(1)人事評価制度連携の必要性
「働きやすさ」や「働きがい」のある職場にするためには、従業員満足度を高める人事制度を構築して運用することが大切です。人事制度には、大きく分けて、採用、配置、評価、報酬、育成(教育)の5項目があり、経営理念や経営方針を人事制度の内容と一貫性を持たせることが、従業員のモチベーション向上や人材育成につながります。そこで、人事評価制度と人員配置との連携について、ご紹介します。
(2)人事評価制度と人員配置の連携
人員配置とは、「昇進や昇格と呼ばれる縦への配置」と「組織の中での人材の適材適所の横の配置」の2種類があります。昇進と昇格は、様々な定義がありますが、本文の中では、昇進は、リーダーから店長になる、係長から課長(管理職)など職位(役職)が上がること、昇格は、職務遂行能力を示す等級(資格)が上がることとします。
初めに、昇格への活用について、具体的に、飲食・サービス業を営むX株式会社の例でご説明します。X株式会社の等級(資格)は、表1 等級フレームの通り、マネジメント能力や業務実行能力などにより、5級~1級の5段階があり、職務遂行能力は5級の方が高く1級の方が低くなっています。また、職位(職務)は、エリアマネージャーや店長、一般など5段階あります。等級に対する職位は目安であり、必ずしも等級と職位は一対一で対応していません。
表1 等級フレーム
等級 資格呼称 | 対応職位 (目安) | 職務遂行能力 イメージ |
---|---|---|
5級 | エリア マネージャー |
|
4級 | 上級店長 (統轄店長) |
|
3級 | 店長 |
|
2級 | チーフ |
|
1級 | 一般 |
|
評価は、表2 評価基準と評価ポイントの通り、あらかじめ設定した評価基準に対して、従業員の実績から、S~Dの5段階があり、Sの方が高く、Dの方が低いことを示します。評価に応じて、評価ポイントがあり、評価Sであれば5ポイント、Aであれば4ポイントと評価が下がると、1ポイントずつ下がり、Dでは1ポイントです。
表2 評価基準と評価ポイント
評価 | S(5) | A(4) | B(3) | C(2) | D(1) |
---|---|---|---|---|---|
評価基準 | 達成基準をはるかに超えた | 達成基準を超えた | 達成基準通り (本人の実力よりもやや上で、期待される仕事ぶりであった) | 達成基準に到達せず | 達成基準にはるかに劣る |
*評価の( )内の数字は、評価ポイント
昇格で等級を上げる際に、この人事評価をポイントとして活用することで、人事評価と連動した仕組みになります。
所属の等級において、毎年5~1ポイントをカウントします。評価Sであれば、5ポイント獲得です。このポイントを累積して、表3 昇格テーブルにもとづき、評価累積ポイントの条件を満たした際に、次の等級に昇格できるチャンスを得ることができます。等級が変われば、ポイントはリセットします。
例えば、現在の等級が1級の人は、2級に昇格する機会を得るには、6ポイント以上を取る必要があります。つまり、Bの評価であれば、最低2年1級に在籍が必要です。また、4級の人は、5級に昇格するには、9ポイント以上必要ですので、4級在籍中にC評価であれば5年、B評価であれば3年、AとSの評価を得られれば、最短の2年で昇格の機会が得られます。昇格の条件が9ポイントですので、2年以上4級に在籍が必要なことになります。
表3 昇格テーブル
評価累積ポイント | |
---|---|
4級→5級 | 9以上 |
3級→4級 | 9以上 |
2級→3級 | 9以上 |
1級→2級 | 6以上 |
このように、昇格に評価を活用することで、客観的な昇格の機会の提供になります。上司が特定の部下をかわいがっているなどの恣意的な昇格の防止になり、公平性や透明性が高まります。留意点は、評価累積ポイント獲得のみを昇格の条件にしないことです。CやDなどの低い評価でもポイントは毎年獲得できますので、同じ等級に在籍しているだけで、自動的に昇格してしまいます。そのため、累積評価ポイントを活用して、昇格の機会を得る条件として設定し、条件を満たした従業員の中から上司による昇格対象者として推薦の上、社長面接や小論文、筆記試験などを実施して、昇格させるか最終判断することがよいでしょう。
同様に、昇進についても、昇進テーブルを作成して、活用することが可能です。例えば、上級店長になるには、等級4級での累積評価ポイントが9ポイント必要であるとか、エリアマネージャーになるには、等級5級での累積評価ポイントが9ポイント必要であるとか、昇進の条件を定義することができます。留意点は、評価の昇進テーブルとの連携により公平性や透明性は高まりますが、チーフや店長などの役職については、人手不足などで代わりの人材がおらず、社内の条件を満たしていなくても、対象の職位(役職)に任命しなければならない場合があります。その場合に昇進させてしまうと、会社自身が社内ルールを破ってしまうことになり、会社として望ましい取り組みでなくなります。また、等級(資格)と職位(役職)を一対一対応にすると、等級2級の人が、店長がいない際に、店長に任命されることで、自動的に昇格もするため、昇格条件が機能しません。昇進へのポイント制の導入及び、等級と職位を一対一対応にすることについては、メリットとデメリットを理解した上で、柔軟な仕組みとすることが望ましいと言えます。
人事評価を人材の横の配置である社内異動に活用することも有効です。評価のフィードバックを伝える面談において、上司から部下に評価結果を伝えるだけではなく、高い評価の従業員には、次にチャレンジする業務を提案して、本人の職位や担当業務などに関する希望を確認したり、低い評価の従業員とは、本人のやりたい業務や能力を発揮しやすい業務を確認します。人事異動は、会社全体での人材の有効活用の観点から、必ずしも本人の希望通りにできるわけではありませんが、人事評価制度との連携により、本人の評価と意向を考慮した人員配置に役立ちます。
(3)人事評価制度活用による効果
人事評価制度は、報酬、人員配置、人材育成に活用することが大切です。人事評価を反映した成果給の運用により、頑張った社員の貢献に対して報いることで、本人の「働きがい」につながり、従業員満足度が向上します。また、人員配置における昇進や昇格に活用することで、昇進や昇格に対する透明性や公平性が高まります。会社の成長に伴い、従業員や拠点が増加すると、会社に対する帰属意識を維持・向上させることが難しくなりますので、経営理念や方針と一貫性のある人事制度を構築し運用することで、会社の一体感の醸成につなげましょう。
(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)
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