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のれん分け制度導入においてなぜ「対話」が必要なのか

先日、のれん分け制度導入の説明会を実施して、すぐに制度利用者が現れた企業の話をブログで取り上げました(詳細は「のれん分けに必要な経営者と対象者の「対話」とは 」を参照)。

のれん分けに必要な経営者と対象者の「対話」とは


その際に経営者と対象者には「対話」が必要であることを考察しました。
今回は、なぜそのような「対話」が必要なのか、組織開発的な視点からまとめてみたいと思います。

(1)問題には2つの種類がある

「最難関のリーダーシップ~ハーバード大学生が最も影響を受けたリーダーシップ白熱教室」の著者として有名なリーダーシップ研究者ロナルド・ハイフェッツ教授は、世の中で起こる問題には「技術的問題」と「適応を要する課題」つまり「適応課題」があることを主張しています。

「技術的問題」とは「何が問題かわかっている問題」です。
例えば、モノや機械の故障、仕事をする上でのスキルが無い、といった問題です。
つまり、原因がわかっているので、解決策も既に世の中にある問題です。
具体的には、モノや機械の故障は、技術的な改善策を施したり、部品を交換したりというように、原因へ対処することで解決できます。

それに対して「適応課題」とは、「問題が何であるか、本人もよくわかっていないもの」であり、問題の発見に「学習」が必要なもの、そして「解決策もわかっていないもの」を指します。
つまり起こっている問題に対して、既存の解決策をそのまま用いるのではなく、目の前の事実と自分たちが持つ「問題の捉え方や思い込み」について、関係者でどうすればよいか「対話」し、その解決策を一緒に考えるという「学習」が必要となるのです。

(2)問題の種類を見極めないと「真の問題」は解決できない

問題の2つの側面の事例としてハイフェッツ教授が挙げている例に「高齢の母親が夜間の運転で車を傷つけてしまった」というものがあります。
この事例の「技術的問題」は車を修理することです。

そしてこの高齢の母親が、「夜に運転できない自分に向き合い」、その結果、運転をやめること、運転してレストランへ行けなくなること、そして何より「運転できる私」という自分の誇りを失うことに直面することが「適応課題」です。

つまり車の傷は修理で直せますが、高齢の母親が「運転できない自分に向き合い、本人が納得して運転を辞めることができるかどうか」は、本人が周囲と「何が問題なのか、どうすればよいのか」を対話することでしか解決策は探せない、ということなのです。

ハイフェッツ教授は、組織の抱える複雑な問題には、このように2つの側面があること、そしてリーダーが陥りやすい誤りは、「適応課題」に対して「技術的問題の解決策」を当てはめて解決を図ろうとすることだと指摘しています。
何が「真の問題か」わかっていない状況で、既存の解決方法を導入しても、本当の問題は解決されない、ということなのです。

(3)のれん分け制度を導入する企業に「対話」が必要な理由とは

このリーダーシップ論を「のれん分け制度」を導入しようとする経営者に当てはめて考えてみたいと思います。
例えば経営者が「自社の社員のモチベーションが上げたい」という悩みを解決したい場合、「のれん分け制度を整えて自社に導入し、キャリアの道筋を見える化して、社員のモチベーションを向上させたい」と考えたとします。

こういった経営者の考えは、弊社も推奨している店舗ビジネス従業員のモチベーションアップにつながる、素晴らしいものだと思います。
しかし「モチベーションアップ」という、「人の気持ちに関わるの問題」の多くは、何らかの「適応課題」が含まれているものなのです。

そして「のれん分け制度を作る」というのは、具体的な手法が明確な「技術的な解決策」に当たるのです。
なので「モチベーションアップ」という真の問題解決には、のれん分け制度導入とともに、「なぜモチベーションがあがらないのか」「モチベーションアップにはどうしたらいいのか」
「どうしたら制度を使いたくなるのか」といった「自分たちの本当の問題はいったい何か」を対話によって明確にし、解決していくステップが必要になってくるのです。

(4)「対話」に必要なのは共感的に聴く姿勢

では「対話」とはどのようなものでしょう。
この定義に関して、日本の組織開発研究の第一人者である南山大学の中村和彦教授は次のように言っています。
「対話とは『意味が共有される』双方向コミュニケーションである」

私たちは普段身の回りで起こる出来事に自分なりの意味づけを行って生きています。
例えば、のれん分け制度導入を経営者が社員に発表した際に「これは低リスクで独立できるチャンスかもしれない」と思う人もいれば、「会社は自分たちを切り離そうとしているのかな」といったように、それぞれが持つ事前情報や思い込みを基に解釈をして、物事を見るということです。
つまり客観的な事実ではなく「自分で意味づけした主観的な世界で生きている」のが私たちと言えるのです。

そしてそれらの物事に対する「人による意味づけの違い」は、通常の会話では話されず、気づかないまま、ばらばらの解釈を抱えて過ごしていくことになり、「制度は導入したものの、モチベーションは変わらない…」といった状況になりがちです。
なので、双方向の「対話」によって、言葉の奥にある前提や意味づけもやりとりすることで「意味を共有し、その結果、その人の持っている意味づけを変化させる」プロセスが必要となるです。

前述の例で言えば、お互いからどう見えているのか、どういう思いを持っているか、不安は何か、といった「気持ち」まで含めた対話を丁寧に行うことで、初めて1つの事象に対するお互いの持つ意味が共有されるのです。

具体的には、弊社へのれん分け制度構築をご相談いただく多くの経営者が持つ「企業と従業員のWin-Winを実現するための制度である」という思いや意味づけの共有です。
そしてこのような「対話」には、「異なる意見や考え、思いを共感的に聴く」というお互いの姿勢がとても大切なのです。

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