「2、3年前までは経験者を採用できたのですが、最近はいい人材が応募してきません・・・」
「若い人の定着率があまりよくないんですよね・・・」
上記は、お話を伺った飲食業とエステティック業の経営者の方の言葉です。
人手不足が定常化し、特に飲食業やサービス業では人材の採用が非常に難しくなっています。少子高齢化の流れは変わらず、競合他社との人材の奪い合いは一層激しくなるばかりです。このような環境下では、企業は「人を採用する」という意識より、「求職者に自社を選んでもらう」という姿勢に、考え方を変えたほうがよさそうです。
それでは、どのような会社が求職者にとって、魅力的なのでしょうか?
ある新卒者の調査では、「自らの成長が期待できる」が一番で、「福利厚生や手当が充実している」といった処遇・条件面が続きました。つまり、働き方のスタイルは人それぞれでも、若い人ほど、先行き不透明な将来に対して、「長期的に働きながら成長したい」と考えています。今の時代はどんな大企業でも数年後には倒産しているかもしれない時代です。それを知っている若手人材は、企業に一生を託そうとは考えておらず、仮に働いている企業の業績が悪化して外部に放り出された場合にも、生きていけるよう能力を身に着けたいと感じているでしょう。そして、そうあることが求められる時代になってきています。
そこで、求職者や従業員が「働きたい」と思える職場とするため、自発的人材を育成する仕組みを整えましょう。自発的人材とは、自ら問題を発見し、解決策を考え、実際に行動し、解決できる人材です。このような自発的人材になるということは、自身の成長を意味します。自発的人材を育成する環境を整備することで、定着率が高まると同時に、一緒に働く同僚や働く職場に好影響をもたらします。また、活きいきとした人材が働いている職場は、雰囲気も明るく前向きになり、新規採用者も一緒に働きたいと感じるに違いないでしょう。
(1)自発的人材育成における能力評価の事例とポイント
自発的人材育成を実施するには、キャリア形成支援により、従業員の中長期的なキャリアアップを見通すことを支援し、仕事に対する自発性を高めます。その上で、キャリア別・レベル別の能力評価とスキルアップ支援につなげることで、業務遂行力がつくようになります(図1参照)。なぜなら、先行き不透明な世の中において、自分自身のキャリアを見える化し、何があっても生きていける能力を身に着けることが、従業員のモチベーションアップに不可欠で、それが、自発的人材育成の前提となるからです。
図1 自発的人材育成の考え方と仕組み
i以前のコラム(自発的人材育成に不可欠なキャリア形成支援とは)でキャリア形成支援については、触れましたので、今回は、能力評価についてご説明します。
従業員の能力を高めるためには、まず、現在の業務を正しく評価することが必要ですので、以下の手順で進めます。
①経験年数に応じて、従業員に期待することを明確化する。
②従業員の業務内容と現状の能力レベルを踏まえ、能力評価シートを作成する。
③能力評価シートの実行状況を定期的に(月次など)で振り返り、フィードバックする。
例えば、レベルは、以下のように1~4段階に設定します。
レベル1:指示されたことを、指示されたとおりに実行できる。
レベル2:決められたことを、指示なく実行できる。
レベル3:自ら考えて行動することができる。
レベル4:会社業績のことを考えて、行動や部下指導ができる。
業務内容は、外食産業であれば、接客や調理などに分けます。
自発的人材育成の観点では、レベル2やレベル3以上の能力評価シートに、問題発見、解決策立案、実行など従業員自らが自発的に考え、行動する項目を入れることで、自発的人材育成につなげます。
外食産業のレベル2(経験年数1~3年目)、接客の場合の能力評価シートを、以下に示します。(表1参照)
表1 外食産業の能力評価シート例
通常レベル1~2用であれば、具体的な作業の達成度合いを測る項目にします。しかし、人材育成を意識した上記の例では、「同僚の仕事をサポートしている」、「自分なりに工夫しながら仕事を行い、効率化や改善を試みている」など自発性を高める具体的な取り組みを含めています。
また、レベルが上がるに応じて、自社オリジナルの項目を入れることは、自社の強みの強化、競合他社との差別化につながるとともに、自発的人材育成に効果的です。他社のマネをするだけではなく、自社がどのような商品・サービスをお客様に提供したらよいか考え、行動するきっかけになるからです。ある飲食店では、テーブルを清潔にして、笑顔でメニューとおしぼりを渡し、飲み物を早く出すことを評価項目に加えていました。お客様に来店して頂き、従業員とのファーストコンタクトが、お客様の店に対する印象を決めるとの経営者の考え方にもとづく業務でした。
(2)自発的人材育成における能力評価シートの活用
入社したての新人社員の場合は、業務を覚えることに精一杯で、評価項目の業務すべてに対応することは難しいかもしれません。しかし、定期的に能力評価シートを活用して面談を重ねることで、求められる業務と自分の行動とのギャップに気づき、次第に能力がアップするとともに、自発的な行動が増えていきます。
また、業務に慣れてきた社員にとっては、達成できない業務はほとんどなくなるでしょう。そのような場合は、指導できるレベルまで業務の質を高めたり、改善点の提案をさせたりすることで、キャリア形成支援にもとづく、次のレベルの業務を見据えることができます。
このように、自発的人材育成を意識して、適切に能力評価することは、従業員に気づきを与え、モチベーションを高めることにつながります。結果として、従業員が活きいきと働き、求職者が求める魅力的な職場となるでしょう。
(参考文献)厚生労働省 職業能力評価基準
(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)
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