多店舗展開

拡大期へスムーズに移行するために会社が創業期から準備しておくこととは

会社を持続的に成長させるために、ギアチェンジを意識する

「毎日忙しくて業績もまずまずなのですが、店を大きくするところまで手が回らなくて・・・」

これは、新型コロナウィルス感染症が拡大する前に話していた飲食店経営者の言葉です。
このお店は、都内のある駅の近くに出店したところ、立地と提供するサービスがマッチし、売上げが順調に伸びてきました。
そして経営者は、会社の成長を考え始めたところです。

そこで、お話ししたことは、会社の発展には成長ステージがある、ということでした。
会社を持続的に成長させるためには、日々のオペレーションに忙しくているだけでは実現しません。
成長させるための明確なアクションが必要です。

車に例えれば、発進から加速するために、ギアをLowからSecond、Third、Topへと徐々に変速していくようなものです。
経営者には、1年から3年、5年先を見据え、経営方針と経営計画にあった対応策を着実に実行していくことが求められます。

会社の成長ステージは、大きく分けると、以下の4つに分類できます。
1. 創業期
2. 拡大期
3. 安定期
4. 成熟期

ここでは成長ステージの最初のステップであり、今回のテーマである「創業期から拡大期」について説明していきます。

まず創業期では、車のギアと同じで、会社を発進させるための力が必要です。
この時期は経営者や幹部が直接事業活動を行います。
やがて事業が少しずつ軌道に乗ってくると、次第に業容の拡大を図ります。

そして創業期を乗り切ると、いよいよ拡大期が迫ってきます。
拡大期には、創業期のように経営者が力で引っ張っていくのではなく、幹部や幹部以外の信頼できる人材に、仕事を任せていく必要性がでてきます。

拡大の内容は、業種によって異なりますが、飲食店やサービス業であれば、主に商圏や店舗の拡大です。
既存事業を継続させながら、新店舗の出店や新事業を行うことにより業容を拡大させます。

複数の現場リーダーが、それぞれの店舗を仕切るようになり、経営者は全社的な視点で、個別店舗の業績動向を管理したり、出店戦略やサービス展開戦略などを検討・実行したりすることで、会社全体の成長を加速させます。

創業期における問題とは

創業期から拡大期のように、新しいステージへ移行しようとすると、会社には新たな問題が起こります。
成長するには、成長の壁を乗り越える必要があり、無理に進めば会社にひずみが生じるからです。
このひずみを解消せず移行がスムーズに行われないと、拡大後に顧客離れや閉店を余儀なくされる場合があります。

2019年には、飲食の有名チェーン店数社において、閉店のアナウンスがありました。
このような事態を避け、持続的に成長するためには、これまで多くの会社が経験した問題を、事前に把握し、対策を実施すべきです。

では具体的には、創業期から拡大期への移行に伴い、どのような問題が起こりうるのでしょうか?
特に経営や組織、人事に関して挙げると、以下のようなものが想定されます。

・経営者と幹部社員の間での意見の不一致
拡大期に入る前に、今後の拡大戦略について、意見が対立することがあります。
事業を軌道に乗せ拡大を図るには、経営者の力強いリーダーシップは不可欠です。

一方、幹部の協力なしでは、事業を継続できません。
今後も協力関係を維持するには、経営者の方針を強引に進めるのではなく、幹部の意見に耳を傾け内容を理解した上で、最終的に経営者が決断するようにします。

・業務量増加による人員不足
顧客や取引先が増えれば、社員に対する負荷が大きくなります。
人員の補充が必要になりますが、求める人数や能力の見極めが必要です。
その際、現状の延長線上で検討してはいけません。
今後の成長を想定した業務内容の見直しを行います。

なぜなら、人員不足は成長を目指せば、今後も必ず直面する課題だからです。
単なる数合わせで人員を補充すると、人事管理コストや手間の増加とともに、売上げが増えてもコストも上がり、利益が増えずに事業を続ける事態になるかもしれません。
業務の見直しと人材採用・育成計画の両方を実施します。

・経営者や幹部の負担増による業務の停滞やサービス品質の低下
創業期は、経営者や幹部が自ら動き、意思決定することが頻繁にあります。
ところが、経営者の業務量が増えてくると、必要な業務が後回しになったり、投資などの意思決定が遅れたりします。

さらに、限られた時間内で業務を終わらせようとしたり、突然部下に業務を任せたりすると、サービス品質の低下を招き、それが顧客からのクレームや顧客離れにつながる恐れがあります。

・人事管理業務の増加
創業期の人事管理については、主に経営者が担当している企業がほとんどでしょう。
拡大期に入ってもそのまま経営者が担当している場合、人員増により、経営者の人事管理業務に伴う負担が増してきます。

人事管理は、勤務や休日の管理による勤怠管理や給与・賞与、社会保険の支払い、人事評価、人材の採用と配置、人材育成など多岐にわたるとともに、どれも非常に重要です。
誤った運用をすれば法令違反になる場合がありますし、会社の経営理念や経営方針と一貫性がなくては、求める人材と働く社員の間にミスマッチが起こってしまいます。

創業期に会社のベースをしっかり構築する

ではこのような経営や組織、人事の課題に、どのように対処していけばよいのでしょうか?

まずは、経営者は、自社の成長ステージが創業期から拡大期へ変わりつつあることを理解することです。
その上で、1日の会社で過ごす時間の中で、経営計画の策定と人事戦略・管理に費やす時間を確保する働き方へシフトしていくことが必要です。
これらの積極的な取り組みにより、創業期から拡大期への移行時に起こりうる経営や組織、人事に関する問題に対処することができます。

それと同時に、経営者の仕事を任せることができる人材を育成することです。
提供するサービス品質を維持・向上させながら、移行期に起こる様々な課題に対応するためには、自分の代わりに仕事を任せられる人がいるか、いないかがポイントになります。

仕事を任せられる人材とは、自ら問題を発見し解決策を作り実行できる自発的人材です。
経営者の時間シフトと自発的人材育成は、どちらを先にするか、という二者択一の問題ではありません。成長を見越して、意図的に並行して進めることが重要です。

事業拡大計画を成長ステージに合わせて立案し、目標とする出店地域や店舗数、提供サービス内容、売上げと利益などを具体的に見える化します。
そして、この計画にもとづき、必要な人材のレベルと人員数、時期を明確化し、計画的に人材育成を進めます。

場合によっては自社で育成しきれない人材は、新たに採用したり、ある部分だけ専門家へ外注したりすることも必要かもしれません。
人材育成を中心とした自社に必要な人員配置を考える人材戦略、といってもいいでしょう。
今後の成長には、どんな人が何人、いつ必要なのか、を経営者自身が意識することです。

このように経営者が従来の延長線上で忙しくするのではなく、経営方針・計画策定と人材育成を中心とした人材戦略を考えながら、「忙しさ」の中身を変えることで、創業期に将来の成長のための土台が固まるのです。

土台を固める仕事は一見すると地味で後回しにしてしまうかもしれません。
しかし、足場がなければ、人はジャンプできないように、会社も土台がなければ、成長することができません。
会社の土台とは、人材です。会社の土台作りを始めてみてはいかがでしょうか?

(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)

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