多店舗展開

多店舗展開を進める企業が注意すべき情報伝達経路の断絶

「本部で決定した方針がなかなか現場に浸透しません。どうしたら現場での実行度を高めることができるのでしょうか」
これは、先日当社にご相談に来られた鍼灸整骨院を6店舗経営する企業経営者から質問いただいた内容です。
店舗ビジネスで多店舗展開を進めていく際、往々にして問題となるのが、本部方針等の現場浸透です。本部方針に基づき各店舗を行動させることの難易度は、組織の拡大とともに着実に高まっていきます。5~10店舗を展開したところで成長が鈍化する企業をみてみると、この点がボトルネックとなっているケースが多く見られます。
強いチェーンになるためには、本部が決定した方針を、現場で即座に、かつ高い水準で実行できる体制を作り上げることが求められます。これを実現するためには、店舗展開で伸び悩む企業の多くが陥いる“情報伝達経路の断絶”という落とし穴を克服する必要があります。

(1)情報伝達経路の断絶とは

一般的な店舗ビジネスチェーンであれば、経営者⇒事業部長⇒スーパーバイザー⇒統轄店長⇒店長⇒一般社員⇒アルバイトスタッフといった情報伝達の流れがあります。本部で決定した方針が現場に浸透しないのは、経営陣から店舗スタッフまでの情報伝達経路のいずれかが上手く機能していない=断絶が生じていることが原因です。
このようなお話をすると、「当社では、会議を通じて現場スタッフまできちんと情報共有してますよ!」と反論を受けることがあります。そこで、そのようなお声をいただいた場合には、本当に現場スタッフまで情報共有がなされているのか、「経営者⇒事業部長」、「事業部長⇒スーパーバイザー」といったように情報伝達経路の流れにある各ポイントで、“いつ”、“どのような内容”が“どのような形”で共有され、“その結果がどうだったのか”を一つ一つ確認していくことにしています。
このように一つ一つのポイントを細かく確認していくと、どこに問題があるのかが明確に浮き上がってくることがわかります。なぜならば、情報伝達経路が機能している場合には、先ほど申し上げた4つのポイントに対して経営者が明確に応えられることができるのに対して、情報伝達経路に断絶が生じている場合、この内容の抽象度が明らかに増してくるからです。
このことが明確に出やすいのが「店長⇒スタッフ」のポイントでしょう。この点について、本部方針等の現場浸透度が低い企業からの回答は「ミーティングをやっているはずです」「店長からしっかりと伝えているはずです」等といった抽象度の高いものとなることが多いのです。もうお気づきかもしれませんが、これは希望的観測であり、事実ではありません。経営陣の認識に希望的観測がある場合、ほぼ間違いなく、その点に情報伝達経路の断絶があり、現場の実行度合いが高まらない要因となっています。
大切なことは、自社の情報伝達経路の各ポイントにおいて、“いつ”、“どのような内容”が“どのような形”で共有され、“その結果がどうだったのか”を経営陣が把握できている状態にすることといえます。これらを把握することによってはじめて、自社の経営方針が現場に浸透しない要因がどこにあるのかを特定でき、必要な打ち手を講じることができるようになります。

(2)強固な情報伝達経路を築く際のポイント

それでは、断絶の無い情報伝達経路を築き上げるためにはどうすべきでしょうか。当社としては、以下の観点から情報伝達経路の見直しを行うことをおすすめてしています。

①自社内の情報伝達経路の特定

はじめに、経営者⇒事業部長⇒スーパーバイザー⇒統轄店長⇒店長⇒一般社員⇒アルバイトスタッフといった情報伝達経路がある中で、各ポイントが、“どのような形態”、“頻度”で情報伝達がなされているかを明らかにします。情報伝達経路の形態としては、会議、面談、電話、メール等、頻度としては、年、半年、月、週、日単位等があります。
大切なことは、様々な形態を組み合わせて、情報伝達の頻度を確保することです。少なくとも、月単位、週単位(もしくは月単位、日単位)では情報伝達頻度を確保するべきでしょう。「会議を月1回やっているから大丈夫」という考えには注意しなければなりません。

②情報伝達内容や方法の標準化

次に、情報伝達する内容や方法を社内で統一します。特にマネージャー以下の情報の流れを各責任者にゆだねている企業が多いですが、そのことが、社内における経営方針等の浸透度合いにばらつきを生む要因となっているケースを多く目にします。どのようような資料を使って、どのような説明をするのか等、必要な情報が漏れなく、確実に届くために情報伝達内容や方法がどうあるべきかを明らかにします。

③情報伝達結果の把握

最後に、情報伝達が行われた結果どうだったのかを経営陣が把握できるようにする必要があります。最低限、情報伝達日時、情報伝達の内容や方法、情報伝達した際の結果や反応の3点は把握しておくべきでしょう。どのように把握するかは組織レベルや風土によって異なりますが、例えば「ミーティング実施後に上記3点を報告させる」ことなどが考えられます。経営陣が、情報伝達経路の各ポイントにおける状況を把握することで、自社内の情報伝達経路のどこに問題があるのかを特定し、必要な対策を講じることができるようになります。


店舗が10店舗、30店舗と増えるにつれ、この情報伝達経路の重要性は増し続けていくことになります。実際、店舗展開を加速している企業のお話を聞いてみると、経営方針等が現場で実行されるまでの情報伝達の流れが明確で、かつ強固なものになっています。もし、現在の本部方針の浸透度合いに課題を感じているのであれば、一度自社内の情報伝達経路を見直してみることをおすすめします。

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