(1)生産年齢人口の減少
近年、人手不足の問題は深刻化の⼀途です。最近では、新聞紙上などマスコミで頻繁に報道されるようになり、また、バブル期以来の人手不足倒産という言葉も聞くようになりました。
人手不足問題は、突然起こった問題なのでしょうか?背景を理解するために、まず日本の人口の推移を見てみましょう(図1)。総務省の「国勢調査」によれば、総人口は、2008年をピークにすでに減少に転じています。これは皆さんもよくご存じのことと思います。それでは、人手不足を把握するために、労働力の中心となる15歳~64歳の人口層である生産年齢人口はどうでしょうか?図1の緑の層の部分です。これを見ると、実は少子高齢化の進行により、生産年齢人口は総人口の減少より10年以上も早く1995年の87百万人をピークに減少に転じていました。さらには、2010年から2015年の5年間で、6.3%減少しており、2005年から2010年の減少率3.6%に比べ、変化が大きくなったため、人手不足問題が一層顕著になってきたと言えます。
そして、図1は、現状の問題だけではなく、将来の課題も示しています。今後日本の生産年齢人口は増えず、労働力の供給が継続的に減っていく見通しです。人手不足問題は、一時的な問題ではなく、将来にわたり継続的な問題として認識し、長期的な取組が必要になることを示唆しています。
図1 人口の推移(単位:百万人)
(出典)総務省 「我が国の人口の推移」より筆者作成
(2)外食産業市場は増加している
それでは、飲食業の求人を把握するために、外食産業の市場動向を見てみましょう(図2)。平成27年度の外食産業市場は29.2兆円で、前年の平成26年度に比べて、1.8%増加しました。人口は減少していますが、共働き世帯や比較的消費に回せるお金の多いシニア層の増加、ライフスタイルの変化などが増加要因と思われます。
業態別では、「すし・回転すし・宅配すし」の増加率が最も大きく5.1%、次いで「持ち帰り弁当・惣菜店」5.0%、「カフェ」4.3%、「ファミリーレストラン」3.2%となっています。一方、減少率が大きいのは、「居酒屋・パブ・ビアレストラン」-6.2%、「洋風ファーストフード」-3.8%、「ピザ・パスタ店・宅配ピザ」-1.0%となっています。
若年層のアルコール離れ、職場での飲み会減少、節約志向などライフスタイルの多様化などにより、業態別では変化があるものの、外産業全体としては拡大傾向となっているため、労働力確保が重要な経営課題となっていると言えます。
図2 外食産業市場規模
(出典)矢野経済研究所「2016年版外食産業マーケティング総覧」より筆者作成
(3)増加する飲食サービス業の新規求人数
外食産業市場が伸びていることがわかりましたので、労働力の需要にあたる求人は増加しているでしょうか?厚生労働省の「労働資料分析レポート」(図3)によると、産業全体で、平成28年の新規求人数は対前年比5.5%増と平成27年の3.5%増と比べて増加幅が拡大しています。新規求人数の増加を産業別でみると、「医療,福祉」が最も大きく、「宿泊業,飲食サービス業」、「卸売業,小売業」の順となっています。「宿泊業,飲食サービス業」の増加率は、平成26年0.5%、平成27年0.8%、平成28年1.1%と、ここ数年増加率が上昇しており、産業全体として求人が増えている中、一層労働力が不足していることが伺えます。
図3 新規求人数(パートタイマー含む)の増加率と産業別内訳
(出典)厚生労働省 「平成 28 年の求人倍率の概要」より転載
(4)重要になる人材確保のための人事施策
結果として、雇用情勢の改善が続いています。厚生労働省が平成30年1月30日に発表した平成29年平均の有効求人倍率は前年比0.14ポイント上昇の1.50倍となりました。上昇は8年連続で、過去最高だった1973年(1.76倍)以来44年ぶりの高水準となっています。9年前の2009年は0.47倍で、1つの求人に対して2人の求職者がいるという状況でしたので、雇用情勢は大きく様変わりしています。
働き手が減る中で、優秀な人材を採用したい企業は増加しており、採用も顧客を確保するのと同様競争の時代となっています。深刻化する人手不足問題を解決するためには、他社よりも自社で働くことが魅力的であることをアピールし、競争に勝たなければなりません。そのためにも、例えば会社が目指すビジョンを従業員に共有して夢を持って働ける環境を整備する、従業員の努力や能力を適正に評価する仕組みを構築するなど、会社にあった人事施策を導入することが必要であると言えるでしょう。
(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)
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