「消費増税を機に、キャッシュレス化にしました。レジ締め作業のための残業が減って、社員が喜んでいます。もっと早くやればよかったと思っています。」
先日お会いした飲食業の経営者の言葉です。
このお店は規模も大きくなかったため、手数料負担が小さくないと言われるキャッシュレス決済を導入していませんでした。
しかし、消費増税を機会にキャッシュレス決済における補助金を活用し導入しました。
それまでは、現金のみの決済でしたが、顧客の利便性向上による売り上げ拡大を考えて、経営者が導入を決心したのです。
一般的に、キャッシュレス決済については、以下のメリットがあると言われています。
- 顧客の利便性向上による消費拡大
- インバウンド(外国人旅行者)を含めた売り上げ増加
- 店舗業務の効率化による業務改善や働き方改革
- 店舗における顧客層や売り上げの集計、売れ筋商品把握や収益性分析への活用
- 購買履歴データ活用によるマーケティング
このなかで、すぐに店舗に好影響がでるのは、業務効率化でしょう。
現金の場合は、毎日営業終了後レジ締めが必要になります。
現金の取り扱いをゼロにするわけではないですが、キャッシュレス化により現金利用者が減ることで、現金取り扱い量減少による売り上げやつり銭間違いの減少、レジを任せられる従業員の増加などの効果が期待できます。
さらに、オーダーをIT化すると、注文との照合も自動化されます。
冒頭の飲食業の店舗は、このような効果が出ました。
業務改善は会社にとってよいことですが、一方、従業員の中には、仕事や残業が減ることの収入減を心配して、業務改善に積極的でない人がいる場合もあります。
筆者が訪問したことのある製造業では、経営者は現場の改善を積極的に進めていましたが、人が減らされるのではないか、自分に作業の負荷がかかるのではいか、との懸念から、社員が前向きに取り組んでいない事例がありました。
情報化時代“人に求められる仕事”とは
しかし、近年は社会環境が大きく変化し、求人倍率も上がり続けるなど、人手不足の状況です。
そこで、生産性を上げる意味でも、IT化で対応できる業務は、できるだけ効率化し、人は人でしかできない業務に集中すべきです。
そこで、IT化により、業務が機械に置き換えられると、どのような仕事が人にいっそう求められるようになるのでしょうか?
さまざまな意見があるところですが、筆者は、以下の4つが重要ではないかと考えています。
①創造する仕事
IT技術の発達で、データの蓄積、活用が進み、過去のデータの活用が容易になります。
AI(人工知能)がさらに発展すれば、過去のデータや他社の事例などから、AIが対応策をアドバイスしてくれるかもしれません。
しかし、それでは差別化ができません。
データを活用しながら、新しい商品やサービスを生み出す仕事、つまりは、創造や発明といった仕事がさらに、人に求められてくるでしょう。
創造とは、知と知の組み合わせと言われます。
飲食店であれば、料理の提供という既存知と、他の業界で人気のあるサービスを組み合わせたりすることが考えられます。
例えば、Uber Eatsは、レストランの食事と宅配便を組み合わせたサービスです。
こういったサービスの具現化がカギとなります。
②発明する仕事
飲食店では、お客に飽きられないようにメニューに変化を持たせることが必要です。
それには、常にお客のニーズの変化をつかみ、食材や調理法に工夫をすることです。
例えば、イギリス出身で小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソンさんは、著書の中で、日本のサンドイッチの種類が少なすぎると言っています。
筆者からすれば、コンビニでもおいしいサンドイッチが多数あると思うのですが、好みが異なるようです。
このように見る視点や考える視点が変われば、サンドイッチ1つにしても、新商品を発明する余地がたくさんあるものと言えます。
③コミュニケーションする仕事
また、顧客や関係者と意思疎通するために、コミュニケーションする仕事も重要になります。
スマホでの注文や問い合わせ、タッチパネル式のオーダーなど形式的なものは、ITが得意です。
一方、IT化が進めば進むほど、コミュニケーションすることで、問題を解決しようとしたり、人の気持ちに訴えようとする仕事が重要になります。
顧客や関係者とのコミュニケーション手段も、スマホなのかフェイス・トゥ・(対面)なフェイスのか、使い分けが進むでしょう。
④人と共感する仕事
そして、人として私の気持ちをわかってほしい、認めてほしいという気持ちがあることはIT化が進もうとも不変です。
その際、医療・介護やサービス業など、人の気持ちに共感する仕事はいっそう大切になると考えられます。
飲食店でも共感は重要です。
カウンター席には、話を聞いてもらいたいと思うお客が多いのではないでしょうか?
料理やサービスに加え、共感がお客を引きつけているのです。
IT化で自発的人材がますます重要に
こういった時代に期待される仕事は、定型業務ではなく、非定型業務です。
非定型業務は、業務をマニュアル化するだけでは、成果を上げることはできません。
従業員が、会社の理念や経営方針、サービス内容を把握した上で、自発的に行動することが必要です。
人材に関する問題は、人手不足解消という量的な問題から、人ならではの仕事をするという質的な問題に変化し、自発的人材がさらに求められてくることになります。
今後人手不足やIT化の流れが変わることはありません。
業務効率化をできるところは、積極的にIT化、機械化を図りましょう。
その上で、人でしかできない業務を特定して、特化するため、社員を自発的人材に育成しましょう。
これからの社会では、自発的人材を育成することが、会社の業績を高め、成長につながると言えます。
自発的人材に育成するためには、社員の役割に応じた目的意識を持たせることが必要です。
そのためには、業務自体ではなく、「何のためにこの作業をするのか」といった業務の目的を教え、課題や対応策について考えさせる機会を増やします。
その際、熱心な経営者ほど手出しをしたくなりますが、経営者が意識すべきことは、強制しないこと、口出しし過ぎないこと、難しそうと思わせないことです。
従業員の自発的行動の芽をつむような行為は控えましょう。
経営者が長期的視点で、自発的人材を育成するという強い決意と覚悟をもって、取り組むことが大切です。
(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)
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