フランチャイズビジネス市場が拡大を続ける中、フランチャイズ展開を目指す企業が増加傾向にあります。
ところが「フランチャイズ本部になるためにやるべきこととそのステップ」が体系的にまとめられている情報は意外にも少ないようです。そこで、弊社がフランチャイズ本部構築のコンサルティングをさせていただく際に取り組むこととその流れ、留意点等を全8回にわたってフランチャイズ本部構築決定版としてお届けしたいと思います。
<目次>
コンテンツ
<シリーズ>
第1回:フランチャイズ展開をはじめる前に準備すべきことを知る
第2回:フランチャイズ展開する標準店舗モデルを確立する
第3回:加盟店に提供するフランチャイズパッケージを作り込む
第4回:本部が受け取る加盟金やロイヤリティを設定する
第5回:フランチャイズ契約書類を整備する
第6回:加盟店開発戦略を策定する
第7回:フランチャイズ本部のスタッフを育成する
第8回:フランチャイズ本部立ち上げを成功させるためのポイント
なお、FC展開について詳しく知りたい方は、弊社YouTubeチャンネルをご覧ください。
【第1回】フランチャイズ展開をはじめる前に準備すべきこと
「フランチャイズ展開を開始しよう!」と決めたとしても、焦りは禁物です。
フランチャイズ本部立ち上げプロジェクトが上手く進まないケースは思いのほか多いものです。
そして、その原因の大半は“事前準備が不十分”であることです。
第1回目は、フランチャイズ本部立ち上げプロジェクトを始動する前に、最低限準備しておくことを紹介します。
(1) フランチャイズシステムを正しく理解する
フランチャイズ展開をすすめるにあたり、まずはフランチャイズシステムを正しく理解しておく必要があります。
当たり前のことなのですが、フランチャイズシステムは専門的な内容であることもあり、意外と正しい理解がなされていないようです。
そこで、まずはフランチャイズ展開を進める前に最低限知っておくべき事項をまとめておきたいと思います。
① フランチャイズとは
「フランチャイズ」という言葉は一般用語として使用されていますが、実はその定義はあいまいであり、人によってイメージしている内容が異なることもよくある話です。
フランチャイズ展開のすすめ方を論じる前に、まずはフランチャイズとはどのようなものなのか、共通認識にしておく必要があります。
フランチャイズの定義についてはいくつかありますが、最も標準的なものは、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会が定めている以下の定義です。
フランチャイズとは、事業者(「フランチャイザー」と呼ぶ)が他の事業者(「フランチャイジー」と呼ぶ)との間に契約を結び、自己の商標、サービスマーク、トレード・ネームその他の営業の象徴となる商標、及び経営のノウハウを用いて同一のイメージのもとに商品の販売その他の事業を行う権利を与え、一方フランチャイジーはその見返りとして一定の対価を支払い、事業に必要な資金を投下してフランチャイザーの指導及び援助のもとに事業を行う両者の継続的関係をいいます。 (一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会(略称:JFA)の定義より) |
この定義を踏まえてフランチャイズシステムの特徴まとめると、以下のように整理することができます。
ア) 本部から加盟者にフランチャイズパッケージを提供
- 本部の商標、チェーン名等を使用する権利
- 本部が開発した経営上のノウハウ、システムを利用する権利
- 本部が行う継続的な指導・支援を受ける権利
イ) フランチャイズパッケージの見返りとして、加盟者は本部に一定の対価を支払う
- 加盟時に支払う加盟金
- 月々支払うロイヤルティ等
ウ) 本部と加盟者は各々独立した事業体であり契約に基づく共同事業
- 本部と加盟者それぞれに権利と義務が発生
- 継続的契約であり、関係は長期にわたる
本部と加盟店はあくまで独立した経営体であり、店舗に必要な投資やリスクは加盟者が負担します。他人資本を利用して店舗展開を進めるため、直営店舗による展開と比較してスピーディーに店舗展開を進めることが可能となります。
近年、フランチャイズ業界の市場規模は年々右肩上がりで推移しており、世の中を見渡してみると、コンビニを代表としてフランチャイズシステム抜きでは成り立たないほどにフランチャイズチェーンが普及していることがわかります。
