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のれん分け制度の導入目的に応じた制度設計のあり方

「のれん分け制度で成功している企業はどのようなシステムにしているのですか?」

これは、過去に弊社ののれん分け制度構築セミナーにご参加いただいた整体チェーンを営む経営者からいただいた質問です。

よく「成功している本部の事例を教えてほしい」という要望をいただきます。
これからのれん分け制度を導入しようと考えれば、成功している本部がどのような仕組みにしているのかを知りたいことは当然のことでしょう。

一方、弊社の立場からすれば、この質問は安易に回答すべきものではないと考えています。

そう考える理由として、そもそも「成功」という定義が本部によって異なることがあげられます。
例えば、順調に本部の店舗数が増えていくことを成功と考える本部もあれば、独立者の収入が増えることを成功と考える本部もあります。
目指すものが異なるわけですから、当然に導入すべきシステムも異なるものになります。

また、のれん分け制度のあり方は、ビジネスモデルの特徴によっても変動します。

会社によって、のれん分けする目的や目標、ビジネスモデルの特徴が異なるわけですから、仮に成功している本部の事例を知り、そのまま導入したとしても、上手くいくことが保証されるわけではありません。

むしろ「成功している=自社も同じにすべきだ」といった固定観念が生まれる可能性もあるため、成功事例を学ぶことにはデメリットもあるのです。

以上を考えると、のれん分け制度の設計に当たっては、他社事例などの調査・分析はほどほどにして、「自社にとっての最適解はどのようなものか」という点を探求していくことが大切なことといえます。

のれん分け制度の最適解について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

のれん分け制度に唯一最適解はあるか。のれん分けの導入を目指す経営者が知っておくべきこと


導入目的に応じたのれん分け制度のパターン

とはいえ、のれん分け制度導入の目的によって、どの程度の仕組みを構築しておくべきかという点がある程度決まってくるのも事実です。

当社に相談に訪れる経営者の目的を分類すると、概ね以下の3つに分類することができます。

(1)伝統モデル

日本では、古くから飲食店などで、長年働いてくれた奉公人や家人に同じのれん=家紋や屋号を使ってお店を出すことを認めるのれん分けという取り組みが行われてきました。
伝統モデルとは、いわゆる昔ながらののれん分け制度で、その目的は、長年勤めてきた弟子の働きに対する恩返しを主とするものです。

のれん分け制度を用いて多店舗展開を進めていくといったものではなく、あくまで特定の従業員に対してのれん分けを行うイメージです。

この場合、構築しておくべき仕組みはそれほど複雑なものは必要ありません。
なぜならば、このような進め方であれば、本部と独立者の信頼関係は盤石なものとなっているはずですから、そもそもトラブルに発展するリスクが非常に低くなるためです。

また、のれん分けの対象者自体もそれほど多くないでしょうから、リスクが低く、かつそれほど使用しない仕組みに対して時間とコストをかけて複雑な仕組みを構築することはナンセンスです。

目的が伝統モデルに該当するケースでは、ある程度の決まりが盛り込まれたのれん分け契約書・付属契約書があれば十分でしょう。

(2)キャリア形成モデル

キャリア形成モデルとは、本部が従業員の将来の選択肢として、のれん分けによる独立というチャンスを提供する仕組みです。
人手不足問題が深刻さを増す中、優秀な人材を確保するためにキャリア形成を目的としたのれん分け制度を導入するケースが増えているようです。

伝統モデルとの違いは、伝統モデルは従業員が長年会社に貢献してくれた「結果」として独立のチャンスが与えられることに対して、キャリア形成モデルの場合は、「入社の段階」からキャリアパスの最終地点に独立という選択肢が示されている点です。

入社の段階から独立という選択肢を示す以上、入社から独立に至るまでの一連の流れ、例えば
・標準的な独立までの期間はどの程度か
・入社してからどのような経験を積む必要があるか
・どのような流れで、どのくらいの時間をかけて経験していくのか
などを仕組み化しておくことが求められます。

もちろん、前述の伝統モデル程度の仕組みであっても「のれん分け制度による独立が可能です」程度のことは情報発信することができますが、独立を目指して入社してきたにもかかわらず、いつ独立できるかもわからない状態では、社員のモチベーションが続かないことは明白です。

また、のれん分け制度を武器にして従業員採用を強化する場合、独立までの期間、流れ、独立後のサポート内容等について、どれだけ具体的な情報を示せるかが勝負となります。
ただ「のれん分け制度があります」といった抽象的な表現では、その制度に魅力を感じることはないでしょう。

ですから、キャリア形成を目的にのれん分け制度を導入する場合には、伝統モデルと比較して入社から独立までの標準モデルの明確化、必要ない知識・技術等を最短で身に着けるためのマニュアル整備など、伝統モデルと比べて複雑な制度設計が求められることとなります。

(3)適性診断モデル

適性診断モデルとは、第三者加盟を対象にフランチャイズ展開をしている本部が、加盟希望者のFCへの適性や経営者としての資質を診断するために、加盟前に一度本部のスタッフとして一定期間働いてもらい、従業員としての体験を経て、正式にFC加盟をしてもらう仕組みです。

キャリア形成モデルの場合、キャリアパスの最終地点にのれん分けによる独立という選択肢はありますが、従業員として残る選択肢も用意されています。
一方、適性診断モデルの場合、一定期間経過後、加盟者が本部の基準を満たしていれば正式に加盟、本部の基準を満たせなければ加盟せず去ることになります。

本モデルに従業員に対しての恩返しという要素はありませんから、厳密にはのれん分けシステムではなく、加盟希望者の適性を評価する仕組みと言えます。

この場合、当然第三者を対象としたフランチャイズレベルの仕組みが必要となります。
素人が入ってきても、1年程度で技術を習得できるようなシステムを整備することはもちろんのこと、加盟希望者を評価する基準の整備、評価の結果本部基準を満たせなかった場合の対応フロー、またその際の本部防衛策の整備等、この3つの中では最も複雑な制度設計となります。

 

まとめ

以上、のれん分け制度の導入目的に応じた制度設計のあり方をご紹介しました。

のれん分け制度の具体的な設計方法は事業者のビジネスモデル等によって大きく変化するため一概には言えませんが、構築すべき仕組みの程度は導入する目的によってある程度決まってきます。

制度が複雑になればなるほど本部の負担が増しますし、外部の専門家に制度構築を依頼する場合の費用も高くなります。

ご自身がのれん分け制度を導入する目的を明確に意識したうえで、どこまで仕組みを構築すべきなのかを判断し、制度構築に取り組むことが大切です。

なお、のれん分け制度を設計する際の重要なテーマとなる独立形態について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

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