多店舗展開

店舗ビジネスが抱える“社員のキャリアの限界問題”を克服し、離職を防ぐ方法とは

「従業員を雇用しても、3~5年程度勤務すると退職してしまいます。 そのため、いつまでたっても会社が成長していきません。どうしたものでしょうか」

これは、先日弊社にご相談に訪れた、美容サロンチェーンを営む経営者からのご相談です。

入社して3~5年が経過し、ある程度成長した段階での退職は、会社にとって大きな損失です。特に、美容サロンのように、従業員に顧客が付くビジネスモデルの場合、その影響はより大きなものとなるでしょう。

店舗ビジネスは、人を通じてサービスを提供しますが、経済が成熟化し、サービス内容が同質化する中、競争優位性の源泉は、サービス内容からサービスを提供する働き手の姿勢やスキルに変わりつつあります。
このような時代の中、一定程度まで育った従業員が定着しない状況は、企業の競争力低下をもたらしかねない重大な問題といえます。

そこで今回は、店舗ビジネスにおいて、従業員の定着率を高めるために克服すべき “従業員のキャリアの限界問題”について考えてみたいと思います。

なお、店舗ビジネスの多店舗展開に求められる5つの要件について詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。

店舗ビジネスの多店舗展開に求められる5つの要件とは

1.店舗ビジネスにおいて従業員が定着しない要因

従業員が退職する理由は様々考えられますが、店舗ビジネスにおいて、入社して3~5年程度で退職する人材に多く見られる理由は、
「その会社や業界で働いても、自分の将来がよくなるように感じられない」
といったような、将来に対する不安です。
退職した従業員が別の業界に転職しているのであれば、その可能性がより高いといえます。

なぜ、将来に対する不安が生じるのか。
弊社では、その理由は2点あると考えています。

理由① 従業員が生み出す付加価値が少なく、昇給やキャリアアップに限界がある

理由の1つ目は、店舗ビジネスは、従業員1人当たりが生み出す付加価値が他業種と比べて少なく、結果として昇給やキャリアアップに限界が生じてしまう点です。

先にも述べた通り、店舗ビジネスでは、人を通じてサービスを提供します。
人がサービスを提供する以上、一度に対応できる顧客数には限りがあります。
その結果、機械を用いて価値を生み出す製造業やパソコンを用いて価値を生み出す情報通信業などと比べて、従業員一人当たりが生み出す売上や粗利が少なくなってしまうのです。

例えば、今回ご相談いただいた美容サロンでいえば、かなりの繁盛店であったとしても、従業員一人当たりの売上高は80~100万円/月程度でしょう。
一方、情報通信業であれば、一人当たり数百万円/月を生み出すことも珍しいことではありません。

従業員一人当たりが生み出す付加価値少ないということは、必然的に、従業員に還元する原資も少なくなります。
そのため、店舗ビジネスでは、従業員の給与アップやキャリアアップも、他業種と比べると限界が生じてしまうのです。

これが原因で、店舗ビジネスの働き手は将来に対する不安を持ち、ある程度の経験を積んだ段階で他業界に転職する等の非合理的な行動をとるのです。

理由② 若いうちから自らのキャリアのあり方を考える必要性が薄い時代背景

理由の2つ目は、経済が豊かになり、若いうちから自らのキャリアのあり方を真剣に考える必要性が薄くなっていることがあげられます。

モノが不足していた時代と異なり、現代はモノで溢れています。
成長経済時代のようにがむしゃらに働かずとも、一定水準の生活ができますし、昔にはなかった娯楽もたくさんあります。

どんな仕事をしていても、それなりに満足な生活ができる時代になっているのです。
そのため、若いうちに自らのキャリアのあり方を真剣に考える必要性は、昔と比べれば格段に薄まっています。
「最近の若者は欲がない」等とおっしゃる方もいますが、それは時代背景から考えて自然なことといえるのです。

しかしながら、歳を重ねれば環境も変わります。
同期の中でも収入や生活レベルに差がでてきますし、家族を持てば必要となる生活費も増えていきます。

この結果、歳を重ねるごとに、これまで考えていなかったキャリアに対する不安が、徐々に目の前の問題となって現れていきます。
先に述べた昇給やキャリアアップの限界問題も重なって、将来に対する不安が増していくのです。
これが、店舗ビジネスにおいて、従業員が定着化しない最大の要因といえるでしょう。

2.店舗ビジネスにおいて従業員の定着化を進めるための基本的な考え方

それでは、店舗ビジネスにおける従業員の定着化を進めるために、企業はどのような取り組みを進めていくべきなのでしょうか。
弊社では、以下のプロセスで取り組みを進めていくことを推奨しています。

