多店舗展開

求職者がその会社で働きたいと感じる人事施策

(1)職場環境改善の取り組み方法

「働きやすさ」と「働きがい」のある職場や会社にすることで従業員満足度を高められること、賃金・福利厚生・研修制度など多様な人事管理施策がある中で、従業員の声を聞いた上で取り入れると、一層効果的であることを前回までにお話ししました。従業員が生き生き働いていれば、求職者もその様子を見て「その会社で働きたい」と思うものです。
それでは、職場環境改善に取り組むにあたり、どのような人事管理施策があるのか全体像を把握してみましょう。表1をご覧ください。

表1 人事管理施策の全体像

人事管理施策 主な内容
評価・処遇 能力・プロセス・成果に対して、客観的で、公正・公平な評価と処遇
人事異動や配置 業務内容、能力や労働条件にあった職場配置
人材育成 OJT(職務現場において業務を通して行う教育訓練)、研修や自己啓発など、業務スキルの向上を図る機会の提供や権限委譲により業務に裁量性を持たせる
組織風土・文化管理 何でも話し合えたり、業務改善を進める風土や、経営方針や経営情報を共有して一体感のある企業文化の醸成
人間関係管理 上司や同僚との円滑な人間関係とコミュニケーションを図れる職場風土の醸成
福利厚生 仕事や賃金以外の恩恵
労働条件 労働時間や休日、勤務地などの適正化
労働環境 職場の安全衛生・精神衛生面からの心身の健康の確保
仕事・家庭の両立支援 仕事と家庭の両立の支援

上記の通り、人事管理施策としては大きく9つの視点が考えられます。この中で経営資源の限られる中小企業にとって、有効な施策は、組織風土・文化管理や人間関係管理です。経営理念など経営者の思いや経営方針・計画などの経営状況を従業員に直接経営者の言葉で説明することで、従業員の共感を得て、会社に対する帰属意識が高まり、モチベーションアップにつながります。また、業界内の競合他社の状況との比較や自社の従業員の声を参考にして実施策を検討すると、一層効果的です。

(2)「組織風土・文化管理」の取り組み事例

組織風土を改善した事例を紹介します。A社はある地域に複数出店している飲食店です。長い間トップダウンの経営を行っていたため、店舗が地域に分散していたことも重なり、組織風土がかなり硬直化していました。結果として、経営者と従業員間や店舗間でのコミュニケーションがあまり行われず、会社の一体感が欠けていました。そのため、同業他社に比べて、離職率が高く、人材不足分の採用を積極的に行っていたものの人材がなかなか定着しませんでした。ある時、会社の業績がよくない時期が続いたため、経営体制が変わることになりました。
そこで、当時取締役だった役員が新社長を務めることになりました。新社長は、業績を回復させるために、早速新しい経営方針と計画を作成し、組織風土の改革のため、従業員に直接説明することから始めました。「会社が変わった」と従業員に感じてもらうためです。新社長はすべての店舗に足を運び、経営方針と計画を説明しました。これまでコニュニケーション不足だったため、従業員は、驚いたり、疑心暗鬼だったり、さまざまな反応を示しました。
さらに2か月経ってから、新社長は各店舗を再訪問しました。各店舗では、気軽に話ができるようにマネージャー社員と一般社員に分けて、新社長と直接対話できるミーティングを開催しました。業務の状況や店舗の雰囲気、課題と思っていること、リクエストなど、さまざまな話が交わされました。この訪問で、従業員の本音がすべて聞けたわけではありませんが、従業員の中には、これまで社長と身近に話したことがない人もいて、ミーティングの後に、メールで感謝を伝える人もいました。
加えて、新社長は、就任から1年経った頃、社外のコンサルタントに依頼し、従業員意識調査をしました。記入者がわからないように匿名にして、率直な意見がでるようにしました。調査後には、コンサルタントが結果を統計的に処理し、わかりやすくまとめました。同業他社と比べて結果はよくないものでしたが、新社長は、自らのコメントつけた上で、結果を正直に公表するとともに、結果を活用した人材配置制度や労働条件の改善などを出来る範囲で行いました。
組織風土改革は一朝一夕にできるものではありません。この事例のように、経営者自らがリーダーシップを発揮し、継続的な取り組みを時間をかけて行うことが必要になります。A社の場合は、新社長が取り組みを始めてから1年で明らかに離職率が低下しました。新社長は、組織風土改革は道半ばと考えており、現在も継続的に取り組みを行っているそうです。

(3)従業員満足度を高める人事管理施策の重要性

人事管理施策を実施する際には、9つの視点から検討してみてください。その上で、会社として力を入れている実施策を明確にして、求職者が「その会社で働きたい」と思ってもらえるようにしっかりアピールしましょう。人手不足問題は競合他社との人材の奪い合いとなっていますので、外部環境である競合他社と内部環境である従業員の両面を意識することで、効果的な人事施策管理施策になります。
今回の事例のように、会社の経営理念などを明確に定義し経営計画を策定して、従業員と共有する場を設けるなどして、従業員に経営理念や将来性をよく理解してもらうことで、働きがいを高めることができます。実践できることから、一つひとつ取り組んでいきましょう。

(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)

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