一般消費者に対してはもちろんのこと、雇用創出という観点でも、フランチャイズチェーンは社会になくてはならない存在となっています。
② フランチャイズのメリット・デメリット
フランチャイズ展開には様々なメリットがありますが、一方で、デメリットがあることも事実です。一般論としては以下のような内容が挙げられます。フランチャイズ本部立ち上げに着手する前に、フランチャイズ展開のメリット・デメリットを踏まえ、自社にとって本当にフランチャイズ展開が必要かどうか、検証してみましょう。
ア) メリット
- 加盟者の資金や人材を活用して事業展開することができるため、直営展開と比べて急速な企業成長実現が可能。
- 上記により短期間で一定シェアを確保することで、競合企業に対する優位性を築くことができる。
- 加盟金やロイヤリティを得ることにより安定した経営基盤を実現できる。
- 規模のメリットを享受できる。仕入、店舗工事、システム導入などで取引先との交渉力が高まる。
- フランチャイズ加盟店の収益責任は加盟者が負うため、直営チェーンに比較して環境変化への対応力が高い。
イ) デメリット
- フランチャイズシステムづくりや加盟者開拓に一定の投資が必要となる。数店舗程度の展開では採算が合わないケースが多い。
- 直営店と比べて店舗のコントロールが難しい。フランチャイズ契約書も万能ではないため、本部の考えを十分に説明し、理解・行動してもらうことが必要になる。
- 問題店舗が出てきたとき、放置するとチェーン全体のイメージダウンにつながることから、その対応に多大な手間と労力が発生する。
- 加盟店の経営資源を使って事業展開をするため、本部の情報開示責任が増す。
- フランチャイズには専門的な知識が不可欠であり、担当者(加盟店営業、教育指導など)の育成・確保に時間と費用がかかる。
③ フランチャイズシステムにおける理念の重要性
フランチャイズチェーンは、経営に対するさまざまな経験や考え方を持った事業者が、一つのフランチャイズシステムに従って事業を行う組織体といえます。そのため、各事業者が自由に事業活動を行ってしまうと、事業者によって経営方針や店舗運営方法にばらつきが生じ、チェーン店としての統一性を保つことができません。
したがって、本部は自社の理念や経営方針、経営ビジョン等を明確化するとともに、それを加盟希望者に対して共有していくことはもちろんのこと、自社の理念や経営方針、経営ビジョン等に共感してくれた加盟希望者を見極めて加盟させていくことが求められます。
仮に、本部と加盟者が価値観や理念を共有できていない場合、その関係は「儲かる・儲からない」だけのものとなってしまいます。どんなに素晴らしいフランチャイズチェーンであったとしても、すべての店舗が黒字になるわけではありません。赤字の加盟店舗が生じた場合、本部と加盟者が価値観や理念を共有できていなければ、トラブルになる確率が飛躍的に高まることになります。
(2) フランチャイズ展開の目的を確認する
フランチャイズ展開を進めていく上で、はじめに明らかにすべきことが“フランチャイズ展開の目的”です。
店舗展開方式には大きく分けて直営展開とフランチャイズ展開の2パターンがありますが、どちらか一方が最適ということではなく、それぞれ特徴があり、メリット・デメリットが存在します。そのため、企業の経営方針によって、直営向きか、フランチャイズ展開向きかも変わってきます。
例えば、フランチャイズ展開のデメリットに
「初期段階においては投資がかさみ、複数店舗展開程度だと投資回収が難しい」
「加盟店の運営をコントロールすることが難しい」
というものがあります。
仮に、フランチャイズ展開の目的が「複数店舗展開したい」程度のものだとすると、上記デメリットを考えると、フランチャイズ展開よりも直営展開で進めていった方がよいかもしれません。
せっかく手間とコストをかけてフランチャイズ展開を開始したにもかかわらず、自社が実現したいことから遠ざかってしまうのでは目も当てられません。ですから、まずは自社がフランチャイズ展開する目的を明らかにし、直営・フランチャイズそれぞれの特徴を踏まえて、フランチャイズ展開という選択肢が自社にとって望ましいものであるかを検証する必要があります。
(3) フランチャイズ展開可能性を検証する
