多店舗展開

求職者がその会社で働きたいと感じる会社とは

(1)業界別離職率の状況

前回までに「働きやすさ」と「働きがい」のある職場や会社にすることで、従業員の定着率が高まり、売上げと利益の向上につながることをご説明しました。今回は、従業員満足度の裏返しとして表れる離職率と離職理由を見てみます。

従業員定着率を上げることは離職率を下げることです。厚生労働省の調査によると、平成25年度の中小企業における全産業での常用労働者の離職率は7.2%でした(図1)。業種別では、最も高い業種から「福祉」、「医療・保険」、「生活関連・娯楽業」となっています。

飲食サービス業は、「その他サービス業」に分類されており、上位3業種には入っていませんが、離職率は7.5%で全体の平均より高い数値になっており厳しい状況です。離職率が高いということは、従業員が多く辞めてしまうことですので、いくら新規採用を行っても新規採用の効果が薄いばかりか、人手不足問題を一層加速させてしまいます。穴のあいたバケツに水を入れるようなものです。離職率を低減するには、身体的・精神的に負担の大きい業務の軽減など業界特有の課題に対する改善や、他の業界で成功した人事管理事例を参考にするなどの対策が必要と言えます。

図1 中小企業における常用労働者の離職率

(出典)厚生労働省 「働きやすい・働きがいのある職場つくりに関する調査報告書」より筆者作成

(2)離職者の離職理由

次に離職理由はどうなっているでしょうか?同じ厚生労働省の調査では、「賃金が不満」(44.3%)、「仕事上のストレスが大きい」(37.4%)、「会社の経営理念・社風が合わない」(25.3%)、「職場の人間関係がつらい(職場でのいじめセクハラ・パワハラを含む)」(24.4%)といった労働条件、仕事のストレス、職場の人間関係に関するものが上位を占めていました(図2)。

「働きやすさ」に関連すると考えられるのは、「仕事上のストレスが大きい」、「職場の人間関係がつらい」であり、「働きがい」には、「会社の経営理念・社風が合わない」が関連し、賃金については、「働きやすさ」と「働きがい」どちらにも関係しますので、離職の理由は、どちらか一方に偏っているわけではありません。一度に対策は打てませんが、少しずつでも不満の要因を軽減し、満足の要因を高める人事施策を行うことが有効です。

図2 中小企業における常用労働者の離職理由

(出典)厚生労働省 「働きやすい・働きがいのある職場つくりに関する調査報告書」より筆者作成

(3)中小企業の取組みと就業者間の認識のズレ

それではどのような人事施策を実施すると効果的なのでしょうか?興味深い調査の結果を紹介します。みずほ情報総研のまとめによると、経営者がよいと思い実施する人事施策と従業員が望んでいる人事施策は必ずしも一致していません(表1)。

従業員は期待しているが、中小企業が実施していない施策は、ギャップが大きい順に「他社より高い賃金水準の確保」、「育児・介護にかかる補助・手当」、「賃貸・住宅にかかる補助・手当」となっていますが、予算的に実施が難しい会社もあるでしょう。「メンター制度等の各種サポート」や「配置やキャリアプランなどの相談制度」などは予算と別に対応可能ですので、例えば、人材配置やキャリアプランなどを相談できる体制整備とキャリアパスの設定により、さらにキャリアアップできる体制を構築することは認識のズレを解消することに有効です。

一方、中小企業が実施しているが、従業員がそれほど期待していない施策は、「研修・能力開発支援」、「職場環境・人間関係への配慮(ハラスメント防止等)」となっています。業界によっても取り組みに違いはあると思いますが、従業員から見た場合、感じ方が異なっていることを認識したほうが良いと言えるでしょう。

表1中小企業の取組みと従業員との認識のズレ

中小企業の実施率より従業員の期待率が大きい主な人事管理施策(単位:%)

*有効性=中小企業の実施率-従業員の期待率

人事管理施策 有効性 中小企業の実施率 従業員の期待率

*有効性=中小企業の実施率-従業員の期待率
(出典)中小企業庁委託みずほ情報総研 「平成28年度 中小企業・小規模事業者の人材確保・定着等に関する調査」より筆者作成

経営者は深刻化する人手不足問題に対して問題意識を持っており、必要と考えられる対策を行っていますが、従業員の期待とギャップがあるようです。

(4)従業員満足度を高める人事施策の重要性

経営資源や時間が限られている中、従業員の期待をすべて満足させる人事施策を実施することは難しいのが事実です。そのため、人手不足問題は競合他社との人材の奪い合いとなっていますので、競合他社の人事施策を調べたり、従業員へのアンケートやヒアリングを実施して、事前に有効な施策を調査しましょう。その上で、経営理念を明確に定義し、経営計画を策定して従業員と共有する場を設けたり、メンター制度やキャリアプランなどの相談制度構築により働きがいを高めるなど、従業員の離職率を下げ、定着率を高める効果的な人事施策を実施することが大切です。

(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)

 

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