多店舗展開

自発的人材育成のためのコーチングのメリットと注意点

「指導成果が出てきて、入塾希望者が増えてきました。この近くで新しい教室を開きたいのですが、任せられる人材がまだいなくて・・・」

これは、先日訪問した小中学生向けの学習塾を運営する企業の経営者がお話されていたものです。
この塾は、塾長の独自の指導方法により、地元の子どもたちや保護者から高い信頼を得ています。これまでは、塾生を増やすため、子どもたちの成績を伸ばすことと集客に注力してきました。これらが奏功し、塾生が増えて既存の教室が手狭になってきたため、新しい教室の展開が直近の課題になりました。しかし、教室を増やすためには、教室を任せられる人材が必要になります。指導内容のテキストはありますが、子どもが学習に抱える問題は千差万別であり、塾生や教室の管理業務も必要なため、教室長やリーダークラスには、自発的な行動が求められます。自発的な行動とは、自ら問題を発見し、解決策を考え、実際に行動し、解決できることです。多忙な中でも日々教室運営で生じる塾生の学習指導や保護者対応、先生のやりくりなど、さまざまな問題を自ら行動し解決することが必要だからです。
このように、多くの会社が自発的人材を必要としています。人手不足のため、外部からの採用はますます難しくなっており、社内で自発的人材を育成するニーズが高まっているからです。決められた仕事であれば、機械化やIT化で人手不足を解消できます。しかし、店舗や教室を任せられる人材や、飲食・サービス、医療・介護業界など、人ならではのサービスを提供する人材は、機械で代替できません。こういった役職や業界では、数合わせでの人手ではなく、自発的に行動できる人材が必要なのです。

コーチングのメリットと注意点

前回の本コラム(自発的人材育成を加速させるコーチングとは)でコーチングの概要をご説明しました。コーチングとは、「答えは部下の中にある」との前提で、対話を通じて、自発的に考えて、行動し、目標達成を促す人材開発手法です。コーチングの対比として、ティーチングという指導法があります。
そこで、コーチングをより理解するため、ティーチングにも触れながら、コーチングのメリットと注意点を確認します。

メリット

・問題解決力・課題応用力の向上
・目標達成力の向上
・潜在能力の顕在化
・継続力の向上

メリットについては、まず問題を解決する力が高まります。上司の効果的な問いかけにより、部下が問題点に気づくとともに、実行のモチベーションが高まります。実行策が上司から与えられたものでなく、自ら気づいたものだからです。そして、問題を解決できるようになると、その経験から、上司が指摘しなくても、経験を応用して次の課題に対処できるようになります。結果として、自信が深まり、目標達成力が高まります。会社が求める自発的人材と同じ効果が期待できます。
また、気づきを得ることで、潜在能力を引き出すことにつながります。部下は自分の考えや経験にもとづき行動しますが、すべてが自分の中で顕在化しているとは限りません。本人があまり具体化できないかったことが、きっかけを与えることで、表面化するのです。対話を通じて、頭の中が整理され、考えが行動に結びつくことで、次第に力がつきます。コーチングの最も大きい効果の1つと考えられます。
そして、自発的に考え行動する習慣により、継続性が生まれます。自発的な行動が習慣化されれば、会社が求めるレベルに次第に近づいていきます。

注意点

・ティーチングが適している人材に用いないこと
・時間がかかること
・結果をすぐに求めないこと
・指導者の力量に左右されること

一方、注意点もあります。コーチングとティーチングに違いがあり、知識や能力が不足している場合は、ティーチングが必要です。いくらコーチングをしても、問題は解決されません。コーチングが求められている人材に適切に実施することです。
部下の理解の度合いや自発性の高まり具合は、個人差があります。普段から自分で考えたり、行動したりすることに慣れている人は、理解は早いでしょう。しかし、部下自身の性格や経験により、回答や受け身的姿勢に変化がみられない場合があります。この場合は、「実施するとどうなると思う?」や「この前の進め方はよかったが、何に気をつけた?」などの質問をして、考えることを促すようにします。上司は口を挟みたくなっても少し我慢が必要です。従って、結果をすぐに求めるのではなく、継続して取り組みます。
コーチングは指導に対話を使用しますが、上記の通り、指導者の力量に左右されます。上司が話し過ぎることや回答を伝えてしまうこと、反論することや問い詰めることは、自重すべきです。指導の振り返りやコーチング研修への参加により、コーチング能力を高めることができます。

さまざまな場面で活かせるコーチング

このようにメリットと注意点を理解して、効果的にコーチングを活用します。コーチングが活かせる機会は、部下の取り組み内容を決める面談や人事評価面談、フィードバック面談などたくさんあります。また、コーチングの対話の方法は、仕事だけではなく、友人や家族などプライベートでも活用が可能です。聞き上手な人(相手に話をさせることが上手な人)は、意識していなくても、「傾聴」と「問いかけ」に共通点が多いかもしれません。日頃よりコーチングを活かす場面や修得する場面を意識して、自発的人材育成に活用しましょう。

(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)

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