します。

ただし、解除規定に定めている事柄が発生したからといって、必ずしも契約解除が有効となるわけではありませんので、その点ご注意ください。

ヲ)契約終了後の措置

フランチャイズ契約終了後には、加盟者は本部から与えられていた全ての権利を失うこととなりますので、まずはその点を確認します。
また、契約終了後、店舗をそのまま残されたり、看板だけ変えて営業を継続されたりしてしまうと、お客様から見れば同じチェーンの店舗のように感じられてしまい、結果としてチェーンに悪影響を及ぼす可能性があります。そこで、契約終了後に加盟者に行ってもらうことを、予めフランチャイズ契約書にまとめておきます。

具体的な事項としては、以下のような内容が考えられます。
・商標使用の中止、看板等の撤去
・チェーンを象徴する内外装の撤去
・本部に対する債務の弁済
・マニュアルなどのノウハウの返還

なお、加盟者が費用負担を嫌って上記事項の実施を拒むケースも考えられます。そのようなときには、本部が加盟者に代わって、加盟者の負担で上記事項を実施できる権利を有することも確認しておくとよいでしょう。

ン)契約終了後の競業避止義務

先に、契約期間中の競業避止義務を説明しましたが、ここで説明するのは、契約期間後の競業避止義務についてです。
例え契約終了後であっても、フランチャイズ事業と同種ないし類似の事業をおこなわれてしまっては、本部ノウハウの流出、顧客基盤の侵害などが発生することは免れません。そこで、フランチャイズ契約期間後についても、一定の条件下で競業避止義務を課すことが原則的に認められています。

契約期間後の競業避止義務を有効にするためには、一般的に、対象となる事業、エリア、期間の3つを限定することが望ましいとされています。
あまりにも制限を強くすることは、加盟者の権利を不当に制限することになり、認められないケースもあります。本部ノウハウの流出や顧客基盤の侵害を防止できる程度の制限に留めておくことが無難です。

なお、対象期間でいえば、2年程度であれば問題なく認められる傾向にあるようです。

アア)集約の確認

フランチャイズ契約を締結するまでには、本部と加盟者との間で様々なやりとりがなされます。
フランチャイズ本部としては、加盟者開拓のために多少過剰な営業トークをすることがあるでしょうし、加盟者は自分にとって利益があることは、口頭説明を受けただけの内容でも覚えていることでしょう。結果として、フランチャイズ契約でトラブルになると、多くの場合、本部と加盟者間で“言った、言わない”の争いが始まります。

ですから、そのようなことが無いよう、フランチャイズ契約書の最後で、フランチャイズ契約書や付属資料等に定められていることがすべてで、それ以外のいかなるやりとりも効力を有しないことを確認しておくとよいでしょう。

なお、本条項があるからといって本部と加盟者間でのやりとりがすべて無効になるというわけではありません。本部として、加盟者が自社のフランチャイズシステムを正しく理解し、適正な判断を下せるよう十分な説明を行うことに注力するべきでしょう。

 

まとめ

第6回目は、フランチャイズ契約締結までのプロセスから必要となる書類一式、及びフランチャイズ契約書作成の重要ポイントを解説しました。
フランチャイズ契約書はフランチャイズ展開の成功要因とはなりえませんが、成功のための重要な要素であることは間違いありません。第1回から第4回まで紹介してきた内容の集大成として、十分な準備を経て、フランチャイズ契約書の作成に取り掛かっていただきたいと思います。

第6回目では、加盟店開発の考え方や具体的な方法を解説します。

【FC本部構築決定版:第6回】フランチャイズ加盟店営業戦略を策定する


執筆者プロフィール

株式会社 常進パートナーズ 代表取締役 高木 悠
千葉県生まれ。立教大学経済学部卒。大手外食フランチャイズチェーンに入社後、店長、マネージャー、フランチャイズ担当等を歴任。15年以上にわたり外食・フランチャイズ業界に関わっており、店舗ビジネスや大手チェーン・フランチャイズ本部の実態を熟知している。
独立後は「店舗ビジネスを営む企業とそこで働く社員の社会的地位の向上」を実現すべく100社以上の企業支援に携わっており、支援先の中には2年間で売上274.6%UPを達成した企業や、創業後5年以内に30店舗展開を達成した企業があるなど、その実践的なコンサルティングには定評がある。
著書として「フランチャイズマニュアル作成ガイド(同友館 共著)」「飲食店「のれん分け・フランチャイズ化」ハンドブック(アニモ出版 共著)」がある。
経済産業大臣登録 中小企業診断士。

<シリーズ>
第1回:フランチャイズ展開をはじめる前に準備すべきことを知る
第2回:フランチャイズ展開する標準店舗モデルを確立する
第3回:加盟店に提供するフランチャイズパッケージを作り込む
第4回:本部が受け取る加盟金やロイヤリティを設定する
第5回:フランチャイズ契約書類を整備する
第6回:加盟店開発戦略を策定する
第7回:フランチャイズ本部のスタッフを育成する
第8回:フランチャイズ本部立ち上げを成功させるためのポイント

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