多店舗展開

競争環境での自発的人材育成において大切なこと

「この前期待している部下に指導をしたのですが、少し言い過ぎてしまったようで、それから行動が消極的になってしまったようです」

これは先日お話ししたヘルスケアサービスを展開する会社の経営者の話です。
この経営者によると、期待のあまり熱心に指導はしたが、叱責したようなことは決してなかったとのことでした。

しかし、上司はそう思っても、部下がそのように受け止めるかは話が別です。
部下は厳しく指導された、と感じたのでしょう。

ミレニアム世代以降の若者がよく言われるのは、傷つくことを避ける傾向があることです。
コミュニケーションについても、対面よりもスマホの方がうまく意思疎通を図れる人が増えています。

とくに、自分の行動や考え方を否定されるような言動には強い忌避感があるのでしょう。
これは、少子化による子育て環境や個性重視による競う環境の減少、ゆとり教育の導入などが背景にあると考えられます。
そこで今回は、競争環境での自発的人材育成において大切なことをまとめてみます。

なお、店舗展開を加速する人材育成システムについて、詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。

多店舗展開を加速する人材育成システムとは

(1)日本社会では欧米に比べ「ほめる」習慣が定着しづらい

ところで、近年の日本の教育や人材育成において推奨されているのは「ほめて育てる」ことです。
日本人は外国人に比べると、“ほめ下手”と言われます。

たしかに、「ほめて育てる」ことの重要性や有効性を社会で言われるようになって久しいですが、職場において、上司が部下を「ほめる」習慣が定着したようには見えません。

それではなぜ、例えば米国人は、ほめることが上手なのでしょうか?
それは、実は成人して直面する社会環境と密接な関係があるそうです。

米国の社会は、日本と比べ圧倒的な競争社会です。
機会の平等が保証される一方、そのなかで、生き延びていくことが求められます。

つまり、社会に出るということは、厳しい競争社会にさらされることなのです。
このため、親は子どもを小さい頃から、個性を重視しスポーツなどで競わせることで、将来競争に負けない強い心を育てようとします。

しかし、競争は子どもにとって過酷なものです。
そこで、親は子どもに対して、大きな結果がでたときはもちろん、たとえ小さな成果だったとしても、とにかく大げさにほめ、励ますこことで、子どもの自信や自己肯定感を育てます。

このように、ほめることで、厳しい環境に直面することとののバランスをとっているのです。
それでは、日本ではどうでしょうか?
日本でも徐々にグローバル化や規制の廃止などで、競争が激しくなってきました。

そのため、個性や自己責任という言葉が強調されるようになりましたが、それでも、伝統的に個よりも集団のなかでの規律を守り、適切に振る舞うことが求められています。
このため、親は子どもをしつけるのです。

これは、日本の社会のなかでは理にかなっています。
チームワークや和を重視する日本の社会では、これが合理的な子育てです。

その結果、ほめることよりも、子どもに対してつい指摘(しつけ)が多くなりがちです。
こういった社会背景からも、日本社会では「ほめる」習慣が定着しづらいと言えるでしょう。

(2)自発的人材が求められる環境は厳しい競争環境

このような子育ての違いは、子どもに対してだけ言えることでしょうか?
成長した大人は周りの状況を見極めることができるため、成長過程の子どもとは異なりますが、厳しい競争環境を過酷と思う気持ちは、大人も子どもも変わりはないでしょう。

昨今SNSなどで、自分の情報を発信し“いいね”を求める承認欲求の高まりは、厳しくなった社会環境を反映しているのではないでしょうか。

従来のように集団としての成果を求めるのであれば、個はあまり目立たないほうがよく、会社や上司の指示通りに、行動することが望まれます。
終身雇用と年功序列時代の働き方です。

一方、市場経済が発展し、競争が激化した現代では、競争のなかで生き残る戦略が会社にも個人にも必要になります。
それには、従来よりも個を重視し、さまざまなアイデアを出し合いながら試行錯誤し、変化する市場ニーズに応えていくことが重要になります。

そのため、会社では、言われたことだけを忠実にこなせる社員から、自ら考え行動できる自発的人材が求められているのです。
自発的人材は、競争環境だからこそ必要なのです。

自発的人材は、部下に指示をするだけでは育成できません。
部下の考え方や行動に対してアドバイスし、その結果をフィードバックする仕組みが必要です。
部下は言われたことをやっているだけのほうが楽なはずです。

自発的人材になるためには、自分の頭で考え、率先して行動することが必要であり、行動の結果がフィードバックされたら、次のアクションを考えねばなりません。
これは部下にとって、決してやさしいことではありません。

(3)競争環境での自発的人材育成において大切なこと

自発的な行動が求められるビジネス環境において、期待のあまり、厳しい言葉をかけすぎるのであれば、部下の行動が委縮してもやむをえません。

上司に悪気はまったくないと思いますが、それを受ける部下にとっては、厳しく感じるのです。
おかれている環境において、求められていることのレベルが高いのです。
現代の若者だから、と世代を理由にすることはできません。

まずは、信頼関係の構築です。
そもそも親子には日々の生活を通じて固い信頼関係があります。

上司と部下においても日頃から対話を心掛け、部下の考えや行動などの話をできるだけ多く聞くようにします。
いろいろ話を聞いてくれる上司に対して、部下の心のなかで、安心感や信頼感が醸成されるでしょう。

そして、先ほどの米国の子育ての例であったように、競争環境とほめること、励ましは一体のものです。
部下の成長に期待するのであれば、熱心さのあまり厳しく接するのではなく、厳しい経営環境、育成環境であることを認識し、逆に部下の考え方や行動を、おおげさなくらいほめ、励ますことが求められます。

厳しい環境だからこそ、小さなことでも、ほめることと励ましが必要なのです。
もし、それでもほめることが難しいようであれば、目標を今よりもう少し細分化してみましょう。
目標を小刻みにすることで目標が達成しやすくなり、ほめる機会が増えます。

こうして、ほめることと励ましにより、部下の仕事に対する自信と自己肯定感を高めることができます。自己肯定感を高めることができれば、行動は次第に積極的になることでしょう。

(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)

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