「部下に仕事を任せるようにしたら、急にやる気が出てきたようで」
これは先日、多店舗展開のご相談を受けたサービス業の経営者の言葉です。
この方には、以前人材育成の方法として学習モデル(詳細は「人材育成に活用できる学習モデルとは」を参照)を紹介し、部下の仕事に対する望ましい考え方や、行動を定着させ、自発的人材とするための人材育成のノウハウをお話ししたところでした。
早速この経営者が実践したところ、この部下は仕事を任せられることにやりがいを感じ、積極的に行動するようになったそうです。
部下にとって、学習内容が定着し、仕事の成果を目にすることは、仕事に前向きに取り組むきっかけとなります。
そこで、この前向きな気持ちを一時的なものとせず継続させるために、さらに学習効果を高める指導方法をご紹介します。
なお、多店舗展開の成功に必要な要素について、詳しく知りたい方はこちらのコラムもあわせてご覧ください。
(1)学習内容の定着率がもっとも高い学習方法とは
下記に記した米国で開発されたラーニングピラミッドという学習モデルに基づくと、通常、学習内容を定着させるためには、手順書を読ませたり、実演を見せたり、部下を指導することが中心に行われます。
これらの方法に加え、いっそう効果を高めるには、その部下に他の後輩を指導させることが有効です。
これは、下記に図の一番下にある学習方法で、“他人に教える”ことは、学習定着率がもっとも高くなる方法となっています。
表:ラーニングピラミッド イメージ図
定着率 | 学習方法 | 会社での指導方法 |
---|---|---|
5% | 講義 | 作業などを説明する |
10% | 読書 | 手順書などを読ませる |
20% | 視聴覚 | 図解や写真、イラストなどで表現する |
30% | デモンストレーション | 実演を見せる |
50% | グループディスカッション | 数人で議論させる |
75% | 訓練・実践 | 作業をさせる、任せる |
90% | 他人に教える | 部下に指導させる。業務を説明させる |
以前、ある学習塾の講師と話をしたことがあります。
この講師によると、講師になった今も、学生時代以上に必死に勉強しているそうです。
講師が受験生のときにした勉強は暗記が中心で、内容まで深く理解していなかったそうなのです。
しかしその後、教える立場になって、その緊張感でテキストを見ると、疑問がたくさん湧いてきたそうです。
例えば、高校英語に出てくる分詞構文とは、同じ意味の文章を、複数の文章で言い換えるための1つの方法です。
言い換えの方法は受験生のときに覚えたそうですが、それが実際どのような場面でどのような形で使われるのかなど、自分で調べると、分詞構文を用いる本当の意図がわかってきて、より理解が深まったそうです。
まさに、“他人に教えること”による学習効果であり、学習モデルの実例と言えるでしょう。
人に説明するためには、その内容について十分に理解している必要があります。
特に説明者が恐れるのは、質問に対して答えられないことです。
質問の答えに窮することは、本当はわかっていないのではないのかと疑われたり、説明そのものの説得力がなくなったりするかもしれないからです。
なので、説明する内容やその背景、関連する知識、事例などを、幅広く事前に学習しておく必要があります。
つまり“他人に教える”ということは、「学習する」ことそのものなのです。
(2)部下に後輩を指導させる機会を設ける
忙しい日常業務のなかで、学習のためだけに指導する機会を設ける時間はありませんので、業務のなかで実践できる機会はおもに以下の2つです。
1つは、指導が必要な機会を積極的に探し、部下に後輩を指導させることです。
例えば、新しい手順や方法を導入する際に、その指導や説明を部下に任せてみます。
効果的な指導になるように、あらかじめ進め方や説明資料、指導方法を確認しておきます。
部下がこの事前の段取りや準備をすること、また、指導後にうまく教えられなかったところの振り返りをすることなどが、最大の学習機会となります。
後輩だけではなく、中途採用者や新人に教えてもよいでしょう。
異なる経験を持っている人や何も知らない人に教えることは、より工夫が必要だったり、思わぬ質問が出たりして、気づきを得られる場合があります。
もう1つは、業務を説明させてみることです。
指導の機会がない場合の方法です。
上司との対話で、現在の業務の進め方、やり方などの良いところ、改善した方がよいところ、その背景、具体例や具体策を説明させます。
その際、上司のほうが知識と経験があるのは当たり前ですので、上司が説明しすぎたり、答えを伝えたりせずに、部下の言葉で説明させます。
必死にアウトプットしようとすることにより、これまで気づかなかった疑問点やあやふやに思っていた点が浮かび上がります。
それを上司との質疑応答を通じてクリアにすることで、学習効果が高まります。
(3)部下に仕事を任せ、後輩を指導させて自信を持たせる
これまで述べてきたように、「教える」ことは、学習モデルのなかで、もっとも難易度の高い取り組みです。
教える内容をしっかり理解した上で、後輩の理解度を確認しながら、進め具合をリードする必要があるからです。
どのように指導すればしっかり伝わるのか、自発的に考えなければなりません。
だからこそ、この経験を通じて、学習効果を高めることができるのです。
会社の日々の業務のなかには、さまざまな部下指導の機会が存在します。
その際、作業手順書をイラスト化したり、実演を見せたりすると、部下の理解を深める助けになります。
加えて、部下を信頼して仕事を任せ、後輩を指導させる機会を設けることで、学習内容の定着と自発性をいっそう高めることができます。
この一連の過程で、部下は仕事に対する自信を獲得できるからです。
つまり学習モデルを活用して、部下に自信を持たせることが、自発的人材を育てる上で、とても大切なことと言えるでしょう。
(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)
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