多店舗展開

コミュニケーションツールを自発的人材育成に活用するポイントとは

新型コロナウィルス感染症の拡大により、多くの企業に影響がでています。
外出自粛や外国人旅行者の減少などによる売上げの減少、在宅勤務・テレワークの増加による働き方の変化など、その影響は多方面に及んでいます。

今回の新型コロナウィルス感染症の影響はとても大きく、感染が収まったとしても、元の社会の様子に戻りそうもありません。
厚生労働省から「新しい生活様式」と呼ばれるものが公表されるなど、新型コロナウィルスをきっかけに、社会が大きく変わっていくでしょう。

そのなかで、働き方の新しいスタイルの実践例として、テレワークやローテーション勤務、オンライン会議などが挙げられています。
しかし、社内で完結する仕事や顧客対応がオンラインで可能な業種、業態であればテレワークへの移行は可能ですが、現場がある飲食店やサービス業などはそうはいきません。
お客様に直接サービスを提供し、満足していただくことに付加価値があるからです。

一方、この大きな環境変化のなかで、飲食店やサービス業の方でも、テレワークやオンライン会議などに使われているコミュニケーションツールは、今後大いに活用すべきでしょう。
今回は、人材育成に活用できるコミュニケーションツールについて考察してみます。

なお、店舗展開を加速するための人材育成システムについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。

多店舗展開を加速する人材育成システムとは

(1)人材育成に必要なコミュニケーション

複数店舗を展開する、もしくは展開を目指す飲食店やサービス業にとって、自発的人材の育成は欠かせません。
多忙な経営者にとって、しっかり現場を任せることができる店長やリーダーの育成が会社の業績向上と多店舗展開のスピードを決めるからです。

同じ店舗で働いていれば、経営方針や事業施策などをタイムリーに共有でき、意思疎通は容易ですが、店舗や拠点が複数になってくると、コミュニケーションが難しくなってきます。

忙しさに追われ、コミュニケーションが減ってしまうと、予期せぬことが起こるかもしれません。
ある飲食店では、店長が数人の部下を連れて、他の競合店に移っていってしまいました。この会社への影響はとても大きく、経営者は後悔してもしきれません。

この事例からもわかるように、経営者が自発的人材を育成するためには、部下と積極的にコミュニケーションをとることが必要です。
仕事を任せて、任せっきりではいけません。
仕事を任せたら、上司は仕事の成果だけではなく、部下の成果がどのように達成されたか、プロセスを確認する必要があります。

そのためには、仕事を任せると同時に、コミュニケーションを増やす必要があります。
このコミュニケーションとは、命令や指示ではなく、部下の考えていることや行動を引き出し、結果を報告させ、次への課題を部下へフィードバックすることです。
このサイクルを素早く、繰り返し回すことが、自発的人材育成のポイントです。

(2)コミュニケーションツールの活用方法とは

このサイクルを効果的かつ効率的に繰り返すために、今話題になっているコミュニケーションツール、具体的にはビデオ通話やメッセージアプリといったものを活用することをお勧めします。
ちなみにビデオ会議アプリ「Zoom」は、今回のコロナ禍により企業間での利用が急増し、日本国内の利用者を前年同期比4.5倍、26万件まで増やしています。

「新しい生活様式」として働き方が見直されるなか、今後もこのようなコミュニケーションツールがますます活用されていくでしょう。
経営者と各店舗の店長やリーダーとのコミュニケーションにおけるこういったコミュニケーションツール活用のメリットは、以下のようなものがあると考えられるからです。

①時間の効率化

忙しい経営者にとって移動の時間はとてももったいないものです。
拠点が多く、距離が離れていれば、多くの時間がかかります。
テレワークのメリットの1つとしてあるように、通勤や移動の時間を節約することは、とても大きな利点です。
混んでいる電車に乗ったり、荷物を持ち運んだりする必要もありません。

移動に使っていた時間を、社内の他の業務や社外関係者との打ち合わせ・交流などに使うことで、新たな機会を生み出すことができます。

②コミュニケーション量・頻度の増加

部下との対話により多くの時間を割くことができるようになります。
会って対面で話すことの良さはもちろんありますが、より頻繁にコミュニケーションをとれるようなり、部下の行動の結果をすぐにフィードバックしたり、起こった問題や悩み事にすぐに相談にのったりできます。

コミュニケーションの機会が増えると、部下から報告や相談がしやすくなります。
双方にとってメリットがあります。

一方、便利なツールですが、すべてが解決できるわけではありません。
留意点としては、以下のようなものがあります。

③双方向を心掛ける

画像と音声のビデオ通話でも、メッセージアプリによるテキスト(文字)によるコミュニケーションでも、対話やメッセージが一方的にならないように気を配ります。
せっかくの対話が、経営者の伝えたいことのみに終始してしまって、部下による発言の機会が減らないようにします。

意識としては、経営者が2割、部下が8割の発言をするイメージです。
できるだけ、部下の発言を促すようにしましょう。
これにより部下が自発的に考え、行動することにつながります。

また、メッセージアプリの活用も有効ですが、連絡や報告があったときは、必ず返信をしましょう。
メッセージを読んで、それで済ませてしまう場合はありませんか?報告した部下は、上司の反応を必ず気にしています。
どんなに忙しくても、感謝の気持ちとともに読んだことがわかる返信をしましょう。
できるだけ早く返信することが望ましいですが、遅くともその日のうちの返信を心掛けます。

④テキストでは意図やニュアンスをしっかり伝える

テキストでメッセージを送るときは、誤解がないように伝えましょう。

よくあるミスコミュニケーション例では、部下の提案に対して、「いいんじゃない」と返信する場合です。YesともNoともとれる内容です。

時間がなくても、送信前に一度読み返すことをお勧めします。

(3)新しいものと古いもの両方を活かす

このように新しいコミュニケーションツールを活用して、自発的な人材育成にぜひ役立てましょう。
それでも、ツールはあくまで便利に使うものであって、これまで大切にしてきたものを見失っていけません。

いくらコミュニケーションツールが発達しても、現場に足を運ぶ大切さは変わりません。
とくに、新人や中途採用者など、入社からまもない社員にとっては、対面で話をすることで、会社や経営者についてより理解が深まるものです。
経営者は通じていると思っても、部下の理解は十分ではないことも多いでしょう。

従来からの企業にとって本質的に価値のあるものを大切にしながら、社会の変化や技術の進歩に応じて、必要なツールの特性を理解し積極的に取り入れる、企業経営にはこの両方が大切です。

(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)

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