自社にとってフランチャイズ展開が望ましい手法であることが確認出来たら、続いてフランチャイズ展開が可能かどうか、フランチャイズ展開可能性の検証に入ります。
フランチャイズとは、フランチャイズ本部のビジネスモデルを加盟者に販売するものです。加盟者から加盟金やロイヤリティ等の対価を受け取る以上、販売するビジネスモデルがしっかりしたものでなければなりません。フランチャイズでトラブルが生じる最大の原因は、加盟店が儲かっていないことに起因します。ですから、高い確率で加盟店が収益を上げられるようビジネスモデルを磨き込む必要があるのです。
フランチャイズ展開可能性を検証するにあたっては、以下の要素から自社ビジネスモデルを検証してみることをおすすめします。
① 収益性
- ロイヤリティ等、フランチャイズ加盟後に生じるコストを差し引いても加盟者が投資に見合う収益性を確保できること。
- 目安としては、ロイヤリティ等のフランチャイズ加盟後に生じるコストを差し引いた営業利益率で10%前後。投資回収期間で3年以内。ただし、これが必須ではない。
② 成長性
- 展開しているビジネスの市場に将来性があること。ブームを対象にした商売や斜陽産業ではないこと。
③ 独創性
- 第三者が容易に模倣できるビジネスモデルでないこと。
- 模倣が容易なビジネスモデルの場合、過去の例からも短期間で衰退に向かう可能性が高い。
④ 運営難易度
- 当該ビジネスの素人でも早期にノウハウを習得でき、一定品質の運営が可能であること。
- 職人技が必要なビジネスモデルの場合、運営品質にばらつきが出やすく、結果的にフランチャイズチェーンの競争力を維持しにくい。
⑤ 成功の再現性
- 成功に再現性がある(成功がまぐれではない)こと。
- フランチャイズ業界では、3店舗の直営店を2年間継続した実績が目安と言われている。
⑥ 店舗展開可能性
- 最低50店舗程度は展開可能な市場があること。
- 主要都市でしか成立しない、地域の嗜好に特化したビジネスモデル(地域グルメ等)はフランチャイズ展開に向いていない。
なお、上記について現段階で不十分な点があるのであれば、ビジネスモデルの見直しやブラッシュアップが必要です。フランチャイズ本部づくりと並行して、ビジネスモデルの磨き込みを進めていくのでもよいでしょう。
(4) フランチャイズ本部立ち上げプロジェクトの体制を整える
フランチャイズ本部の立ち上げ初期段階でプロジェクトが頓挫するケースがありますが、その要因の大半は、フランチャイズ本部立ち上げプロジェクトを進める人員体制が不十分であることです。
プロジェクトを円滑に進めることができるよう、プロジェクトの正式稼働前に、体制を明らかにしておきましょう。
弊社の経験則で申し上げると、フランチャイズ本部立ち上げプロジェクトには、最低限、以下の役割を果たす人材が必要となります。社長も含めて最低3~4名の人員を確保したいところです。
① プロジェクトリーダー
- プロジェクトを統括する。
- 基本的には社長が担当することが望ましいが、それができない場合は、経営レベルの意思決定を下すことができる幹部が担当すること。
② 店舗運営担当
- 加盟店の店舗運営指導に必要な仕組みづくり(加盟店に提供するマニュアルの整備、研修プログラムの作成等)を担当する。
- 店舗運営に精通していることはもちろんのこと、それを素人にもわかる形にまとめ上げる論理的思考力、パソコンスキルがあることが望ましい。
③ 加盟開発担当
- 加盟店営業に必要な仕組み作り(加盟店向け営業資料作成、本部事業説明会企画・資料作り等)を担当する。
- 本部のビジネスモデルやフランチャイズシステムを深く理解していることに加え、経営者と対等に渡り合える経営知識やコミュニケーション能力も求められる。
- このような人材は希少であるため、最も成長しそうな人材を選定し、フランチャイズ本部立ち上げプロジェクトを通じて育成していくことが望ましい。
④ 事務担当
- フランチャイズ本部立ち上げプロジェクトの開始に伴って生じる事務作業を担当する。
- フランチャイズ本部立ち上げでは、多くの資料を作成することになるため、資料作成や事務作業等を補助する要因を確保しておくことが望ましい。
- また、フランチャイズ加盟店が生れた後には、売上管理、情報共有等も担当してもらうこととなる。
(5) フランチャイズ本部の事業計画書を策定する
フランチャイズ展開の目的整理と可能性検証、プロジェクト体制整備が完了したら、フランチャイズ展開に向けた計画を策定していきます。
