(1)人事評価制度と「組織の成功循環モデル」
人事評価制度において、公正・公平な評価をするだけでは不十分です。目的を達成するためには、フィードバック面談を行い、従業員のモチベーションを向上させるとともに、会社が求める人材を育成することが必要です。人材育成につながると、会社が成長し、会社の成長が従業員の自信になって、さらに人材が伸びる好循環となります。これは、マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱している「組織の成功循環モデル」と呼ばれるもので、従業員の行動を変えることが、組織として継続的に成果を出すことにつながることを示しています。下記の図1をもとに、人事評価制度を例にご紹介します。
図1 組織の成功循環モデル(図は筆者作成)
このモデルでは、4つの質の変化に着目しています。
初めに「関係の質」です。何よりもしっかりコミュニケーションがとれる信頼関係や環境が必要です。日頃より従業員間や上司と部下など、円滑なコミュニケーションがとれる環境を意識して整備するとともに、会社は従業員から信頼される人事評価制度を設計・導入する必要があります。そして、人事評価制度の運用の際に、評価結果を活かしたフィードバック面談を行うことで、「思考の質」を高めることにつながります。なぜなら、面談が従業員にとって有意義な気づきを得る機会となるからです。気づきを得ると、自発的にさまざまな考え方、アイデアや方法が思いつくようになり、行動が変化します。これにより「行動の質」が改善します。そして、会社や組織として成果が出る形になり、「結果の質」が向上します。成果が目に見えると、会社に対する肯定感が強まり、一層「関係の質」が強化されます。
このように、4つの質が高まることで、成功循環モデルが機能し、人材育成につながるとともに、人材育成する土壌が組織に生まれます。人事評価制度の運用は、評価結果が出てから、フィードバックするまでの過程が非常に重要であると言えます。
(2)フィードバック面談の目的
組織の成功循環モデルをポジティブに回すために、上司と部下でフィードバック面談を行います。フィードバック面談の目的は、以下の3つです。
- 評価結果が理解されること
- フィードバック面談を通じて、気づきを与えること
- 部下のモチベーションを高めること
フィードバック面談を行う際には、目的をしっかり意識してください。意識が弱いと、評価結果を伝えるだけになってしまい、部下の次の思考や行動に影響を与えることができません。特に、評価結果が良くなかったときは、会社や上司に対する不満でいっぱいになる恐れがあります。面談では、なぜその結果になったのか、良かった点、改善すべき点を伝え、しっかり理解してもらうことが必要です。伝え方としては、必ず、良い点から伝えるようにしましょう。ポジティブな面から話をスタートすることで、面談がスムーズに進みやすくなります。
部下が評価の背景をしっかり理解することが、部下自身が自発的に気づきを得るきっかけになります。これまで、気づいていなかった点であれば「こういう別の見方があったのか」、「自分から行動をすべきだったのではないか」や「上司や周りの理解を得てから進めればよかったかも」など、フィードバック面談を行わなければ知ることができないようなことに気づくことができます。また、気づいてはいても行動を変えようとまで思ってもいなかった場合は、「やはりそうだったか」と自分の考えが正しかったことの裏付けが取れたり、「行動を起こしておくべきだった」と振り返ることに結びつきます。フィードバック面談では、部下に多くの話をさせながら、「これをやってみよう」などと、望ましい行動を一緒に考える姿勢が共感につながります。
前向きに気づきを与えることができ、「思考の質」が高まったところで、実際に「これをやってみよう」と思うようになり、行動が動機づけられます。「やればできる」「評価される」と前向きにとらえることで、気づいた点が行動に反映されます。動機づけの効果的な方法は、一般的には、承認すること、任せる業務範囲を広げること、経営方針や本人の意向に沿った将来のキャリアプランを提示することなどがあります。権限委譲については、効果的な面もありますが、「責任が重くなる」と感じるなど個人差がありますので、上司が一方的に決めるのではなく、具体的に権限委譲や業務内容の話をして、促す形がよいでしょう。
(3)人事評価制度を活かして「組織の成功循環モデル」を実現する
フィードバック面談の重要性をご説明しました。人事評価結果がフィードバック面談を通じて、モチベーションの向上につながることで、従業員が「働きがい」を感じることができます。「働きがい」を感じてもらうことで、自発的で積極的な行動や気づきが生まれ、人材育成と会社の成長につながります。評価者の育成には、評価者訓練を行うことが有効ですが、不慣れな場合には、専門企業に相談することを検討してはいかがでしょうか?
人手不足問題がますます深刻化し、企業間での人材の奪い合いとなっているなか、従業員や求職者がこの会社で働きたい、と思える会社にしていきましょう。
(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)
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