多店舗展開

経営者が人材育成をする上で原因を探るよりも大切な問題解決の方法とは

「部下と対話を続けているのですが、今一歩だと感じでいるんです」
「もう少し部下の行動を自発的にできたらと思っています」

これは先日お話を伺ったサービス業の経営者の方が口にしていた言葉です。

日頃から経営者の方には、社員を自発的に行動できるように育成することの大切さをお話しています。
人手不足な状況はもちろんのこと、これから先どれだけITやAI(人工知能)が進歩して効率的に仕事ができるようになったり、顧客へのサービスの提供の仕方が変わったとしても、そのやり方を考えて、使って、実行するのは、社員です。
働き方が多様化するなか、社員は正社員に限りません。パートやアルバイト、外国人も同様です。

しかし、経営者の方から、「目的は理解しているのだが、多くの社員と対話の時間を確保するのは大変だし、対話が誰とでもスムーズに進むとは限らないんですよね」という率直な声も伺いました。
確かに、経営者は、経営に関しては熱心でプロであっても、いつも誰とでもうまく対話できるとは限りません。

経営者にも人それぞれの持ち味があります。
時間も限られるなか、人材育成の専門家でもありません。
冒頭のお話の経営者に、具体的な内容をお聞きしたところ、自発的に行動できない原因の深掘りに対話の焦点が向き過ぎていることがわかりました。
今回は、人材育成において大切な問題解決の方法をまとめていきます。

なお、多店舗展開を加速するための人材育成システムについて詳しく知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。

多店舗展開を加速する人材育成システムとは

(1)考えや行動の理由を聞いても効果的でない場合とは

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この場合、何が問題なのでしょうか?

質問形式の対話において、部下の考えや行動を引き出す際に、「なぜそう思うのか?」、「ほかに別のアイデアはあるか?」、「それをするとどうなるか?」などと質問することは必要なことです。
さらに、「なぜ?」と聞いて、考えや行動の背景を確認することは重要です。
部下の考えのより深いところを知り、部下に気づきを与えることにもつながるからです。

ところが、それが効果的ではない場合が実はあるのです。
それは、以下の2つの場合です。

①部下が理由に気づいていない

何となく行動している、機械的に作業をしているなどの場合です。

部下がしっかり者で、成長が期待できる1人だとしても、忙しくするなか、すべての行動の目的や意味を考えて、適切に行動できているとは限りません。
また、まだ社会人経験が浅い社員は、会社や組織、店舗、店長などの経営視点の考えや行動には意識が及びません。

そのようなときは、理由や原因を深掘りしても、問題を解決策に導くような背景は残念ながら出てきません。
部下自身が、行動の原因に気づいていないからです。

②理由を聞いても意味がない

「なぜ?」と聞いて、理由は返ってくるものの、そもそもその考え方や行動がふさわしくない場合です。
例えば、何度か指摘しても、同じ間違いを度々繰り返してしまうときや、人間関係に問題があることを隠して仕事の内容で取り繕うとしているときなどです。

このようなときは、深掘りすると、つい間違い探しや責任追及のようになってしまいます。
上司が熱心に対話を心掛けても、会話が空回りするばかりです。

(2)理由ではなく、目的を聞く

そこで、このような場合の対処法をご紹介します。
それは、対話の切り口を少し変え、話の焦点を理由ではなく、目的に変えることです。
「なぜ?」から「それで?」です。

例えば、飲食店で人間関係に問題を抱える部下がどうしてもキッチンの業務をしたがらないとします。
その問題について、心を打ち明け話してくれればよいですが、女性同士の問題の場合などでは、なかなか本音を語らないでしょう。

そのような場合には、「それをするとどうなる?」、「それをするにはどうしたらよい?」と話の方向を行動の目的へと変えるのです。
理由については、横に置いておき、次の行動に話を移します。

こうすると、話が過去から将来のことになるため、話が進みやすくなります。
言葉に詰まっていた部下がスムーズに話すようになるはずです。

過去に行った行動は変えることはできませんが、将来のことであれば、変えることができます。
つまり、理由を聞くことは、それ自体が事態を変えることではありませんが、目的を聞くことは、行動を変えることに直接つながります。

(3)将来の行動の目的に焦点をあて解決の糸口にする

一般的に、問題を解決するためには、原因を追究します。
品質改善であれば、不良品が出た原因を徹底的に追求します。

なぜなら、原因をつかまない限り、適切な対応策がとれず、いつまで経っても問題が解決できないからです。
聞いたことがあるかもしれませんが、トヨタのなぜなぜ分析はその典型です。
「カイゼン」で有名な「トヨタ生産方式」では、問題に対して「なぜ?」を5回繰り返すと言われています。問題解決と再発防止のためです。

しかし、人に関しては、これがいつも当てはまるとは言えません。
身近なことでも、宿題をしない子どもになぜ?と聞きたくなりますが、聞いても適切な答えが出てくるはずはありません。
また、ダイエットが続かない意思の弱さの原因を探ってもらちがあきません。

会社のなかでも同様の場合があります。
経営者や上司が求めていることのゴールは、部下を自発的な人材に育成することです。
その場合、部下の抱える問題を一緒に解決することが正しいアプローチではありますが、問題の原因を探るのではなく、将来の行動の目的に焦点をあてることが、解決への糸口になる場合があります。

(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)

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