のれん分け制度を導入していてすでに何名か独立者も生まれています。
ただ、今の仕組みだと本部の損失が大きいのです…
どうしたものでしょうか。
これは、先日、のれん分け制度の見直しの件で相談に訪れた美容院チェーンを営む経営者からいただいたご相談です。
弊社には、のれん分け制度の導入に加えて、「今あるのれん分け制度を見直したい」というご相談も多いのですが、その際によくあるのがこのパターンです。
具体的には、独立者に一方的な有利な制度設計になっているため、独立者は輩出できるものの、本部のデメリットが大きく、制度として継続できない、というものです。
のれん分け制度を導入する経営者の多くは「社員想い」であることが多く、それゆえに、本部を犠牲にしてでも独立者有利の制度作りをしてしまう傾向にあるようです。
今回ご相談いただいた会社が導入していたのれん分け制度は、本部が提供するサービスに比べて、独立者から支払われるロイヤリティが異常に低額に設定されていました。
しかし、このような独立者に一方的に有利な制度設計は、本部のためにならないことはもちろんのこと、独立者のためにもならないことが多く、のれん分け制度の仕組みとしては絶対に避けるべきものです。
今回はこのように考える理由と、本部が確保すべき利益の考え方についてご紹介をしたいと思います。
独立者だけが「WIN」となるのれん分け制度に成功はない
独立者に有利な制度設計をすることが、独立者のためにならない理由は2つあります。
1.独立者に経営者としての自覚や覚悟が生まれない
1つ目の理由は、普通に起業するのと比べてあまりにも恵まれた条件で独立できてしまうと、独立者に経営者としての自覚や覚悟が生まれにくいためです。
のれん分けとはいえ、独立後は何が起きても自己責任となります。本部がどれだけ独立者有利な制度設計をしたとしても、独立者の損失まで負担するようなことはないはずです。仮に独立者の損失を本部が未来永劫負担するような制度であれば、それは実質的に雇っているのと変わりませんから、のれん分けする意味がありません。
ですから、たとえのれん分けといえども、のれん分け後、独立者は経営者として相応の自覚と覚悟をもって事業に取り組んでいかなければなりません。
ところが、社員が独立する際に本部が至れり尽くせりの対応、例えば、「自己資金ゼロで独立させる」、「本部の事業基盤を安価で譲り渡す」等をしてしまったとしたら、独立者は社員感覚のままとなり、経営者としての自覚や覚悟が生まれないのです。
子育てでも、親がなんでも子供の世話をしていたら、子供が成長することはありません。
のれん分けで独立者に一方的に有利な制度設計を行うこともこれと同じです。
独立者に経営者としての成長を遂げてもらうためには、本部が時には心を鬼にして、独立者に苦労をさせることも必要なのです。
2.チェーンの競争力を高めることができない
2つ目の理由は、本部が自らの利益を犠牲にして独立者に有利な制度設計をしてしまった場合、本部にチェーンの競争力を高めるための投資を行う余力が無くなり、結果としてチェーン全体の競争力が低下する可能性があるためです。
独立者にとってのれん分け制度を利用するメリットは、本部のブランドやビジネスモデルを利用することで、事業の成功確率が高まることにあります。
しかし、本部のブランドやビジネスモデルが未来永劫有効なわけではありません。時代の流れとともにブラッシュアップしていかなければならないのです。そして、それには相応の投資が必要となります。
この時、本部が独立者に有利な制度設計をした結果、十分な収益を上げることができていなければ、チェーンの競争力を高めるための投資余力も失われてしまうのです。
その結果、チェーンの競争力が低下すれば、必然的に独立者の売上や利益も減少していくことになります。
のれん分けで本部が利益を得るからこそチェーンが発展する
このように、本部が独立者のためを想って、独立者に有利な制度設計をすることは、独立者のためにならないこともあるのです。特に、「のれん分けで本部が一定程度の利益を得ること」は必須条件です。
本部が利益を得て、それを原資にビジネスモデルやのれん分け制度を磨き上げ、経営環境の変化に適応していくことが、なによりも独立者のためになるのです。
ですから、のれん分け制度において、本部が独立者から支払ってもらう対価の設定は、極めて慎重に行う必要があります。
弊社では、以下の観点から加盟金やロイヤリティを設計することを推奨しています。
本部サポートに対する対価
「本部が独立者に対して実施する各種サポート」に対する対価です。
具体的には、本部が有する商標権の使用許諾、本部による経営ノウハウの提供・経営指導、研修会の開催、商品・サービス開発、統一宣伝広告等が対象となります。
本部サポートには一定程度のコストが発生する訳ですから、本部が負担するコスト+α程度を独立者に負担してもらう必要があります。
店舗資産の提供に対する対価
「本部が保有する店舗資産を独立者に貸し出すこと」に対する対価です。独立者が本部の店舗を利用する場合に当該対価を負担してもらう必要があります。
少なくとも、本部が負担する減価償却費+α程度は独立者に負担してもらう必要があります。
事業基盤の提供に対する対価
「本部が構築した事業基盤を独立者に貸し出すこと」に対する対価です。独立者が本部の既存店舗で独立する場合に当該対価を負担してもらう必要があります。
独立者が本部の既存店舗で独立をする場合、本部は独立者に対して、これまで本部が構築した事業基盤、具体的には顧客基盤や人的(スタッフ)基盤、信用力等を提供することになりますので、その分の対価を独立者に負担してもらうのです。いわゆる営業権と呼ばれるもので、店舗営業利益の3年分前後に設定されていることが多いです。
これらは、一見すると独立者に対して厳しい内容にも感じられますが、通常のビジネス感覚で考えれば、本部がこれらの対価を得ることは当たり前のことでしょう。
長年会社に貢献してくれた社員に対する恩返しの側面がある「のれん分け」ですから、フランチャイズと比較して本部の利益を少なくすることは考えられますが、のれん分けで成功を考える場合、本部の利益は最低限確保しなければならないのです。
まとめ
以上、今回はのれん分け制度で本部が利益確保しなければならない理由とその考え方をご紹介しました。
ここまでご説明した通り、本部が独立者の成功を願って、独立者に至れり尽くせりの対応をすることは、短期的には独立者のためになったとしても、中長期的には独立者のためにならない可能性が高いのです。
のれん分け制度を利用した独立者と本部との関係は、通常、短期的な関係では終わりません。最低でも3~5年超は契約関係が続くことが前提となります。
ですから、目先の「独立者の利益」だけに目を向けるのではなく、中長期的な「独立者の利益」に目を向けて、本部が必要な利益を確保するとともに、それを原資にチェーン全体として経営環境の変化に適応すべくビジネスモデルやのれん分け制度を磨き上げていくことが求められるのです。
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