(1)経営理念が会社を強くする
事業環境が変化する中、株主や顧客、取引先、従業員、地域などのステークホルダーから信頼を得て、事業を継続させていくためには、変化に対した対応策をとることが必要です。思いつくまま対応策を変えてしまっては、取引先や従業員から信頼を失いかねませんし、顧客にとっても、利用するタイミング毎に商品やサービスの内容や品質が変われば、リピーターになりえません。
このような時に、長期的視点で作成した経営計画とその軸となる経営理念を活用することで、ぶれない経営を行うことができるようになります。従業員から「うちの社長は言っていることがころころ変わる」等と言われるのは、まさに軸となる経営計画や経営理念が従業員に浸透していない証でしょう。経営理念等の軸に基づいた経営を行うことで、はじめて取引先や従業員、顧客からの信頼を勝ち得ることができるものと言えます 。
(2)経営理念を浸透させるには
一方、経営理念を策定すれば、すべてがうまくいくものでもありません。経営者の方と経営理念の話になると、「経営理念をつくったけれども意味がない、効果がない」という声をよく耳にします。経営理念は、つくることが目的ではなく、社内に浸透させ、事業活動に活かすことがポイントです。それには、従業員が経営理念を定期的に意識する環境を仕組みとして導入することが大切です。
従業員が経営理念を定期的に意識する環境の一例として、例えば、月1回のミーティング等で、最近問題になった内容などをテーマとして、「経営理念に基づいて考えた場合、我々はどのように対応すべきだったのか」を考え議論することが考えられます。経営理念に基づいて考える体験を繰り返していくことで、徐々にその思考方法が習慣となり、経営理念が会社に浸透していくことが期待されます。
経営理念を聞かされるだけでは他人事のままですが、理念にもとづいた行動がどうあるべきかを考えることで、他人事から自分事に変わり、経営理念が浸透していきます。これは、作業を習得する時と似ているかもしれません。作業手順書を説明されたり読んだりするとわかったつもりになりますが、実際に手を動かし作業しようとすると、思うようにできません。人はインプットだけではなく、考えてアウトプットすることで、初めて知識や考えが定着するものです。
また、浸透させるには以下の様な方法もありますので、試してみてください。
・経営理念カードを作成して従業員全員に携帯させ、定期的に確認を行う
・社内報や社内のお知らせに経営理念と社長からのメッセージを掲載する
・店舗や現場などで定期的に開催する業績報告会などの場で、経営者自ら従業員に直接語りかける
このように、経営理念に基づく思考を繰り返していくことで、徐々に考え方が身についていくものです。筋トレと一緒で、定着させるには継続して習慣化することで少しずつ力になっていきます。
(3)経営理念は社外にも発信する
浸透させるのは、社内だけではありません。社外に対しても、積極的に自社の会社案内やホームページなどを通じて発信しましょう。商品やサービスの提供とともに経営理念を発信することで、企業が目指している方向を明確にして、ブランドイメージを確立します。提供する商品・サービスと経営理念が結びつくことで、顧客や取引先に安心を与え、リピーターを増やしたり、取引先との安定的な取引につながったりします。 また、人材採用において、会社が求める人材像と応募してくる人材とのミスマッチを防ぐには、経営理念を明確に発信することが効果的です。会社の理念に共感した人材を採用することで、入社後の離職率低下や長期雇用につながります。
(4)経営理念を浸透させるのは経営者の役割
「浸透させることは大変だ」、「そこまでしなければいけないのか」とお思いになりましたか?これまで触れた通り、経営理念を浸透させるには継続的な取り組みが必要です。「経営理念をつくったけれども意味がない、効果がない」と感じた場合は、おそらく浸透させる取り組みがあと一歩ではないでしょうか。経営理念を浸透させることは、経営者しかできない仕事です。経営者がリーダーシップを発揮し、継続的に取り組むことで、組織を少しずつ変化させましょう。
経営理念は、経営者の企業経営に対する「思い」、「基本的価値観」、「企業の存在意義」を反映したものです。経営理念を形骸化させず、従業員の具体的な業務に落とし込むことで経営理念を形にし、会社や提供する商品、サービスの価値を高めましょう。
(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)
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