のれん分け制度というと飲食店や美容院の仕組みといった印象が強いですが、特定の業種にしか当てはめられないものではなく、幅広い業種への応用が可能な仕組みです。
実際、当社には飲食店や美容院以外にも、トレーニングジム、整体院、エステ等のサロン、学習塾、士業等、実に多種多様な事業の経営者からご相談をいただいております。
なお、のれん分け制度について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
これらの事業者は事業内容こそ千差万別ですが、実際にのれん分け制度の導入に至った事業者の事業特徴を整理してみると、のれん分け制度の導入が向いている事業の特徴が見えてきます。
具体的には、以下のような事業特徴のある事業者においてのれん分け制度を導入することが多いようです。
(1)労働集約性が高い
労働集約性とは、事業展開をしていくうえで人の労働力に頼る割合をいいます。
その割合が高い産業を労働集約型産業といいます。
例えば、マッサージ事業は応対するスタッフに提供サービスのほぼ100%を依存しますから、労働集約性の高い事業の典型といえます。
逆に労働集約性の低い産業を資本集約型産業といいます。
労働集約型産業は、労働者一人が時間当たりに生み出せる価値が資本集約型産業と比較してどうしても少なくなってしまいます。
例えば、資本集約型産業の代表格である製造業の場合、機械を導入することによって少ない労働力で大きな価値を生み出すことができますが、労働集約型産業の代表格であるマッサージ事業の場合には、スタッフ一人が一度に相手できるお客様は1名だけですから、生み出せる価値に自ずと限界が生じてしまうのです。
一人の労働力で生み出せる価値が少ないということは、その分だけスタッフに対して支払う給与の原資も少なくなってしまいます。
また会社の利益を大きく増やしていくためには働くスタッフを増やしていくことしかありませんが、人材の確保・育成には時間がかかりますから、どうしても売上成長のスピードも遅くなってしまうのです。
このような背景から、労働集約型産業では、資本集約型産業と比較して働くスタッフに対して待遇面で報いることは困難となります。
待遇アップがそれほど期待できない環境で働くスタッフの立場から見れば、その会社で長期にわたって働くメリットがありませんから、労働集約型産業で働く従業員は、独立志向が高くなりがちです。
このような人材を社内に引き留めることは困難ですから、独立するにしてものれん分けという形でグループ内にとどまってもらう、と考える経営者が多いのです。
(2)ノウハウ習得に一定時間が必要
会社の仕組みの整備状況にもよりますが、基本的には事業内容によって新人スタッフが戦力となる(必要なノウハウを習得する)期間は大きく異なります。
1か月間である程度戦力とる事業もあれば、本格寿司店のように数年~数十年の経験を経なければ戦力とはならない事業もあります。
ノウハウ習得に時間がかかる事業の場合、仮に熟練スタッフが退職してしまったときにその穴を補うことができるスタッフがいなければサービス品質が大きく低下することとなります。
また、前述の通り人材の確保・育成には時間がかかりますから、その間ずっとサービス品質が落ちたまま事業展開をせざるを得なくなります。
したがって、育成したスタッフをいかに定着化させるかが企業の競争力を維持していくうえで極めて重要なポイントとなります。
このようなケースにおいて、のれん分け制度により当該スタッフをグループ内にとどまってもらうことも有効な方策の一つです。
(3)スタッフに顧客が付く
「スタッフに顧客が付く」特性のある事業の場合、スタッフの退職とともに顧客をごっそり持っていかれるような事態に陥ることが往々にしてあります。
例えば、美容院における美容師の退職、フィットネスジムにおけるインストラクターの退職、等があげられます。
このような事業特性がある場合、スタッフの退職が当該企業に与える影響は「労働力が失われる」ということに加えて「顧客基盤が失われる」というダブルパンチとなりますから、スタッフの退職に対してはできる限りの予防策を講じることが望ましいものといえます。
美容業界においてのれん分けが発展している要因はここにあるものと思われます。
スタッフの退職とともに顧客も失われてしまうような事業特性がある場合には、のれん分け制度によってスタッフと顧客、両方をグループ内にとどめる方策は極めて有効な手段といえます。
以上、のれん分け制度の導入が向いている事業の特徴をご紹介いたしました。
上記のような特徴のある事業を展開されている場合には、のれん分けによって問題が解決できないか、検討してみるのも一つの考えではないでしょうか。
のれん分け制度を導入する際の留意点について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
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