ある人材育成に関する調査によると、従業員の能力開発・向上を図るため教育訓練・研修を実施したかどうかを尋ねたところ、比較的社員規模の大きい会社では約7割が実施したにも関わらず、規模の小さい会社では3割以下に留まっていることがわかりました。
人材育成に手が回らないことを、会社の規模が小さいことを言い訳にしていては、規模の小さい会社はいつになって成長できません。
人材育成を会社の重要な経営課題の1つとして捉え、今すぐに取り組むことが大切です。
今回はその重要性について解説します。
なお、店舗ビジネスのキャリアの限界を突破する「のれん分け制度」づくりや成功のポイントを知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
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規模の小さい会社ほど人材育成まで手が回っていない様子
「最近人材育成に関する記事をよく目にするのですが、我が社はなかなか思うように進んでいないのですが」
これは先日セミナーに出席していた経営者から伺った言葉です。
この経営者の会社は都内で、社員10人未満のサービス業を営んでいます。
幸いにも顧客から引き合いがありますが、社員が不足し、十分に需要に応えきれていません。
今後さらなる売上拡大を目指すには、現場を担当する社員により多くの仕事を任せていく必要があるため、仕事の目的や中身を理解し、スキルを身につけたリーダークラスの育成が課題だと認識しています。
しかし現場での仕事が忙しく、なかなか人材育成まで手が回らないようです。
また社員の定着率も1つの懸念材料です。
社員の数が限られているなか、主力の社員に離職されてしまっては、現在の業務も対応できなくなってしまいます。
公的機関が提供しているいろいろな支援策で社員の定着率を高めることが必要であるとも感じています。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」によると、従業員の能力開発・向上を図るため、通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練・研修を、2019 年度に実施したかどうかを尋ねたところ、比較的社員規模の大きい「300 人以上」の会社では 71.9%が実施したにも関わらず、規模の小さい「10~29 人」では 31.5%、「9 人以下」では 15.8% に留まっていることがわかりました。
また、自己啓発に対する支援を行ったかどうかについても規模に応じて同様の結果でした。
つまり、規模の小さい会社では、人材育成に対する社員への支援が十分ではありません。
社員の定着率を高めるために「能力開発や教育訓練」支援がとても重要
また、社員の定着率を調べたところ、入社後 3 年を経過しても辞めずに勤め続ける人の割合は、規模別にみると、6~9 割とする回答割合は、おおむね規模の大きい企業ほど高かったそうです。
規模の小さな会社は社員数が少ないため、10割、5割、0割などの回答もあったそうですが、総じて、規模の大きい会社の方が定着率は高くなっています。
そこで、定着率を高めるために重視している施策を見てみると、「長時間労働の抑制」、「福利厚生の充実」、「能力開発や教育訓練」などを多くの会社が実践していました。
社員を支援する施策を充実させることが必要であり、そのなかの1つとして、「能力開発や教育訓練」がとても重要であることがわかります。
「能力開発や教育訓練」支援は会社と社員両者にとって大きなメリット
能力開発や教育訓練を行い、社員を自発的に行動できる人材に育成することは、社員にとってばかりではなく、会社にとっても大きなメリットがあります。
会社にとっての人材育成の目的は、社員の定着率を高めることに加え、社員を自発的人材に育成することにより業務改善が図れることです。
会社の業務の効率性や生産性が改善されれば、売上げの増加やコストの減少、顧客満足度の向上などが期待できます。
また、不確実性が高い現代の社会では、多様な意見や考え方を取り入れ、顧客満足度を高めるサービスの提供内容や方法、業務改善施策などを考え出す必要があります。
これらを自発的人材が実現することで、他社との差別化が図れるとともに、自社の強みも強化されます。
また、社員にとっては、その会社に勤めることで、自己の成長の機会を手に入れることができ、自律に向けたスキルや自信を身につけることにつながります。
つまり、「能力開発や教育訓練」支援は、会社と社員両者にとって大きなメリットがあります。
経験者採用は思い通りにいかないことが明らかに
一方、経験者採用をすることで、社内にノウハウを手に入れ、即戦力として期待することができます。
しかし、これは両刃の剣です。
会社の経営方針や企業風土を理解し貢献してくれれば大きな戦力となりますが、条件が合わなかったり、活躍の場所がなければ、簡単に他社に転職してしまいます。
会社の仕組みや業務を覚えてもらうために、一定の教育訓練の時間やコストをかけてもムダになってしまう場合があります。
また、先ほどの調査結果によると、経験者採用をする際の課題として、「求人に対する応募が少ない」(56.5%)の回答割合が最も高く、次いで「求めているレベルの人材が採用できない」(42.5%)、「応募者が中高年に偏る」(23.4%)、「高い賃金を支払わないと人が採れない」(22.5%)など、思い通りにいっていないことが明らかになりました。
人材育成とは会社の重要な経営課題の1つ
このようなことから、人材に対する人材育成に手が回らないことを、会社の規模が小さいことを言い訳にしている場合ではないことがお分かりいただけると思います。
中途採用が難しければ、現在社内にいる人材を定着させ、成長させていたくしかないのです。
ここを躊躇していると、人材が不足している規模の小さい会社はいつになって成長できず、人材育成に取り組むことができません。
ニワトリが先か卵が先かの話のようです。
人材育成とは、単なる人材を成長させることではありません。
人材育成とは、会社の重要な経営課題の1つであり、社員を成長させることが、会社の経営戦略を実現させ、業績向上に貢献するのです。
社内の人材を育成するためには、多くの時間がかかります。
そのため今すぐにできることから始めることが大切です。
人材育成を会社の重要な経営課題の1つとして捉え、社内外にその方針と施策を公表して約束します。施策を実行に移せば、社員は期待されていることに気づきます。
社員は期待に応えようと業務やスキル向上に励むようになります。
また、期待を感じることは、会社に対する信頼感を高めます。
こうして、社員は自発的人材として成長し、会社や業務に対する満足度や帰属意識を向上させることで定着率が高まり、会社の業績向上に大いに貢献します。
(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)
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