現在の飲食業界は過当競争に陥っており、いまや飲食店が存在しない地域はありません。参入する市場に競合がいる以上、ありきたりのお店や他店と違いのないお店では、お客様からなかなか選んでもらうことはできません。飲食店開業時によくある失敗は、様々なお客様のニーズを取り込むためにあれもこれもと取り組んだ結果、結局何がウリのお店なのかがわからなくなってしまうことです。お客様から選ばれるお店となるためには、お店の個性を明確化することが求められます。
個性のある飲食店として選ばれるためには、「市場の中のニッチ=隙間」をうまく見つけ、そこを磨いていく必要があります。ターゲットとする顧客像を具体的に想定し、「その顧客にとって最高のサービスは何か?」を深掘りして考え、店舗作りに反映させることは、その代表的な手法といえます。以下より、具体的な考え方を紹介します。
対象とする顧客像や利用シーンをとことん考える
開業する業種・業態は決まったとして、どんなお客様を想定しているでしょうか。
ラーメン屋の場合だと、とにかくおなかをいっぱいにしたい学生、というのも一つの典型的な顧客像ですし、魚介系つけ麺ばかりを食べ歩いているラーメン通、というのもあるでしょう。ラーメン通においしいと認めてもらえると、ネットで拡散してくれることも多いので、リピーターが一人増えた以上の影響力が期待できます。
では、ボリュームたっぷりの魚介系つけ麺で勝負、と思っているのでしたら、少し立ち止まって考えてみることが必要です。その市場は顧客数も多い市場ではありますが、すでに強敵がしのぎを削っている市場ではないでしょうか。競合店と比較された場合、競合店よりも良い評価を得て勝ち残っていけるでしょうか。飲食店を開業する際には、この点を注意して分析することが大切です。
ラーメン屋であれば、店の外観やサービスより、一番大事な点が味であることは間違いないのですが、それはどこのラーメン屋も注力していることですから、味で他のラーメン店よりも高い評価を得ることは容易なことではありません。一方、対象とする顧客像や利用シーンを少し変えてみることによって、いわば「ラーメン市場の中の隙間」での戦いに持ち込むことが可能です。
ラーメン屋というのは、若者から中年までの味にこだわりのある男性のお客様が圧倒的に多く、その中でも一人利用が多い特徴があります。一般的には「味にこだわる男性客の個人利用」を対象としたお店にすることが良いように思えます。しかしながら、そこは激戦市場であり、厳しい戦いを勝ち抜いていかなければなりません。そこで、あえて「男性客のデート利用」を対象としたお店にすることを考えてみます。どんなラーメン屋だったらデートのときに行ってもよいと感じるか、このような発想をすると「野菜が多い」「低カロリー麺」「シェアしやすいカップルセット」「カフェのようなオシャレ空間」「プライバシーが保てる二人掛け」など、さまざまなアイディアが出てくるはずです。この例が成功するとは限りませんが、デートではうまくいきそうもないと思えば、高齢者やママ友が入りやすいお店など、他の顧客像や利用シーンでも考えてみることもできます。
また、同じサラリーマンのお客様でも「ランチの時はこってり系のラーメンが食べたいが、飲み会のあとのシメで行くのなら、あっさりしたスープが良くて、やっぱりもう一本だけビールも飲みたいな」というニーズが出てくるかもしれません。このような利用シーンによる違いにも着目する必要があります。
勝てる確率の高い戦いを見つける
色々な想定顧客層を比較してみた結果、「やはりうちのお店はがっつりガテン系だ!」というのならそれも立派な選択です。ただし、単純に麺のボリュームだけにこだわるだけでは、前にも述べた通り熾烈な競争に参入することになってしまいます。そのような場合は、どこのポイントであれば競合に勝てるかを考えてみることが効果的です。例えば、前の例でいえばサイドメニューの半ライスに工夫をこらして、「セットの高菜めしが日本一うまい店」をウリにするというのも一つの手といえます。「麺と魚介系スープで日本一」というのも夢として大切なのですが、そこは何十年も戦ってきて評価を確立している先輩飲食店に追いつくのは大変な労力と時間がかかります。市場にどんな競争相手がいるのかを良く観察し、新規参入でも勝てそうな戦いを見つけ、まずはそこに全力を投入して勝ちに行くほうが賢明な作戦と言えます。
価格帯も隙間の一つ
市場の隙間を見つけるという意味では、価格帯も一つのポイントです。一つの業種でも、大手が激しく最安値競争している価格帯の店と、1年に1回行くような高級店とに二極化していて、その間の価格帯は需要も限られる代わりに強い競争相手もいない、という状況がしばしば起こります。中間的な価格帯で来るお客様はどのような人で、どういう利用シーンなのか、ということを見抜くことができれば、その価格帯での圧倒的な支持を得ることも不可能ではないのです。
どの業種でも基本は共通
もちろん、これはラーメンに限りません。イタリアンでも居酒屋でも、開業前に想定顧客を考え抜き、「ここだけは絶対に競争相手に勝つ!」という小さな戦いで一番になることが大切です。これによって「選ばれる店」「行く理由のある店」になることが可能になるのです。
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