多店舗展開

企業競争力を決定づける店舗責任者の育て方

日本全体において人手不足問題が深刻化しています。東京商工リサーチによると、人手不足関連の2018年度倒産件数は387件、前年比122%の結果で、原因別にみてみると、人材不足により事業継続が不可能な「求人難」が59件で前年比169%、「人件費高騰」が26件で前年比173%でした。人材の確保・育成・定着は企業の存続に影響を及ぼす重要課題となっています。
労働集約性が高く、給与原資の限られる店舗ビジネス関連の業種から、待遇の良い業種に移る人が増えていることもあり、店舗ビジネス業界における人手不足問題はより一層深刻です。特に、店舗ビジネスの競争力を決定づける店舗責任者の業務を高いレベルで遂行できる人材は希少性が高く、そのような人材を確保するためには相応の労力とコストが必要となります。人材獲得競争が激化する中、中小規模企業が待遇面で大手企業に打ち勝つことは困難ですから、中小規模企業としては、そのような人材を自社で育成していくことが求められます。
そこで、企業の競争力を高めることができる店舗責任者(店長)はどのように育成していけばよいか、当社が考える方法をご紹介します。

(1)経営者の想いや考え等を共有する

当たり前のことですが、店舗責任者を育成する前提として、その従業員に対して、経営者の想いや考え、経営方針等を十分に共有しておくことが求められます。「そんな当たり前なこと、言われなくてもわかってるよ」と感じられるかもしれませんが、当社の経験則で申し上げると、人材育成に悩む会社の大半がこの点で躓いてしまっています。これは、人材育成を進めるスタートラインにすらたてていない状況ともいえます。
 注意しなければいけないことは、一回伝えたことで“伝わったつもり”になることです。 “伝える”と“伝わる”には非常に大きな違いがあることを心得ておくべきでしょう。
店舗責任者を務めるほどの人材であれば、たいてい自分なりの想いや考え、方針を持っています。その内容が経営者のものとはじめから一致することはほぼありません。ですから、少なからず経営者と店舗責任者の間には想いや考え、方針等にギャップがあるはずです。経営者は、このギャップを埋める努力をしていかなければなりません。とはいえ、経営者の想い等を一方的に伝えたとしてもそのギャップが埋まることはありません。このギャップを埋めていくためには、まずは経営者自身が店舗責任者の想い等をすべて受け入れてあげることが必要です。自らの想いや考えが受け入れられることによって、はじめて店舗責任者に経営者の想いや考えを受け入れる土台が出来上がるからです。店舗責任者の想いを受け入れたうえで、経営者の想いを伝えていく。このプロセスを繰り返し繰り返し行うことで、少しずつ経営者の想いや考えに対する店舗責任者の共感が生れていきます。
人材育成に成功している企業の多くは、経営者との個人面談や評価制度の運用などを通じて上記プロセスが繰り返し行われるようになっています。もし1回伝えたことで伝わったつもりに陥っているのであれば、まずはこの仕組み作りから進めていくことが人材育成を進めていく出発点となります。

(2)店舗責任者が問題解決策を考える環境をつくる

仕事には大きく分けて2つの種類が存在します。
一つ目は、進め方に正解のある業務(決められたことを決められたとおりに進めることが求められる業務)です。当社ではこれをルーチン業務と呼んでいます。代表的なものは、お店を時間通りに開店する、決まった時間に決まった場所の掃除をする、などがあげられます。
二つ目は、進め方に正解の無い業務です。当社ではこれを問題解決業務と呼んでいます。 問題解決業務とは、会社や店舗の理想とする状態を達成するための問題・課題を特定し、必要な対応策を考え、実行していくことが求められる業務です。例えば、「人材のモチベーションを高める」という業務は、置かれている環境や相手に応じて対応策は千差万別であり、まさに問題解決業務の典型的なものと言えます。
店舗責任者にも上記2つの業務遂行が求められています。いずれも重要性の高い業務ですが、会社の競争力を高めるという観点から考えると、店舗責任者には問題解決業務を高い水準で遂行する能力(=問題解決力)が求められることになります。なぜならば、決められたことを決められたとおりに遂行できる人はいくらでもいますが、理想を実現するために現状を打開していくことができる人材は極めて希少であるからです。経営者の立場からしても、会社やお店をより良くするために必要な問題・課題を捉え、解決のために必要な対策を考えて実行し、現状を打開してくれる人材は喉から手が出るほど欲しいのではないでしょうか。
高い問題解決能力を有する人材を採用できればよいのですが、冒頭に述べた通り、この人手不足時代においてそのような人材を採用することは困難を極めます。したがって、社内にいる人材の問題解決能力を育てていく意識が必要です。
問題解決能力を高めるための唯一の手段は、店舗責任者が問題解決策を考える環境を会社から提供していくことです。例えば、売上目標が設定されている場合に「売上目標を達成する上での問題・課題は何か」「問題解決するために具体的に取り組むことは何か」等を店舗責任者自身が突き詰めて考える場をつくるイメージです。これは進め方に正解がないこともあり店舗責任者にとっても非常に苦しい作業となりますが、目標を達成するためには何が問題なのか、達成するためには具体的に何に取り組むべきなのか等を行動する前に自らの頭で考え、明確化するとともに、行動した後には当初の考えが正しかったのかどうかを振り返ることにより、徐々にではありますが確実に問題解決能力が高まっていきます。筋トレと同じですぐに効果は出ないものの、継続することで確実に筋力がついていき、気づいたときには大きな差になっているでしょう。
多くの経営者が店舗責任者に求める「会社やお店をより良くするために必要な問題・課題を捉え、解決のために必要な対策を考えて実行し、現状を打開してくれる人材」を確保するためには、社内で上記のプロセスを継続的に回し、着実に店舗責任者を育成していく仕組みを構築することが求められるのです。

(3)店舗責任者の働きを承認する

上記2つのポイントを押さえておくことができれば、企業競争力向上につながる店舗責任者を育成していくことができますが、そのことを加速するエンジンとして、店舗責任者の働きを承認することが大切です。経営者の基準で店舗責任者の考えや行動等を良い・悪いと判断しないこととも言えます。
経営者は、日々複雑な思考が求められる経営判断を行っているわけですから、一般的な従業員と比較すると間違いなく思考のレベルは数段高くなります。その視点から店舗責任者の働きをみてしまうと、どうしても店舗責任者の働きレベルに不満を感じる点がでてきます。これはある意味仕方のないことかもしれません。しかしながら、そもそも基準が異なるわけですから、そのことを理由に店舗責任者を否定することは避けるべきです。
大切なことは、店舗責任者の視点から働きを承認してあげることです。同じ立場に立てば、店舗責任者の働きに対して認めてあげられることは多々あるはずです。大げさに言えば、人手不足問題が深刻化し、働き手にとっては働く場所がいくらでもある状況の中で、当社を選んで働いてくれていること自体、感謝できることといえます。
経営者が上記のように店舗責任者を承認することができるようになれば、店舗責任者の承認欲求が刺激され、もっともっと頑張ろうと意欲やモチベーションが高まっていくことが期待されます。その意欲やモチベーションがエンジンとなり、人材育成が加速度的に進んでいくことになるのです。

まとめ

このように整理してみると、企業競争力向上につながる店舗責任者を育てるための本質はいたってシンプルなものであることがわかります。もし、現在店舗責任者の育成で苦労しているのであれば、上記3つのポイントのうち自社に欠けているものが無いかを振り返り、不足しているものがあるのであれば、その点から仕組みとして取り入れていくことをおすすめします。

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