先日、あるテレビ番組で「名代 富士そば」の経営が取り上げられており、その中で「富士そばチェーンにはマニュアルが無い」という話がありました。
番組で紹介されていた内容を要約すると、通常の飲食チェーン店では、全店舗で提供するメニューを統一し、調理内容や手順等をマニュアル化しますが、富士そばチェーンでは各店舗で自由にメニューを開発・提供してもよく(一応、本部によるチェックはあるようでしたが)、マニュアルが無い、というものです。
店舗毎に、自店舗に訪れる客層に合わせた商品開発・提供ができるという点で、本取り組みは各店舗で開発・提供される商品品質を担保することができれば非常に有効な手段と感じられます。
しかしながら、これらの取り組みと「マニュアルが無い」ということは全く別次元の問題であり、このような取り組みをしているからといって富士そばチェーンに全くマニュアルが無いかというと、そういうことでもないはずです。
多店舗展開サポートを事業とする当社の考えとしては、多店舗展開を進めるうえでマニュアルは必須のものと考えています。そこで、なぜマニュアルが必要なのか、当社の考えをご紹介します。
なお、なお、店舗ビジネスの多店舗展開に求められる5つの要件について詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
(1)マニュアル化が容易な業務と容易でない業務
マニュアル要・不要を考える前に、マニュアル化の対象となる業務が、その特性によって分類できることを理解することが大切です。
当社では業務を以下の2つに分類してその取り扱いを考えるようにしています。
①やり方に唯一の正解がある業務
やり方に唯一の正解がある業務とは、やり方に決まりがあり、決められた通りに進めることで、誰が実行しても同じ成果が得られるものをいいます。
例えば、飲食チェーン店の業務に当てはめると、決められた時間に開店・閉店すること、お客様が来店した際に確認することや席への案内の仕方などとなります。
これらの業務は、チェーン店であれば必ず決められたルールがあり、そのルールに従って業務を進めることが求められるはずです。
②やり方に唯一の正解が無い業務
①とは異なり、決められたやり方=唯一の正解が無い業務も多く存在します。
例えば、前述した富士そばチェーンの「店舗における客層にあった商品開発」はその進め方に唯一の正解などありえません。
各店舗のスタッフの創意工夫や行動の在り方によって、その進め方は大きく変わってくる業務といえます。そのほかにも、スタッフのモチベーションアップなども、やり方に唯一の正解が無い業務の典型例と言えるでしょう。
以上の通り、特性の異なる2種類の業務があるわけですから、マニュアル要・不要を議論する際に、どちらの業務のことを想定しているか、という点を区別する必要があります。
①の業務は決められた進め方=唯一の正解がある業務ですからマニュアルは必須です。
例えば、飲食店でお客様がご来店された際の対応(例えば、「いらっしゃいませ」と言った後に、人数と席の希望を聞く、など)が決められていないチェーンなど存在しないはずです。
万が一、その対応方法が決められていなかったとしたら、新しいスタッフに対して教育のしようがありませんから、マニュアルという形で書面化されているか否かに関わらず、何らかのルールがあるはずです。
それは実質的に“マニュアルが必要”ということとなりますから、マニュアルが不要という主張は全く持って成り立ちません。
当社ではこれまで100社を超える企業の支援を行ってきましたが、マニュアルと呼べるものがまったく無い企業など見たことがありません。
問題は②の唯一の正解が無い業務の取り扱いでしょう。
例えば、スタッフのモチベーションの上げ方と一言で言っても、具体的に取り組むべき事項はその店舗にいるスタッフの人数やモチベーションの状況、また店長のキャラクターや能力などによって千差万別となりますから、完全にマニュアル化することは極めて困難です。
また、熟練の技術を要するような業務も、その具体的なやり方をシンプルにマニュアル化することは実質的に不可能です。
マニュアル不要論が唱えられる場合、この②の業務を想定して、「マニュアル化したところで意味がない」等の理由で不要と考えられることが多いようです。
(2)マニュアルが不要という勘違い
では、本当に唯一の正解が無い業務だからといって、マニュアルが不要なのでしょうか。
当社としては、その考え方は正しくないものと考えています。
例えば、前述の富士そばチェーンの取り組みを考えてみます。
富士そばチェーンにマニュアルが無いと仮定した場合、店舗での商品開発は、店舗スタッフの自由裁量で行われることとなります。
その場合、開発された商品の品質は店舗スタッフの資質や経験などによって決まることとなり、その品質には店舗間やスタッフ間で必ずばらつきが出ることとなります。
そのばらつきを抑えるために、本部による最終チェックが行われ、本部の求める品質を満たさないものは除外されることになるのでしょうが、このプロセスはどう考えても効率的ではありません。
では、商品開発についての基本的な考え方、プロセス等がマニュアル化されている場合はどうででしょうか。
商品開発は唯一最適な進め方が無い業務の典型ですから、そのマニュアル通りに進めたからと言って全店舗、全スタッフが本部の求める品質水準を即座に満たせるわけではありません。
しかしながら、スタッフの自由裁量に任せる場合と比較すれば、ポイントをおさえたマニュアルがある分、店舗間、スタッフ間のばらつきは間違いなく少なくなるはずです。
マニュアル化が容易でない業務があることは事実です。
ですが、だからと言ってマニュアルが不要かというとそういうわけではないのです。
業務のポイントを抽出してマニュアル化することにより、問題がすべて解決するわけではないものの、品質やスタッフの成長速度のばらつきを抑制できることを認識しなければなりません。
なおマニュアル化の重要性については、こちらのコラムもあわせてご覧ください。
(3)唯一の正解が無い業務をマニュアル化した事例
ここで、当社がマニュアル作成のサポートをしたラーメン店の事例を紹介します。
そのラーメン店では、調理する姿もサービスの一部と捉え、湯切りを使わずに麺をゆでるなど、非常に特徴的な調理方法を採用していました。
一方、その調理方法は麺を上げるタイミングや方法等の面で熟練の技術が要求されるため、調理方法を完全に習得するためには最低でも1年間みっちり修行をすることが必要でした。
人手不足が深刻化する現代において、一人前になるまで1年間もかかってしまうのでは、今後、人材面が企業成長のボトルネックとなることは明白です。
このような熟練の技術が求められる業務はマニュアル化がしにくい典型業務です。
しかしながら、各作業には押さえるべきポイントが必ずあります。
そこで、当社では、ラーメンが完成するまでの一連の流れをすべて洗い出し、各作業のポイント何度も何度もヒアリングして、素人でも調理のポイントがおおむねつかめるようマニュアル化を進めました。
その結果は圧倒的な教育期間の短縮という結果となって現れました。
これまで1年間かかっていたものが、マニュアル作成後は、わずか3か月で完了するようになったのです。
それでも3か月間かかるわけですからマニュアルだけで問題が解決できているわけではありませんが、マニュアルの効果により、これほどまでも生産性が向上したということです。
以上のことから、多店舗展開を進めるうえで“マニュアルが不要”ということはありえません。
人手不足問題が深刻さを増す中で、自社内の人材を早期に戦力化できるかどうかが従来にも増して重要な時代となっています。
もし、人材育成に関して問題や悩みを抱えているのであれば、必要なマニュアルが整備されているかどうか、見直してみるのも一つの手かもしれません。
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