①多様なキャリア選択肢の整備

まずはじめに行うべきことは、その会社で働く従業員が選択することができるキャリア選択肢を明確に示すことです。

キャリアパスには、大きく分けると「社内のキャリアパス」と「社外のキャリアパス」の2種類があります。

社内のキャリアパスとは、その会社の中で得られるキャリアパスです。
管理職を目指すコース、技術専門職や教育担当を目指すコース、自分のペースでストレスなく働くコースなど、自社で働く従業員が望みそうなキャリアのあり方を幅広く整備することが望まれます。

社外のキャリアパスとは、その会社の外で得られるキャリアパスで、より具体的には独立を意味します。
独立にも、独力で独立する方法と、のれん分けのように本部企業のサポートを得て独立する方法があります。

先にも述べた通り、店舗ビジネスでは、従業員一人当たりが生み出す付加価値に限りがありますから、社内のキャリアパスだけではおのずと限界が生じます。
その点、独立という選択肢は、店舗ビジネスが抱える給料アップやキャリアアップの限界を克服することができるため、近年注目が高まっています。

最近では、従業員に対して自社店舗を使用して独立することを認めるのれん分け制度を導入する企業が増えています。
経済が豊かになり、キャリアのあり方も多様化が進んでいますので、できる限り多様なキャリアパスを整備することが望ましいでしょう。

なお、のれん分け制度の仕組みや成功のポイントについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。

事業拡大したい経営者必見!のれん分け制度をつくる7つの手順と、のれん分け成功の3つのポイント

②各社員が目指すキャリアについて考えるきっかけの提供

多様なキャリア選択肢を整備したら、各社員が目指すキャリアについて考えるきっかけを提供します。

先にも述べた通り、現代は、若いうちから自らのキャリアを真剣に考える必要性が薄くなっている時代です。
会社が幅広いキャリアの選択肢を示したとしても、従業員が自らの目指すキャリアを自発的に考えることなどない、と考えたほうが自然です。

ですから、会社側から積極的に、各社員が目指すキャリアについて考えるきっかけを提供していく必要があるのです。

具体的には、自社で選択できるキャリアパスはどのようなものがあるか、それぞれのメリット・デメリットはどのようなものか等を伝え、その内容を踏まえて、各従業員の望むキャリアがどのようなものかを考えてもらいます。
研修形式で行うことが一般的ですが、従業員数が少ないうちは、個人面談で実施してもよいでしょう。

このような機会を会社が率先して提供していくことで、会社が整備したキャリアパスに対して、各従業員が目指すあり方を真剣に考えるようになるのです。

なお、店舗ビジネスを営む企業がキャリア教育を行わなければならない理由について詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。

店舗ビジネスを営む企業がキャリア教育を行わなければならない理由

③各社員の目指すキャリアにあわせた教育

各従業員が目指すキャリアパスが明確化されたら、その内容に応じた教育を行っていきます。

ここで注意すべきは、各従業員に対して行うべき教育は一様ではない、ということです。
目指すキャリアパスが異なるのですから、教育の内容や方法も変わることは当然のことでしょう。

独立を目指す人材には経営者に求められる資質や経営知識習得のための教育が必要でしょうし、管理職を目指す人材には管理者に求められる資質や役割にいて教育を行う必要があります。

各従業員が目指すキャリアパスを把握して必要な教育を実施し、目指す姿に着実に近づいていることを日々確認させることが大切です。
自らが目指すキャリアに近づいていることを日々実感することで、将来に対する不安が払しょくされ、結果として定着化につながっていくのです。

まとめ

以上、店舗ビジネスにおいて、従業員の定着率を高めるために克服すべき “従業員のキャリアの限界問題”について、その解決の基本的な考え方を紹介しました。

「そこまでやらなければならいのか」
「そんな大変なことが現実的にできるのか」
等と感じられるかもしれません。

確かに、これらのことを遂行するのはとても大変です。
そして、必ずしもやらなければならないことではありません。
ゆえに、多くの企業がこれらの取り組みを行わず、結果、従業員が定着せずに苦労をしています。

店舗ビジネス企業が従業員の定着率を中長期的に高い水準で維持するためには、
これらの取り組みを進めていくことが不可欠です。

中長期的に得たい姿を実現するために、本来やるべきことに目を向けて、着実に遂行する。
このことでしか、経営者が得たい未来を得ることはできません。

得たい未来を得るためには、経営者が覚悟を決めて、一歩踏み出すこと。
この姿勢が、企業の競争力を左右するのではないでしょうか。

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