(1)経営理念はなぜ必要か
経営理念は、経営者の企業経営に対する「想い」、「基本的価値観」、「企業の存在意義」などを明文化したものです。時間が経っても変わることがなく、ぶれないことが必要です。それでは、なぜ経営理念を作成するのでしょうか?経営理念を策定することによる効果は、以下の様なことが考えられます。
- 経営判断の基準
- 会社のブランドやイメージの確立
- 企業文化、社風、職場風土つくり
- 従業員の行動規範
- 従業員のモチベーションや意欲の向上
事業規模が大きくなれば、経営者一人や数人の従業員で事業を運営することはできません。従業員が増えれば、親族や知り合い以外からの採用はあるでしょうし、また、拠点が増えれば、日頃経営者との距離が遠くなることは避けることができません。小規模であれば、経営者の行動や発言で、会社内を意思統一できていたものが、事業規模の拡大にともない難しくなります。そこで、経営者自らの言動に加え、経営理念を作成し周知することで、経営者の思いを全従業員に伝え、経営者が望んでいる行動を引き出します。
また、経営理念がなければ、会社の提供する製品やサービスでしかその会社を知ることができません。しかし、経営理念を設定することで、顧客に製品やサービスに込められた経営者のメッセージを伝えたり、外部の取引先や金融機関に対して、会社の経営姿勢を経営理念を通じてアピールしたりすることができます。製品やサービスに加え経営理念の共感を得ることで、顧客や取引先と長期の取引の可能性につながります。また、経営理念は経営者の約束と言えますので、経営者の思いを社内外に公表することで、自社の進むべき方向やあるべき姿に近づきやすくなるでしょう。そのため、事業を運営する上で、重要になるものが経営理念です。
(2)経営理念の具体例
実際の会社の経営理念にはどのようなものがあるでしょうか? いくつか事例をご紹介いたします。
- 経営理念
お客様の笑顔 お取引先の笑顔 皆が喜ぶ私の仕事
地域社会も 豊かにします - 経営方針
従業員と共に 夢を実現する経営
お店をきれいにします 美味しい料理を提供します
お客様に喜んでいただく 努力をします
(出典)https://www.pepper-fs.co.jp/corpinfo/policy.php
これはどの会社の経営理念と思いましたか?ペッパーランチやいきなりステーキなどの飲食店を展開する株式会社ペッパーフードサービスの経営理念です。ペッパーランチは、国内海外合わせて’18.12月末で470店、いきなりステーキは同397店を展開するまで成長しています。CEO一瀬邦夫氏は、自社ホームページの代表挨拶の中で、「“ステーキ”をお腹いっぱい食べてもらう、そんな店づくりを考えきました」と語っています。経営理念と経営方針を具体化したものがこのメッセージであり、まさに店舗展開の柱となっているものが、経営理念と経営方針であると言えます。
次に、モスバーガーを展開する株式会社モスフードサービスを見てみます。ハンバーガー業界ではマクドナルドなどの大手やファーストフードでは牛丼店やカレー店、さらに、コンビニエンスストアの拡大などで、外食産業の中でもとりわけファーストフード業界は大変厳しいと言われますが、同社は2018年3月期の決算では売上高713億円を計上し、成長を続けています。その間、外部環境の激変が度々あり、業績が悪化した時もありましたが、揺るぎない経営理念が持続的な成長への取り組みへの原動力になったと想定されます。
- 経営理念(私たちの存在意義)
人間貢献・社会貢献
お客さまや地域社会と深く結びつき、真心をこめたサービスを提供することを通じて社会に貢献しよう
(出典)https://www.mos.co.jp/company/outline/philosophy/
経営 理念に決まりはありませんので、経営者の「思い」、「基本的価値観」、「企業の存在意義」が社内外のステークホルダー(関係者)にわかりやすい言葉で伝わればよいでしょう。
(3)経営理念が持続的成長をもたらす
このように、成長する会社は市場のニーズをくみ取り、それに対応して自社の強みを活かした施策を実行することで成長を遂げます。ただ闇雲に営業や商品開発、人材採用をしても、事業の成長につながりません。そこで、長期的視点で経営計画を作成して、企業の新しいチャレンジのきっかけとし、大きな成果を生むベースとすることが必要不可欠です。経営者の「思い」、「基本的価値観」、「企業の存在意義」を反映した経営理念を策定して発信することが、会社を強くすると言えるでしょう。
一方で、経営者の方と経営理念の話になると、「経営理念をつくったけれども意味がない、効果がない」という声をよく耳にします。経営理念については、つくることが目的ではなく、社内外に浸透させ、事業活動に活かすことがポイントですので、これについては、次回以降に改めてご紹介します。
(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)
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