多店舗展開

経営計画を作って変化を起こす行動のきっかけにする(中編)

 (1)重要度が増す経営計画策定

環境変化が急速に進む現代において、変化することの重要度が増しており、故にその行動のきっかけとなる経営計画策定の重要度も増しています。事業を継続させていくためには、計画を策定して自ら変化を起こす行動をすることが大切です。
前回の本コラムでは、経営計画を作成する意義や構成について触れましたので、今回は経営理念からポイントを解説します。
前回コラム「経営計画を作って変化を起こす行動のきっかけにする(前編)」はこちら 

経営理念

経営理念は経営者が考える本質的なものを想定します。経営理念が軸となり、経営方針や対応策につながります。言葉を見つけることが難しい場合は、ホームページや広告、店頭などで他社の経営理念を参考にしてみることも役立ちます。また、逆のアプローチとして、改善の対応策を考えた上で、これらの対応策を実施すべきと考えるということは、こういう理念を大切にしているのではないか、と対応策(具体)から理念(抽象)へと逆に考えてみることも、気づきにつながるかもしれません。ところで、経営理念は社外・社内において大きな環境変化がない限りは、頻繁に変えるものではありませんが、経済や市場環境が大きく変わった時や後継者に事業承継した際には、既存の経営理念に縛られず、見直すことを検討することも必要でしょう。詳細は別のコラムでまとめていますのでご参照ください。

・会社を強くするために経営理念が不可欠な理由
・経営理念を浸透させるために必要なこと

経営方針

経営方針は、事業領域や事業の方向性、力を入れること、また、目指すべき全社的な目標です。経営方針により経営計画に意味づけを行い、戦略と具体的施策につなげますので、経営理念に比べて具体性が必要です。例えば、成長している市場をターゲットにしている企業では、会社も積極的に成長を目指し、多店舗展開することや他地域への進出など拡大方針があるでしょう。また、市場が縮小もしくは停滞している企業では、会社の業績をいかに上向きにするかが課題ですので、飲食業であれば、店内での食事提供と持ち帰り対応によるシナジー効果発揮など売上げ増加方針や関連する事業の多角化方針などが考えられます。

具体的には、前回のコラムでご紹介した「串カツ田中」は以下の目標を公表して拡大を目指しています。

  • 「全国1,000店体制を構築し、串カツ田中の串カツを日本を代表する食文化とすること」

また、「和食さと」など和食を中心に全国に400店舗以上展開しているSRSホールディングス株式会社は、中期経営計画の中で基本方針として、以下の3つをあげています。

  • 目指すは『「安くて」「美味しくて」「楽しく満足できる」食事と空間』の提供
  • 社会的インフラとして機能するための一定のプレゼンスを確保=1業態100店舗を目指す
  • 海外での本格展開へ・チャレンジの継続

成長する企業は、社内外に経営方針を発信し、経営者の強いリーダーシップのもと目標に向かって進んでいることがわかります。経営方針が明確で、かつ従業員に共有されているからこそ、従業員視点では、会社の将来に期待を感じることが自分の将来に期待につながり、同じ方向を見て行動できることになります。

内部環境と外部環境

会社が現在置かれている内部環境と外部環境の現状把握をすることは、非常に大切です。現状把握がしっかりできれば、解決のための具体的施策を考えて実行するだけになります。経営計画は、経営理念策定⇒内部・外部環境分析⇒経営方針⇒具体策という戦略策定プロセスとなりますので、最低限の内部・外部環境を把握しないと、経営の方向性を見誤る可能性があります 。

外部環境とは、自社でコントロールができない要因です。例えば、経済状況や市場の成長度合い、雇用状況、競合他社状況などです。総務省が提供する家計調査(https://www.stat.go.jp/data/kakei/2.html)など誰でも無料で閲覧できるホームページがありますが分析が必要です。そこで、生活・消費・サービス産業をカバーし、マーケティング視点でビジネスの動向や消費トレンドを紹介している日経MJや専門誌、業界紙などを定期購読すると環境変化を身近に感じられてよいでしょう。日頃から市場動向に対してアンテナを張っておくことで、外部環境の情報に対する感度が上がります 。

内部環境とは、自社でコントロールできる要因です。経営資源と言われる人、モノ、金、情報に関して、自社の強み(他社との差別化ポイント)を明確にします。経営資源が限られる中小企業は、強みを強化する戦略が第一です。中小企業では弱みがあるのは当たり前ですので、弱みを意識し過ぎず、強みの把握に集中しましょう。例えば、店長の料理の腕前や品質、人気メニュー、評判の高い接客などです。ノウハウに関するものも含めます。さらに、外部とも関連しますが、特別な材料の仕入れルートや御用達にしてもらっている顧客、地域での知名度などもあります。他社と差別化できるポイントをあげてください 。

内部・外部環境分析で重要な点は、細かいことを分析するのではなく、外部環境の大きなトレンドと自社の強みを経営者が把握することです。機会を追い風として活かしながら、自社の強みを発揮することこそが成長につながる戦略だからです。また、現状把握の結果を少なくとも幹部社員と共有して、経営方針など経営計画に反映させることです。経営計画は策定した後に実行することが大切です。それには、経営者だけではなく、具体策を推進する幹部社員の理解が必要だからです。そのために、幹部社員などを含めて定期的にブレーンストーミングをして、内部・外部環境についての認識を統一・共有しておくとよいでしょう。
事業環境が急速に変化する中、経営計画を策定することで、会社を変化させる行動のきっかけにしましょう。

残りの「戦略と具体的施策」、「損益計画」のポイント解説は次回に続きます。

(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)

 

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