傾聴とは
「傾聴」という言葉があります。
積極的傾聴ともいわれ、相手の発する言葉だけでなく、その背後にある感情や気持ちまで、積極的につかもうとする聴き方のことです。
一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
もともとはカウンセリングで用いられ、相手の話を共感的に聞くためのコミュニケーションスキルとして、ビジネスの分野にも広まっていったようです。
コミュニケーション研修では、「聞く」「聴く」「訊く」と3つの「きく」があることをお話します。
その中で「聴く」スキルのトレーニングをまずは実施するのですが、普段のご自身の聴き方を振り返る方が多く、できているようで、実は本当の意味では「聴けていない」ことを実感される方が多いようです。
ビジネスにおいて傾聴は案外難しい現実
ではなぜ多くの、特に管理職以上の方が「実は聴けていなかったかも」と思われるのでしょうか。
それは、相手の感情や気持ちまでつかもうとする際には、「相手モード」で聴く必要があるからです。
「相手モード」とは、言葉通り相手の話を余すところなく聴こうとする態度です。
つまり「自分の思考を相手の話にのみ集中させる」聴き方なので、当然自分のことを考えていては、それは「自分モードで聴いている」ことなのです。
例えば経営者の方が社員の話を聞きながら、「それってつまりこういうことか」「この場合のアドバイスは…」と思った瞬間に、「自分モード」に切り替わっています。
ほかにも、会議での発言を聞きながら、「自分の意見はこうだな」「次にこれを話そう」と考えると、その瞬間に「自分モード」がスイッチオンです。
このように実際のビジネスでは、瞬時に相手の主張を理解しながら、こちらの考えや提案を相手にわかりやすく伝えることが求められるため、「傾聴する」というのは、実はなかなか難しいことがご理解いただけると思います。
傾聴が重要な理由とは
ではなぜビジネスにおいても、傾聴が大切と言われるのでしょうか。
教科書的には「提案等の場面において、相手の情報を正確に漏らさず聴くことで、より相手のニーズにあったものを提案できるため」というようなことを読んだことがあります。
確かにその通りですが、個人的には「人はそれぞれ違う考え方や反応をするので、それをつかむため」だと思っています。
社会人になったばかりのころ、ほとんど話したことのない先輩社員が、飲み会では自身の考えを熱く話してくれたり、営業担当として多くの経営者や店舗従業員の方とお話したりするうちに、「どんな立場や仕事をしていても、自分の考えや意見を持たない人っていないな…」と思った記憶があります。
人の話は自分の感情を刺激するので、立場や関係上、表面的にはイエスと受け入れていても、心の中では「その通り」とか「いやそこはちょっと違うかな」と、誰でも思うのが自然だということです。
もちろんそこには経験による視野の広さや視座の高さによる見え方・とらえ方の違いは当然あり、相手の反応が正しいとは限りません。
しかしその後の「行動」は、その人が心の中でどう思ったかが、大きく影響します。
だからこそ「その違いを意識して聴く」ことが、立場や経験値の違う相手との関係性を深めたり、相手を正しく理解したりすることはもちろん、相手の行動によって成果が左右されるビジネスシーンでは、大変重要なことではないかと思うのです。
つまり、常に傾聴を心がけるというより、より深いコミュニケーションが必要な場面で、意識して切り替えて使うスキルとして、有効ではないかと考えます。
多様性のある組織に必要なコミュニケーションとは
ビジネスにおける環境変化が激しい今、同質的ではない多様性のある組織のほうが、変化に対応しやすいと言われています。
この傾向は今後ますます強まると思われます。
店舗ビジネスにおいても、年代も経験も違う、さまざまなバックグランドを持った多様性のある社員を受け入れ、それぞれの個性や特性を活かした配置により、経営していくこととなるでしょう。
そしてそのような組織を1つにまとめて経営するには、相互理解のためのコミュニケーションが欠かせません。
具体的には、お互いの違いを知るために、相手の考えや思っていること、その人の置かれている状況等を「傾聴する」ことです。
社員の話をさえぎらず、ましてや否定をせずに、言っていることをありのままに聴いてみるのです。
普段、誰よりも会社のことを考えている経営者からすれば、「ちょっと違うな」「勝手なこと言っているな」と思うことも多く、かなりストレスを感じることでしょう。
「違うことに価値がある」と心から納得し、違いを聴く姿勢を意識して持たないと、社員の話をありのままに聴くことは、経営者の心情的には、かなり難しいことかもしれません。
経営者の傾聴は関係性の好循環の始まり
だからこそ、聴く姿勢を持つことは、人を雇用、管理する人にとっては、スキルの1つと言えるのです。
しかし一度身に着けると、経営者と社員の関係も変わっていくことでしょう。
なぜなら、「この人は味方だ」と思わない限り、人は本心を話さないからです。
ましてや経営者からは見えていない忖度の無い情報などは、叱られたり、生意気だと思われたりとする危険を冒してまで、伝えてはくれないでしょう。
つまり経営者や上司といった、ポジションパワーを持つ人からの「存在を認めるサイン」の表れが、傾聴という姿勢を通じて社員に伝わってはじめて、社員は徐々に心を開くのです。
そしてその結果、組織において関係性の好循環が回り始めることでしょう。
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