計画というと、収支計画、投資計画、資金調達計画などが思い浮かぶかもしれませんが、これからフランチャイズ展開を始める企業が細かい計画を立てたとしても、それほど意味がありません。
したがって、この段階ではあまり細かいことには踏み込まず、最低限、以下の方針を決めておくとよいでしょう。
① 目標店舗数
- 将来的に何店舗程度のチェーン展開を目指すか。
- また、直営店とフランチャイズ店の比率はどの程度か。
- 想定しているフランチャイズ店の規模によって、フランチャイズシステムをどの程度整備するかが決まってきます。
② 展開エリア
- 店舗展開するエリアと進出の流れ。
- 初期段階では地域を絞って集中的に出店し、一定規模まで成長した段階で展開エリアを拡大していく流れになることが一般的です。
- 全国展開を目指す場合には、エリアフランチャイズ制度※の導入可能性も検討しておくとよいでしょう。
※エリアフランチャイズ制度とは
特定地域において、フランチャイズ本部の一部機能(加盟店開発、経営指導等)をパートナー企業に委託する制度。
パートナー企業として、本部と信頼関係があり、かつ当該地域内で一定の力を有する企業を選定することにより、本部がすべてを自力で進めるのと比べて、円滑かつ迅速にフランチャイズ展開を進めていくことが可能です。
③ 加盟対象
- どのような人を加盟対象とするのか。
- 一般的にフランチャイズ加盟者の対象は第三者となりますが、最近は、本部社員の働きがいの創出等の観点から、社員を加盟対象としている本部もあります。いわゆる社内フランチャイズ制度、のれん分け制度等と言われるものです。
- 第三者と社員、両方を加盟対象とする場合には、社員の加盟に加盟金やロイヤリティ等の優遇措置を設けている本部もあります。
④ 加盟形態
- 基本的には、加盟者の自己投資で新規店舗をつくることになりますが、最近では、本部の既存店舗を加盟者に貸し出す形態(委託モデル)、本部の既存店舗を加盟者に売却する形態(事業譲渡モデル)等、加盟形態も多様化してきています。
- 先に検討したフランチャイズ展開の目的を踏まえて、自社に最適な形態を選択します。加盟者の希望に応じて対応できるよう、複数の選択肢を用意するケースもあります。
まとめ
第1回目のフランチャイズ本部構築決定版では、フランチャイズシステムの仕組みや特徴、フランチャイズ本部立ち上げ前に最低限準備すべき事項を解説しました。
これからフランチャイズ展開を始める方、すでにフランチャイズ展開を行っている人にとっても、絶対に知っておかなければならない核の内容となります。
次回からは、いよいよフランチャイズ本部立ち上げの具体的な方法に踏み込んで紹介をしていきます。
第2回目は、フランチャイズ展開する業態の標準モデルについて解説します。
執筆者プロフィール
株式会社 常進パートナーズ 代表取締役 高木 悠
千葉県生まれ。立教大学経済学部卒。大手外食フランチャイズチェーンに入社後、店長、マネージャー、フランチャイズ担当等を歴任。15年以上にわたり外食・フランチャイズ業界に関わっており、店舗ビジネスや大手チェーン・フランチャイズ本部の実態を熟知している。
独立後は「店舗ビジネスを営む企業とそこで働く社員の社会的地位の向上」を実現すべく100社以上の企業支援に携わっており、支援先の中には2年間で売上274.6%UPを達成した企業や、創業後5年以内に30店舗展開を達成した企業があるなど、その実践的なコンサルティングには定評がある。
著書として「フランチャイズマニュアル作成ガイド(同友館 共著)」「飲食店「のれん分け・フランチャイズ化」ハンドブック(アニモ出版 共著)」がある。
経済産業大臣登録 中小企業診断士。
<シリーズ>
第1回:フランチャイズ展開をはじめる前に準備すべきことを知る
第2回:フランチャイズ展開する標準店舗モデルを確立する
第3回:加盟店に提供するフランチャイズパッケージを作り込む
第4回:本部が受け取る加盟金やロイヤリティを設定する
第5回:フランチャイズ契約書類を整備する
第6回:加盟店開発戦略を策定する
第7回:フランチャイズ本部のスタッフを育成する
第8回:フランチャイズ本部立ち上げを成功させるためのポイント
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