(1)効果的な人事評価制度の構築
経営方針と結びついた人事評価制度を導入し、従業員満足度を上げることが会社の魅力を高めることにつながり、顧客の開拓や顧客のリピート率の向上など業績に対する効果が現われます。評価する項目には、業績、能力、行動などがあり、業績は、個人が業務上達成した成果のこと、能力は、業務を遂行する上で、身につけた能力・スキルや活用した能力・スキルのこと、行動は、業績や能力とは異なる勤務態度や意欲などのことです。特に、業績については、一層効果的な制度にするため、評価目標を設定する際に、客観的に評価するための目標の定量化、マイナス要素ではなくプラス要素の評価を意識する目標の方向性、被評価者による業績への関与度合いについて、考慮するとよいと言えます。今回は、評価する項目を選択後の評価シートの作成例についてお伝えします。
(2)人事評価シートの作成例
人事評価シートのフォーマットは様々ですが、基本的な内容として、被評価者の名前や社員番号などの人事情報、評価期間、評価するための目標と成果、会社や自己の評価、最終評価、上司コメントなどを記入できるようにしておくと運用しやすくなります。図1に人事評価シートのシンプルな例を示しますので、参考にしてください。評価シート作成にあたり、検討するポイントは以下の通りです。
目標
- 評価するための目標は、会社や上司が一律に決めることもできますし、従業員による自己申告の方法もあります。営業職や店長などは、目標を一律にすることで、同じ条件で評価できるメリットがあります。また、目標はできる限り定量化しましょう。客観的な評価ができるとともに、振り返りも容易で、やるべき対策も必然的に見えてきます。
- 目標数は、自社の管理能力に合わせた数を設定します。目標数を多くすると、評価を細分化できるメリットがありますが、評価に手間がかかり、制度を導入してもきちんと運用されなくなる場合があるからです。
評価
- 評価結果は定量化します。全体を、100点満点による点数化や、5段階評価やABC評価などに区分する方法があります。定量化により結果がわかりやすく表示され、過去の評価結果との比較や他の従業員との比較、処遇への反映などに利用できるようになります。
- 評価結果基準を事前に明確にします。区分の程度は、成果でわけることができる多さにします。例えば10段階など細分化する場合は、必ず成果別に区分できるようにします。
例えば、1~3までの3段階評価の場合で、売上げを評価する場合、
☑3⇒前年比+20%以上
☑2⇒前年比+20%未満、▲20%以上
☑1⇒前年比▲20%未満、などです。また、能力や行動など定性的な評価の場合は、
☑3⇒リーダーとして、経営方針と自らの役割を理解し、職責を超える成果をあげている。
☑2⇒リーダーとして、経営方針と自らの役割を理解し、成果をあげている。
☑1⇒リーダーとして、経営方針や自らの役割の理解、行動への反映が不十分。と明確化することで、被評価者に対して目標がわかりやすくなると同時に、評価者が評価をしやすくなります。評価シートに、評価の基準となる売上金額などを具体的に記載してもかまいません。
- 評価欄は、図1の評価シート例のように、自己評価だけの場合もあれば、自己評価と上司評価をそれぞれ設定する場合もあります。最終評価の欄は会社が記入します。
フィードバック
- 上司や会社のフィードバックコメント欄を設けましょう。成果のレビュー、評価の背景、今後の期待などを記入して、被評価者に評価の結果を伝えます。特に、なぜそのような評価になったのかを従業員に理解してもらうことが大切です。忙しい中でも必ず面談を実施し、このフィードバックコメントを用いて、会社の経営方針や従業員に対する期待を伝え、従業員の行動を改善させることに活用しましょう。
図1 人事評価シート 具体例
今回は1つの評価シート例を示しましたが、会社の経営方針に従い、課題を自ら見つけて解決を図る管理職と責任と権限の範囲で決められた業務をこなす一般職では、評価項目などが大きく異なることがあるため、評価シートをわけることもできます。すべてを完成させてから制度を導入しようとすると、時間がかかる場合もありますので、段階的に管理職から導入するなど、柔軟に考えることも必要です。
厚生労働省は、企業の人事評価制度構築を支援するため、職業能力評価基準をWebサイト(https://www.shokugyounouryoku.jp/)で公表しています。ここには、業種別に評価基準や評価シートなど役立つ情報が多数掲載されていますので、参考にされることをお勧めします。
(3)人事評価制度構築による人材確保
人事評価制度を導入するにあたっては、評価項目や評価基準を設定し、評価シートを作り上げます。評価シートを作成することで、評価制度が見える化され、運用できるようになります。人事評価制度は一度導入したら終わりではありません。会社の置かれている環境の変化や運用上の問題を顕在化させて、定期的に見直をして、よりよい人事評価制度にしましょう。人事評価制度の導入により、公正な人事評価を可能にしたり、リーダーとスタッフのコミュニケーションの促進につなげることができます。人手不足による企業間競争激化の中、従業員満足度を高め、求職者にとって魅力のある会社にするための人事制度の構築を検討してみてはいかがでしょうか。
(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)
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