多店舗展開

働く場としての魅力を高める経営理念

(1)経営理念の必要性

経営理念、経営ビジョンと聞いて、何を思い浮かべますか?あなたの会社にありますか?もしかすると、一度も考えたことがないかもしれません。商品やサービスを販売促進する際には、顧客に商品・サービスを印象付けるため特徴を表すキャッチフレーズで訴求することがあると思います。例えば、飲食業のトンカツ屋では、ただ、やわらかいロースといってもそのお肉の良さは伝わらず、新鮮○○産黒豚を使用とか、はしでスッと切れるほどやわらかいなど、おいしく伝わる工夫をするでしょう。
会社についても同様です。労働人口の減少と求人数の増加により、各企業による人材確保競争が過熱している状況では、自社の商品・サービスを顧客に売り込むことと同様に、自社の魅力を積極的にアピールして、求職者に「働きたい」と思ってもらうことが必要です。

(2)経営理念が、経営判断や行動規範につながる

会社の魅力をアピールするためには、まず経営理念を伝えます。経営理念とは、経営者の企業経営に対する「思い」、「基本的価値観」、「企業の存在意義」などを明文化したものです。先ほどのトンカツ屋の例でも、街にはトンカツ屋はいくつもあります。しかし、トンカツをお客様に提供することにより、「地元地域の発展に貢献したい」や「新鮮○○産黒豚のおいしさを多くの人に味わってほしい」など、企業が伝えたいメッセージはさまざまです。
経営理念を社内・社外に公開することは、他のトンカツ屋との違いを明確化し、事業としてトンカツを提供している経営者の「思い」を伝えることになります。経営理念とは、企業経営の根本にあたるものであり、経営判断の基準になったり、従業員の行動規範のもとになったります。経営理念をベースとして、経営方針や行動計画が策定することになるため、結果として、社内でのさまざまな活動に経営理念が反映されることになります。例えば、経営者の思いが「地元地域の発展に貢献したい」の場合は、トンカツ材料の黒豚に加え、地域でとれた野菜やお米など地域農家と連携した商品の提供や、地元地域の雇用を優先した人事施策などにつながることが考えられます。

(3)経営理念の構成

経営理念をどのように策定したらよいでしょうか?策定の切り口をご紹介します。経営理念を構成する事業領域自社の存在価値を考えます。
事業領域とは、事業ドメインとも呼ばれ、自社がどういった分野で事業を行っていくかを規定するものであり、その事業が対象とする顧客ニーズや提供する本質的な価値を示すことが望ましいと言えます。
自社の存在価値とは、自社が社会に対してどのような価値を提供するかを規定するものであり、社会における存在価値を明確にすることで、従業員全員が誇りを持って働けるような規定とすることが望ましいと言えます。
以上の構成により、経営理念が、事業領域規定・自社の存在価値規定に基づき、どういった方針と姿勢で企業や本部を運営していくかを規定するもの、及び組織構成員の行動規範となる考えにつながります。

(4)経営理念の効果

経営者の「思い」である経営理念を反映した経営方針や行動計画が実行されることで、経営理念が社内に浸透し、企業文化や一体感の醸成、経営判断や従業員の行動の一貫性、従業員のモチベーション向上など社内に効果が表れます。大切なことは、経営者自らが、経営理念が浸透するように、率先して行動することです。従業員は経営者の行動をよく見ています。浸透の方法は、全体会議や朝礼などで定期的に周知、見やすい場所への掲示、従業員一人ひとりにカードを配付など、いくつかありますので、継続して根気よく取り組みましょう。
また、経営理念を社外へのアピールや求人情報に活用することで、会社がどういった「思い」で事業をしているのか、を伝えることができます。先ほどのトンカツ屋の例では、求職者が求人広告を見た際に、ただトンカツ屋といってもどのような雰囲気のお店なのか、将来性はどうなのか、「働きやすさ」や「働きがい」を求めることができるのかなど、わかりません。経営理念をうたうことで、この会社はトンカツ屋ではあるが、地域に貢献しよう、としている姿勢が伝わります。自社のことだけではなく、広く地域のことまで考えている経営者の「思い」が共感につながれば、他の会社との差別化になり、求人情報の基本条件は同じだとしても、求職者が応募してくる可能性が上がります。また、そのような求職者は、入社後定着率が向上しやすいでしょう。

(5)経営理念で差別化して、会社の魅力をアピール

経営資源が限られる中小企業は、求人情報の中の賃金や労働時間など基本条件で他社と大きく差別化することは困難です。そこで、経営理念をしっかりアピールして、経営者の「思い」を求職者に伝えます。経営理念が社会や求職者に受け入れられれば、企業価値を高め、優秀な人材の確保につながります。ポイントは、「共感」を得ることです。
経営理念を掲げ、経営計画を策定しながら、従業員の家庭の事情をある程度考慮した柔軟な勤務制度の導入や、従業員間のコミュニケーションを促進して、従業員の意見をくみ取る仕組みを構築するなどの人事施策を実施することで、従業員満足度を高めることができます。経営者と従業員の信頼関係を高め、経営基盤が一層強化されることになります。是非、自社の経営理念について、考えてみてはいかがでしょうか。

(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)

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