ある会社では、与えられた業務はしっかり対応してくれるが、少し当事者意識に欠けている社員がいるようです。
これから労働人口が減る日本の社会にとっては、このような社員に当事者意識を持たせて行動させることが必要です。
社員が当事者意識を持って自発的に行動できるようになれば、自律的に業務を改善しながら業務の効率性を高め、顧客に満足してもらえるサービスを提供し続けることができるようになるからです。
そこで、社員に業務に対する目的意識を持たせるためのポイントについてご説明します。
なお、店舗ビジネスのキャリアの限界を突破する「のれん分け制度」づくりや成功のポイントを知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
当事者意識に欠ける社員に頭を悩ます経営者
「社員がもう少し当事者意識を持つようにするにはどうしたらよいのでしょうか?」
先日あるサービス業の経営者の方からこのようなご相談がありました。
コロナ禍において飲食やサービス業など特定の業種では人手不足が続いています。
この会社も例外ではなく、限られた人材でオペレーションすることが必要になっています。
そのためにこの経営者の方は、社員が当事者意識を持って自発的に行動することを期待しています。
しかし、社員の様子はというと、決められた仕事はしっかりしてくれるが、そこから一歩踏み出した仕事の仕方に欠けているようです。
そこでこの経営者の方は、危機感を抱きました。
人材不足は短期的な問題ではなく、少子化が進む日本では長期的な問題であり今後もずっと続く会社の課題と考えられるからです。
また社内の業務の効率性を高め、顧客に満足してもらえるサービスを提供し続けるためには、常に様々な改善が必要であり、社員が自発的に行動するようになることが欠かせません。
目的意識の持ち方で働き方が大きく異なる
社員が当事者意識を持って自発的に行動するためには、社員が業務に目的意識を持つことが必要です。この目的の持ち方が社員の行動や考え方を変化させます。
社員に業務の作業方法を教育することは業務を遂行するために必要ですが、それは手段であり、業務を行う目的ではありません。
人は自分で責任を持ってやろう、と動機づけられたときに自発的に行動します。
手段を覚えて作業するだけでは動機づけられず、作業を繰り返すだけになり、次第に受け身になってしまいます。
そこで、部下に業務に対する目的意識をしっかり持たせるようにします。
ご存じの読者の方もいると思いますが、イソップ寓話に、目的意識の重要性がわかる次のような話があります。
旅人がある道を歩いているとレンガを積んでいる職人を見かけました。
旅人が「何をしているのですか?」と声をかけると、その職人は来る日も来る日も暑い日も寒い日も一日中レンガ積みをしなければならないことに、大いに不満をもらしました。
もう少し歩くと、別のレンガ積み職人を目にしました。
旅人が同じように「何をしているのですか?」と尋ねると、その職人は、「私の仕事は大きな壁を作ることで、このおかげで家族を養っている」と応えました。
さらに進むと別のレンガを積んでいる職人に出会い、旅人は同じように話しかけました。
するとこの職人は、「歴史に残る偉大な大聖堂を作り人々に貢献する」と誇らしげでした。
このように同じ仕事をしていても、目的意識の持ち方で働き方が異なります。
1人目よりも2人目、3人目の方がより活きいきと仕事に取り組んでいます。
1人目は仕事をしていますが、残念ながら目的を持っていません。
2人目は目的意識はありますが生活費を稼ぐのが目的です。
そして、3人目は仕事を大事業ととらえ、社会に貢献するという高い志を持っており、より高いモチベーションで仕事に取り組んでいます。
社員に目的意識を持たせ自発的人材に育てるためのポイントとは
そこで、社員に業務に対する目的意識を持たせるためのポイントをご紹介します。
経営理念を掲げ共有する
社員が自分の仕事に誇りを持つには、会社に誇りを持つ必要があります。
そのために、会社はどのような商品やサービスを通じて社会に貢献するのか、といった経営理念が必要です。
経営理念のスタイルに決まりはありませんので、目標や夢、ビジョンといったものでも構いません。
ポイントは、売上げや短期的視点での活動などではなく、長期的視点に立ちどのように社会貢献するのかということです。
言い換えると、その会社の社会での存在意義とも言えます。
その会社ならではの社会貢献策を自分たちの言葉で語ります。
この経営理念が社会や顧客、社員から共感を得ることで、社員はその会社で働くことを誇りに思い動機づけられます。
そのために、経営理念は社内外にしっかり発信します。
社外に対しては、自社HPで紹介したり、メールの署名や名刺に加えることもできます。
社内に対しては、説明会を設けたり、社内報や掲示物を利用して繰り返し浸透を図ります。
経営目標と個人目標に一貫性を持たせ関連づける
次に、経営理念を実現するための経営方針と経営計画を策定します。
毎年作成して会社の目標を明確にします。
全社の方針や目標があることで、各店舗や各組織の目標や対応策が定まり、組織が自律的に動けるようになります。
上位目標から下位目標まで一貫性を持たせるとともに、社員個人の目標を所属する店舗や組織の目標と関連づけます。
これにより、個人の目標を達成することが会社や組織の目標を達成することにつながり、業務の目的意識が醸成されます。
経営理念と一体化した人事管理制度を整備する
社員に目的意識を持たせるためには、経営理念と一体化した人事制度が欠かせません。
経営理念実現に向けて取り組むのは社員であり、その社員を活きいきと働かせ、取り組む意欲を向上させることを支援するのは人事制度だからです。
経営理念や経営方針実現に向けたスキルを身につけるための人材育成・教育制度や目標達成を公平・公正に評価するための評価制度、有能な人材を適切に処遇する昇進や昇格制度、評価や貢献度合いに応じた報酬制度、経営理念に共感している人材を採用するための採用制度などです。
これらの3つのポイントに加え、もう1つ大切なことがあります。
目的意識を持たせるためには、社員が自ら目標を立て、有言実行するように支援することです。
人は与えられた目標では他人事として捉えがちですが、自分で立てた目標であれば主体的に目的意識を持って取り組みます。
そこで、社員との対話を通じて、社員から目標や行動計画を提案させます。
そして、行動計画に合意したら、その仕事は任せます。
できるだけ口出しや手出しを避け、社員自身で取り組めるようにします。
上司は社員がその業務を達成できるようにスキル向上などの技術的な支援や、業務のヒントを与えたり励ましたりするなど精神的なサポートを心掛けるとよいでしょう。
(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)
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