(1)評価者に期待されること
人事評価制度は、経営理念や経営方針に沿った内容で設計し、公正・公平な評価を行うことで、従業員のモチベーションを向上させるとともに、会社が求める人材を育成することが目的です。それには、評価指標の定量化による客観化、評価を適正に処遇や人員配置に反映させる仕組みや適切な運用が必要です。人事評価制度を運用するのは、実際に事業を行っている職場の上司と部下です。上司である評価者に期待されることは、公正・公平に評価を行い、組織の目標達成に向けた役割、業績、能力、態度までを具体化して、部下に伝えること。そして、評価を通じて、あるべき姿と現状の姿のギャップを理解させ、ギャップを埋める支援を行うことです。しかし、すべての評価者がこの期待に応えることは容易ではないため、評価者としての意識づけや教育が必要になります。
(2)評価者が意識すること
評価者が部下である被評価者に、納得性のある評価をするためには、以下の5つの視点を持つこと必要です。
- 評価制度にもとづいた公正・公平な評価
- 評価基準の理解
- 評価基準の遵守
- 日頃から部下の言動の観察
- 評価責任者としての自覚
評価制度は、公正さと公平さが担保されているからこそ従業員から信頼を得られる制度になります。そのため、上司の方はまず、評価制度にもとづいた公正な評価をする意識が必要です。それには、しっかり事前に評価基準を理解してください。疑問点があれば、事前に人事部門や社長などに問い合わせて、疑問を解消します。そして、評価基準を遵守して、評価の客観性を確保します。ご自身の主観で判断してはいけません。評価した根拠を第三者に説明するくらいの意識を持ちましょう。また、日頃より部下をよく観察しておきます。具体的な部下の言動が思い浮かばないと、表面的な評価になり、「何もわかってくれていない」と誤解され、逆に信頼を失いかねません。最後に、上記のことを遂行するために、評価者として自覚を持った思考や行動が必要になります。
それでは、日頃から部下のどのような点を観察すればよいでしょうか?だた、漠然と見ても慣れないうちは、容易にポイントに気がつくものではありませんし、特定の点だけが目についてしまうケースもあります。部下の行動を観察する際の着眼点は、以下の「表1 業務の行動観察の着眼点」の通りです。
表1 業務の行動観察の着眼点
状況や事実の理解 | 指示した内容を正しく理解しているか、他の従業員、顧客や取引先とのコミュニケーションにより状況を正しく把握できるか |
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行動の早さや適切さ | 理解した状況に応じ、適正な判断のもと、適切な行動をしているか。また、迅速に行動しているか |
取り組み姿勢 | 業務へ前向きに取り組んでいるか、自発的に考え行動しているか、行動するにあたり業務を改善しようとしているか、新しいことにチャレンジしようとしているか、など |
協調性 | グループや店舗など同じ職場・組織のメンバーと協働できているか、上司や他の従業員の意見や行動を受け入れているか、チームワークを重視しているか |
専門知識・技術の習得と活用 | 業務の成果を出すために、技術の向上や知識の習得に心掛けているか、身につけた技術や知識を積極的に活かしているか |
評価項目でいうと、業績評価、能力評価、行動評価のうち、能力評価と行動評価にあたるものです。定量的に判断しづらい部分であり、複数の着眼点がありますが、日常からこれらの視点を意識して観察することで、部下の行動の良い点や改善すべき点が見つかりやすくなります。気づいた行動を簡単にノートにメモしておくと振り返る際に、言動を具体的に思い浮かべることができとても役に立ちます。
(3)評価者としての知識と行動を理解する
どなたでも初めから上司になることはありません。必ずどこかの会社に新人として入社し、経験を積んで先輩になり、グループ長などに昇進して上司になります。会社が従業員の業務に一定の評価をしたので、グループや店舗などの組織を統括する管理者に昇進したわけですが、評価者として、評価が適切にできるかは別の問題です。そこで、評価者として、日頃から意識すべきこと、部下の行動の観察の着眼点、面談の進め方などを事前に習得して訓練することで、適正に評価できるようになります。上司と言えども、評価者として初めは誰でも初心者ですので、評価者訓練を行い、最低限の知識を習得させましょう。もし、自社での訓練に慣れていない場合は、専門企業に依頼してノウハウを習得するのも一つの手です。人事評価制度を円滑に運用することで、従業員のモチベーションを向上させ、深刻化する人手不足への対応を進めましょう。
(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)
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