費用対効果がわかりづらいため、どちらかというと人材育成に時間とコストをかけることには消極的な中小企業がまだ多いようです。
しかし日本の生産性が諸外国より低いことが経済成長低迷の要因とされているなか、お金と人の関係を定量的に分析するレポートが、複数の研究機関から最近多く出てきました。
あるレポートでは、教育訓練投資は生産性に正の寄与をしており、製造業よりもサービス業において生産性に与える効果が大きいという研究成果が示されています。
さらに、人材への投資はこれまで主に教育訓練について行われてきましたが、最近では健康に関する投資の重要性も高まってきました。
安全、安心な環境で健康に働けることが条件だからです。
そこで、自発的人材育成のために大切な健康投資の状況や効果について、ご説明します。
なお、店舗ビジネスのキャリアの限界を突破する「のれん分け制度」づくりや成功のポイントを知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
コンテンツ
(1)人材育成に投資する中小企業は少ない現実
「人材育成にはどのくらいの時間とお金をかけるべきでしょうか?」
これは先日お会いした時に伺った都内でサービス業を営んでいる経営者の方の言葉です。
最近ビジネス書や雑誌を見ると人材育成についての話題がとてもクローズアップされていることにふと気がついたそうです。
これまでも社員を育てることは大切と考えていましたが、他の対応策と異なり費用対効果がわかりづらいため、どちらかというと人材育成に時間とコストをかけることには消極的でした。
このお話を聞いたときに、実に率直な意見であると筆者は感じました。
大企業では深刻になる少子化や創造性を高めるための人材の多様化対策として人材に投資する企業が増えてきましたが、中小企業ではまだ少ないのが現実のようです。
(2)人材はヒト、モノ、カネ、情報の4つの重要な経営資源のうちの1つ
どの経営者もお金にはシビアです。
お金はヒト、モノ、カネ、情報の4つの重要な経営資源のうちの1つであり、明らかに投資や費用の使途が厳選されます。
同様に人材も極めて重要な経営資源の1つですが、社員は資産として貸借対照表に載っていないからとか、投資しても成果が出るかわからないから、退職してしまうリスクがあるからなどといった理由により投資が後回しになっています。
お金の方が人よりも大切とされているかのようです。
しかしよくよく考えれば、社員がいなければ事業を一切推進できませんし、改善や発明もないのです…。
(3)人材への投資は製造業よりもサービス業の方が効果が大きい
日本の生産性が諸外国より低いことが経済成長低迷の要因とされているなか、お金と人の関係を定量的に分析するレポートが複数の研究機関から最近多く出てきました。
あるレポートでは、日本ではこれまで人的資本(人材)への投資が伸び悩んでいたにもかかわらず、他の先進国では比較的単純な業務を海外に移転し、代わりに国内でデザインや研究開発を行う体制へと変化し成長してきたことが示されています。
これは製造業に限ったことではなく、サービス業においても同様の結果のようです。
製造業とサービス業における企業の教育訓練投資と生産性・賃金の関係について分析したもののなかには、教育訓練投資は生産性に正の寄与をしており、製造業よりもサービス業において生産性に与える効果が大きいという研究成果もあります。
(4)教育訓練投資に加えてもう1つ重視したい人材への投資内容とは
さらに、人材への投資はこれまで主に教育訓練について行われてきましたが、最近では健康に関する投資の重要性も高まってきました。
人が仕事で成果を出すためには教育訓練は欠かせませんが、安全、安心な環境で健康に働けることが条件です。
従来では、水道の蛇口をひねれば安全な水が出てくるといったような当たり前すぎることは関心を集めませんでしたが、最近では環境や健康に多くの関心が集まり、この重要性について注目されてきました。
人が健康になれば、それだけ長く働けるようになり、企業は教育訓練投資の回収がしやすくなるため投資のモチベーションも高まります。
また、人が教育訓練を受けて知的になれば、多くの確かな情報にアクセスできるようになりいっそう健康になるといった好循環が生まれます。
このような環境や健康への意識が高まった社会では、安心、安全な職場に健康な人がますます集まります。
こうして多くの健康な人が集まった職場だからこそ、人は活きいきと前向きに働けるようになります。
そして、仕事はいつでも楽しいものではありません。
時には難しい課題に直面したり、うまく進まないことがあります。
現代は不確実性の時代と呼ばれ簡単に解決策が見つからないような問題も多く発生しています。
その解決のためには、早期に問題に気がつき原因を見極め、試行錯誤しながら必要な対応策を限られた時間のなかでとることであり、それには社員が自ら自発的に行動する必要があります。
つまり、社員が能力を発揮するための教育訓練と健康に対する投資がより重要なのです。
実際に、経済産業省は健康経営を積極的に推進しており、健康経営優良法人を認定するなどして認知と定着を図っています。
なかには上場企業も含まれており、健康経営銘柄に選ばれた企業の企業価値の伸びを検証したレポートもあります。
それによると、健康経営銘柄に選ばれた企業は、健康経営が充実することで社員がやりがいを持って活きいきと働けるために生産性が高まるとともに、市場でそのような取り組みが評価され企業価値が高まるといった効果がありました。
これは上場企業だけに言えることではありません。
健康経営を行うことを宣言、実践、公表することで中小企業にとっても生産性が高まると考えられます。健康な職場に健康な人が集まるといった好循環が期待できます。
具体的には、健康経営の実践として、健康診断受診率や運動習慣者比率を高めたり喫煙率を下げたりする取り組みや、適正体重維持者率やメタボ該当率などのモニタリングです。
社員任せにせず、組織として啓蒙活動や推進を行います。
(5)非認知的業務に携わる人材が育つ環境を整える
また、このような社会の成熟化が進むと、社員は知的な業務を求められるようになると同時に、自らも求めるようになります。
単純な作業や定型業務は、機械化やIT化、さらにAI化やDX化がさらに進むからです。
人はITやAIが対応できないデザインや芸術などの創造性、おもてなしや思いやりなどの感情への働きかけ、新しい発想や発明などの創造性といった非認知的業務に携わるようになります。
こういった能力を一人ひとり異なる社員が身につけ自発的に行動するからこそ、会社全体の人的資産が高まり会社に貢献するようになります。
つまり会社を成長させるために人材の育成が急務であり、そのためには、積極的な教育訓練と健康への投資を行い、成長の土壌となる環境を整えることが大切です。
(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)
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