人材育成

キャリアプラン立案の際に役立つ2つの異なる視点とは

会社としてその若い世代の能力開発を支援するために、将来社会で通用する能力を確実に身につけさせるためのキャリアプランを構築する際に役立つ2つの異なる視点をご紹介します。
それは、フォワードキャスティング・モデルとバックキャスティング・モデルです。

これらには、それぞれメリットとデメリットがありますので、両方の視点でバランスをとりながらキャリアプランを立案、見直しすることが将来のあるべき姿へ向かう一歩になります。
なお、店舗ビジネスのキャリアの限界を突破する「のれん分け制度」づくりや成功のポイントを知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。

事業拡大したい経営者必見!のれん分け制度をつくる7つの手順と、成功の3つのポイント

(1)キャリア構築にはまず自分の将来のあるべき姿を描く

キャリア構築の際には、どのような点に留意してキャリアプランを立てればよいのでしょうか?
現代の若い人は、不確実性の高い将来に多くの不安を抱えているため、会社に頼らず社会で通用する能力を身につけて自律したいと考えています。
同時に、少子化の社会で個を重視して育てられた人が多く、自尊心がとても高い特徴があると言われています。

その若い世代が会社で毎日の仕事を進めるなかで、自分のスキルは高めたいと思いつつも、自分の好きな仕事ばかりに取り組んでいたり、環境の良い職場に長く身を置いたりしていると、期待したキャリア構築にはなりません。
5年10年後に結果的にこういうキャリアになりました、という結果論的なキャリア構築になってしまいます。

会社として若い世代の能力開発を支援するために、このような事態を避け、将来社会で通用する能力を確実に身につけさせるために、自分自身の方向性を見定めて構築したキャリアプランにもとづき働けるようにします。
そこで、キャリアプランを構築する際に役立つ2つの視点をご紹介します。

(2)キャリア構築の正攻法:フォワードキャスティング・モデル

1つ目の視点は、フォワードキャスティング・モデルです。
自分の将来のあるべき姿を想像し、これまでに取り組んだ内容や現状の能力を評価したうえで、今から1~3年以内に身につけるスキル、3~5年後に取り組むべき内容、5年以上先に取り組むべき課題を想定し、取り組み内容を時系列で計画します。

そして、社会環境の変化や自分の成長度合いに応じて、定期的に見直しを行います。
この方法は誰もが考えやすい正攻法的な思考法で大いに活用できます。

しかし、デメリットが1つあります。
それは、視点のスタートが現在位置のため、見ている時間軸の範囲が今から数年の直近になりやすく、あるべき姿を描いていたとしても思っていたところと違う方向に進んでしまうことがあることです。
違う方向に進んでしまったと気づいたときに年単位の時間が経ってしまっていると、失ってしまった時間を取り返すことができません。

(3)ゴールに向かうための有効な方法:バックキャスティング・モデル

この違う方向に進んでしまうリスクを排除し、望ましい方向に進んでいるか確認できる方法があります。それは、バックキャスティング・モデルです。

これは、フォワードキャスティングと逆の方向から取り組みを見る思考法です。
つまり、あるべき姿から視点をスタートし、そのゴールを達成するために逆算で取り組むべきことを将来から現在にさかのぼって計画します。

10年後のあるべき姿を設定したら、8~10年後に取り組む内容、5~7年後に取り組む内容、5~3年後に取り組む内容、現在~3年以内に取り組む内容といった具合です。
このように逆算で取り組む内容を検討、立案することで、将来のあるべき姿への道筋から脱線することを防げます。

以前、野球場のグランドのベテラン整備員の方の話を聞いたことがあります。
現在の多くのメジャーな球場はほとんど人工芝になってしまいグランド整備の仕方が変わってしまいましたが、かつては土のグラウンドだったため、試合ごとにホームベースから左右の外野ポールまでファールラインをひく必要がありました。

ファールラインはまっすぐでなければなりません。
そのため、多くのグランド整備員の方は、メジャーをピンとはって伸ばし、その上から石灰の粉でファールラインをひきました。

ところがあるベテランの方は、メジャーを使わずにホームベースからポールまで直線がひけたとのことです。
慣れていない人が白線をひこうとすると必ず手元を見るため、ひいた線が気づかないうちに左右にぶれた線になってしまいます。
ところが、そのベテラン整備員の方は、なんと手元を一切見ずに、ゴールであるポールだけを一直線に見て直線をひけたそうです。

これはこのバックキャスティング・モデルとよく似ています。
先のゴールを見定めることで進むべき道をまっすぐに進むことができます。
もちろん、手元を見ずにまっすぐ直線をひくための高度な技術は必要ですが、この方法により曲がらずにゴールに到達できることを示しています。

(4)キャリアプラン立案の際に2つの異なる視点を活かす

一方、バックキャスティング・モデルのデメリットとしては、この思考法でキャリアプランを計画すると、計画にムリが生じた場合にそのしわ寄せが現時点にでてしまうことです。
具体的には、今やるべきことは明確になったが、現状のスキルと乖離が大きい、もしくは今それに取り組むための十分な時間やお金がないなどといった課題に直面します。
その結果、やる気を失ったり、ゴールをやさしくしたり、あきらめたりといったことが起こる場合があります。

それでは本末転倒です。
そこで、キャリアプランを立案、見直しするときには、フォワードキャスティング・モデルとバックキャスティング・モデルの両方の視点でバランスをとりながら行います。
これにより、スタートしやすい計画となり、毎年など定期的に見直しする際にも効果的になります。

歩んでいくキャリア(経歴)が実行的になるとともに、途中大きくそれずにあるべき姿(ゴール)に到達しやすくなります。
「着眼大局、着手小局」という言葉がありますが、これは、将来の大きいものを目標としつつ、今すべきことの一つひとつは小さいことである、ということを意味しています。
このように、2つの異なる視点を活用しながら、キャリアプランを立案し見直していくことが、将来のあるべき姿へ向かう一歩になります。

(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)

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