「社員へののれん分けを具体的に考えているのですが、候補者がまったく資金を持っていないんですよね…。どうしたもんでしょうか」
これは、弊社がのれん分け制度構築をサポートさせていただいた美容サロンチェーン経営者からいただいたご相談です。
のれん分け制度を運用するにあたり、よく問題となるのが「独立資金をどう調達するか」というものです。
独立者は一経営者として起業するわけですから、独立資金は独立者自身が用意することが原則です。
ただし、店舗ビジネスを始めるためには一定規模の資金が必要で、その資金を自己資金で調達できる従業員はそれほど多くないでしょう。
そのため、本部が独立者の資金調達のサポートを行うことが多くみられます。
とはいえ、資金調達支援にも様々な方策があり、それぞれメリット、デメリットが存在します。
そこで、今回はのれん分け制度における資金調達支援の類型と基本的な考え方をご紹介します。
(1)資金調達支援の選択肢
独立に必要な資金を自己資金でまかなえない場合、何らかの方法で資金を調達しなければなりません。
とはいえ、これまで従業員として働いていた独立者が、自らの力で第三者から資金を調達することは容易なことではありません。
したがって、本部としては何かしらのサポートを行うことが必要となるケースが多くあります。
基本的な支援方法としては以下があげられます。
①事業計画作成などの間接的な支援
金融機関等から借入(または第三者からの出資)を受ける場合、「その事業が儲かること」を相手に伝わるように事業計画書として整理することが求められます。
経営者であれば、すでに事業計画書を作成した経験があるでしょうからそれほど難しいことではありませんが、独立者からすればはじめて取り組むことですので、この作業は容易なことではありません。
また金融機関等とのコミュニケーションを取ることも同様といえます。
そこで、本部としては、資金調達に必要となる事業計画書の作成や、金融機関等との交渉をサポートすることが考えられます。
最も基本的な支援方法といえるでしょう。
②本部による直接貸付
店舗開業時に必要となる資金の全額または一部を、本部が独立者に対して直接貸し付ける方法です。
独立者からすれば、これまで働いていた会社から融資を受けられるのですから、第三者から調達するのと比べて、抵抗なく資金を調達することができるでしょう。
独立者への支援の一環として、貸し付ける金利を低利に設定している本部もあります。
独立者から見れば、本部からの直接貸付はメリットが大きいですが、その反面、本部からみれば
- 「独立者店舗の経営不振時に債権の回収ができなくなる可能性がある」
- 「本部の手元資金が減少するため、不測の事態が発生した際に資金繰りが厳しくなる可能性がある」
といったリスクを負うこととなります。
したがって、連帯保証人をとるなど、リスク回避策とあわせて導入することが望ましいでしょう。
③本部による保証
本部による直接貸付とは異なり、本部が金融機関等からの借り入れの保証人となることで、独立者の資金調達をサポートする方法です。
保証するとはいえ、借入の主体は独立者となりますから、開業初期段階で経営者としての経験を積むという意味では、本部による直接貸付よりもプラスになるかもしれません。
ただし、本部による直接貸付と同様、本部が一定のリスクを負うこととなりますので、導入には慎重な判断が求められます。
最近では国が創業者に対する支援を積極的に行っており、第三者保証を不要とする融資制度も多くあります。
基本的にはそれらの制度を活用し、本部としての支援は直接貸し付けや保証といった直接的なサポートではなく、事業計画書作成などの間接的なサポートを基準に検討するとよいでしょう。
④サブリース方式の活用
サブリース方式とは、本部が保有する店舗資産を独立者に貸し付け、独立者からは施設使用料として家賃+αの代金を回収する方法です。
独立者にとっては、店舗資産に対する初期投資が不要となりますから、少ない自己資金でも開業することができるメリットがあります。
サブリース方式では、独立者が本来であれば開業時に行うべき投資を本部が代わりに行う代わりに、独立者は本部に対して、本部が保有する店舗資産を利用する対価として店舗使用料を支払っていくこととなります。
そのため、独立者に日々支払う固定費は一般的な独立と比べて高額になることになります。
少し複雑な話をすると、開業時に店舗資産に対して初期投資をした場合、初期投資金額は減価償却費として開業後の経費にはなりますが、実際には開業時に支出していますので、開業後の資金繰りには影響しません。
一方、サブリース方式の場合、減価償却費と同程度の金額がそのままキャッシュアウトしていくことになります。
売上好調時は問題ないかもしれませんが、売上が落ち込むと、固定費が大きい分、資金繰りは急速に悪化します。
仮に、独立者店舗が業績不振により事業継続できなくなれば、店舗の所有者である本部にも損害が発生する可能性が生じます。
この点は、サブリース方式のデメリットといえるでしょう。
なお、サブリース方式については「のれん分け制度におけるサブリースの活用とは」により詳しくまとめていますので、ご興味のある方はそちらをご覧ください。
(2)資金調達支援に対する基本的な考え方
このように、のれん分け制度の運用にあたり、様々な資金調達方法が存在します。
本部や独立者の置かれている状況に応じて、いずれかの方法を利用することは一つの選択肢といえます。
ただし、資金管理(資金調達、資金繰りなど)は経営における最重要課題といえます。
そのため、本部が資金調達についてすべて面倒見てしまうことは、経営の本質から考えると望ましい方法とはいえません。
独立者の経営者意識の醸成、経験の蓄積といった観点ではマイナスになるでしょう。
独立者の経営者としての自覚や能力を育てるためにも、事業計画書の作成や金融機関への取り次ぎといった間接的な支援を基準に考え、直接的な支援は最小限にとどめておくべきといえます。
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