多店舗展開

給与水準が上昇する中で必要利益を確保するための考え方

「ここ最近人件費が高騰してきていて徐々に利益が出せなくなってきています。今後どうしていったらいいでしょうか…」
これは、収益性改善の相談で当社に訪れた飲食チェーン経営者からのご相談です。

人手不足問題の深刻化、最低賃金の引上げ、有給取得の義務化等により人件費負担が増加し、企業が必要利益を確保することが難しい時代となっています。同様の悩みをお持ちの経営者も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

政府方針では全国の平均時給を1,000円まで引き上げるとしていること、今後も生産年齢人口が減少していくことは確実であること等を踏まえると、人件費負担増加の傾向は今後も続いていくことは間違いありません。このような時代の中で企業が必要な利益を確保していくためには、働き手の生産性を高めていくことが求められます。

企業の生産性を高めていくためには、社員のスキルアップや複数業務の兼務、設備導入による省人化等、様々な方策が考えられます。この取り組みに唯一最善の方策はありませんので、社員の知恵を総動員して具体的な方策を検討し、実行していくことになります。
その際、これを感覚的に実施しているだけではそれほど高い生産性向上効果は見られないでしょう。生産性向上を実現していくためには、各種取り組みの効果を定量的かつ継続的に測定し、改善活動のブラッシュアップを行っていくことが不可欠です。

(2)生産性を高めるために管理すべき指標

それでは、生産性向上を実現していくためにどのような指標を定量的に測定していくべきでしょうか。生産性を測定する指標としては、従業員一人当たり売上高、人件費率、労働分配率等、様々な指標がありますが、当社では人時売上高で管理することを推奨しています。

人時売上高とは、「売上高÷社員・パート・アルバイトの総労働時間」で算出するもので、働き手の1時間当たりの売上高を表します。例えば、1日の売上が100,000円の店舗で、その日の働き手の総労働時間が25時間の場合、売上100,000円÷総労働時間25時間=人時売上高4,000円 ということになります。

人時売上高で管理することを推奨する理由は、計算方法が簡単でありながら、企業や店舗の生産性をシンプルに表しているためです。
計算方法が簡単で、店舗レベルで実績を日次管理することができますから、計画策定⇒実行⇒結果の振り返り⇒計画の再構築 といったPDCAサイクルを、現時点で仕組みがなくとも比較的簡単に回していくことができます。また、働き手1人の1時間当たりの売上高という概念は、社員やパート・アルバイトスタッフにとっても理解しやすい点もメリットといえるでしょう。

(3)生産性向上に向けた取り組みの本質

給与水準が上昇する中で必要利益を確保していくためには、この人時売上高を指標としたPDCAサイクルを確立することが極めて効果的です。具体的には以下のステップとなります。

①人時売上高目標の設定

はじめに、現状の人時売上高をふまえ、目標値を設定します。
いきなり理想とする値を達成することは難しいため、はじめは現状をベースに設定し、数値の改善にあわせて目標を高くしていく方法がおすすめです。
人時売上高の適正水準は業種業態によって違いがありますが、飲食店で言えば5,000円以上を実現したいところです。

②目標達成に向けた取り組み策の策定

次に、目標とする人時売上高を達成するために店舗で取り組む具体的なアクションを決定します。そのアクションを実行した結果、目標とする人時売上高が達成できる、といった関係性を持たせることが重要です。「○○を頑張る」「○○を徹底する」等のような抽象的な設定では行動レベルでの振り返りができないためあまり意味がありません。あとから当該アクションを実施したのかしていないのか、振り返りができるレベルで設定しておくことがポイントとなります。

③取り組み策の実行

②まで決定したら、それを現場で実際に実行します。現場の社員やパート・アルバイトにまかせっきりにするのではなく、管理者が定期的に目標達成度合いと取り組み策の実行度合いについて進捗確認を実施することが、現場の行動水準を引き上げるポイントとなります。

④振り返りと計画の再構築

週毎や月毎に、人時売上高目標の達成度合い、取り組み策の実行度合いを振り返ります。振り返りのポイントは、以下のパターンに分類して対応することでしょう。

A人時売上高目標達成、取り組み策の実行度100%

結果レベルと行動レベルのそれぞれで目標を達成することができており、最も理想とする形です。この状態であれば順調に生産性が向上していくことが期待できますので、次はさらに高い目標達成に向けて取り組んでいきます。

B人時売上高目標未達成、取り組み策の実行度100%

決めた取り組み策を100%実施したにもかかわらず結果レベルの目標が未達成ということは、前述した「アクションを実行した結果、目標とする人時売上高が達成できるといった関係性」が成立していなかったことが考えられます。ですから、次は取り組み策をブラッシュアップすることが求められているものといえます。

C人時売上高目標達成、取り組み策の実行度100%未満

取り組み策を実行していないにもかかわらず人時売上高目標が達成できたということは、「たまたま達成できただけ」で「狙った達成」ということではありません。このようなケースで考えられるのは、目標値の水準が低すぎることです。ですから、次はより高い目標を設定し、取り組み策を100%実行するよう指導することが求められるものといえます。

D人時売上高目標未達成、取り組み策の実行度100%未満

取り組み策を実行しておらず、人時売上高目標も未達成ということですから、生産性が向上するわけがありません。このような場合には、なぜ取り組み策を実行していないのかを確認したうえで、まずは取り組み策を100%実行するよう徹底的に指導していく必要があります。

このプロセスをまわしていくことは決して簡単なことではありません。ですが、地道に続けていくことで、確実に企業の生産性はアップしていきます。筋トレと同様、1年間も続ければ雲泥の違いが出ることでしょう。
今後、人件費水準が高騰していくことを避けることはできません。上昇した人件費にも耐えうるだけの高生産性体質を構築することが、給与水準が上昇する中で必要利益を確保するための唯一最善の方策といえるのです。

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