多店舗展開

PDCAサイクルを回して常に自社を変化させることの重要性

以前のコラム(事例から学ぶ 事業発展を導く経営計画策定のポイント)で、マクドナルドの復活劇を参考に経営計画策定についてご紹介しました。大企業のマクドナルドの復活に際し、経営理念や正しいプロセスで策定した経営計画を全従業員に浸透させるには、大変な時間と労力がかかったことでしょう。当時全国でパート・アルバイトなどを含め約12万人いた従業員にそこまでしようとしたのは、経営理念や経営計画を共有することの重要性をカサノバ氏が理解していたからにほかなりません。これは中小企業でも同じです。計画は経営者一人では実行できませんし、幹部社員だけが頑張っても成果はでませんので、計画を社内に浸透させ、全従業員が目標達成に向けて自分事として取り組むことが大切です。
これらを実現するためにも、経営計画説明会を実施しましょう。当社がサポートさせていただいた企業のうち、業績好調な企業では、ほぼ間違いなく、全社員を対象とした経営計画説明会を実施しています。現在自社のおかれている状況、経営理念、経営方針、具体的施策などを経営者自ら従業員の前で直接語りかけることで、理解が深まることはもちろんのこと、経営者の本気度も伝わり、従業員が会社と同じ方向を向くことができます。
これを前提として、店長やリーダーなど現場の責任者が、計画を実現するための一人ひとりの役割について従業員と対話します。役割の個人へのブレイクダウンにより計画の実現性が高まるとともに、従業員は会社の一員であることを実感でき、モチベーションアップにつながります。これが計画策定後のPDCAサイクルをうまく回す仕掛けです。

(1)PDCAサイクルを活用し改善策をブラッシュアップ

市場や顧客は経営者の思い通りにはなりませんので、マクドナルドの改善策も全てがうまくいったわけではないと思われます。「うまくいくはず」と想定した改善策を実施しても効果が思うようにでない場合もあります。そのため、計画と実績をもとに、継続的に取り組みをブラッシュアップし続ける活動であるPDCAサイクルが重要になります。計画を立て、実行したら、結果を必ずチェックし、改善策がうまくいったのか、うまくいかなかったのか、その原因は何かを検証して、次のActionにつなげます。
例えば、マクドナルドのヒットメニューはどのように生まれたのでしょうか?200円のお手頃バーガーやセットメニューのバリューランチ、肉の量を2倍にする夜マックなど値ごろ感のあるメニューが支持されたとのことです。新メニュー導入にあたっては、入念な調査や分析にもとづき、顧客ターゲットや味、ボリューム、価格、プロモーションなどを計画します。しかし、計画通りの売り上げになるとは限りませんので、おそらく新メニューの中には、残念ながら期待外れのメニューもあったのではないかと思います。
そこで、新メニューを追加したら販売実績を確認して、導入計画のブラッシュアップを行います。販売が好調であれば、接客面や供給面が対応可能か見直し、売り上げが低迷していれば、原因を分析し改善策に切り替えます。たとえ計画通りいかなくてもすぐにActionすることで、コストや時間のロスを最小化することができます。PDCAサイクルを回すには、経営者の強いリーダーシップと辛抱強さが必要ですが、一度回り始めると好循環が生まれ、企業の競争力を加速度的に高めていきます 。

(2)急速に変わる外部環境変化に対応する

さらにカサノバ氏は、「顧客の志向は常に変わる。挑戦を続け、期待に応える」と語っています。変化が激しい外部環境を認識した上で、自ら変化していく方針です。外部環境変化として、女性の社会進出によるお得感・利便性のある外食ニーズ、高齢化によりシニアが気軽に集まる場所の必要性、2020年に4,000万人を超える外国人旅行者などを見据え、未来型店舗体験として、一部の店舗で接客専門の従業員を配置しました。商品を席まで運ぶサービスを試験的に実施していますが、このような試みこそPDCAサイクルにより、素早いActionが可能になります。

他の飲食店の例では、以前本コラムでご紹介した関東地方を中心に国内で200店舗を展開している串カツ専門店「串カツ田中」です。社長である貫 啓二氏は、成功の秘訣として「不安経営」だと話します。10年、20年先も存続できる会社であるためには、会社の成長ステージや環境の変化によって、「今日、何を改革しなければいけないか」を考えているそうです。これまでに、業界初のほぼ全店全席禁煙の導入や30回以上のソースのリニューアルを行ったと言います。PDCAサイクルを回して、中小企業ならではの素早い行動をとった結果が現在の串カツ田中といえるでしょう。

(3)絶えず自社を変化させることこそが大切

経営計画を策定して実行してもすべてがうまくいくとは限りません。しかし、望ましくないことは、改善策がうまくいかないことではなくて、うまくいっていない改善策をそのままにして変えないことです。結果がでていない改善策を続けることが、コストや時間のロスを大きくさせてしまいます。改善策を効果的にするために、PDCAサイクルを回しながら常に自社を変化させましょう。あるべき経営の方向性を見据えながら絶えず改善策を実施していくことこそが、経営力を強化していくための唯一の道といえます。

(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)

 

 

 

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