多店舗展開

自発的人材育成に不可欠なキャリア形成支援とは

「言われたことはしっかりやってくれるんですけど・・・」
「自発的に行動できる人材はどのように育てればよいのでしょうか・・・」

上記は、最近お話を伺ったラーメンチェーンの経営者の方の言葉です。
その経営者の会社では、新人社員や業務範囲が変わった社員に対して、作業手順書を用意して教育をしているそうです。先輩社員の指導もよく、数週間すると効率的に業務を進められるようになり、日々の営業をする上で支障は少なくなっています。
 しかし、急な従業員の休みで人手が足らなくなったり、残念ながら社員が辞めてしまったりすると、とたんに業務が回らなくなってしまいます。また、「業容を拡大しよう」という時に、規模や店舗拡大のための動きがとれません。なぜなら、社員が決まった範囲の仕事しかできなかったり、店長などマネージャークラスがライン(飲食業でのフロアやキッチン、教育・サービス業での講師などサービスを直接提供する業務・ポジション)に入ってしまっているからです。イレギュラー時に、臨機応変な対応ができる人材・組織体制になっていないと言えるでしょう。
そこで、自ら問題を発見し、解決策を考え、実際に行動し、解決できる自発的人材を育成することが日頃の事業運営、ひいては会社の持続的成長にとって重要になってきます。

(1)自発的人材育成におけるキャリア形成支援の重要性

自発的人材育成を実施するには、まず従業員の気持ちを「ただ業務をこなして一日終わればよい」から、「ずっとこの会社で働きたい」に変えることが必要です。そこで、まずキャリア形成支援を行います。キャリア形成支援とは、勤務経験に応じて、店舗スタッフや店長、エリアマネージャーなどの道筋があることを示し、従業員が役割を果たせるように支援することです。従業員が自分自身の中長期的なキャリアアップを見通すことができれば、仕事に対する意識や姿勢が変わり、自発性が生まれます。その上で、会社の求める人物像にもとづく、キャリア別・レベル別の能力評価とスキルアップ支援につなげることで、業務遂行力もつくようになります。このように自発的人材育成において、キャリア形成支援は重要な取り組みです。(図1参照)

図1 「自発的人材育成のイメージ」

(2)自発的人材育成のキャリア形成支援の内容

それでは、外食産業を例にキャリア形成支援をご説明します。(図2参照)

外食産業では、キャリアとして形成すべき道筋は、大きく分けて店舗・営業系、企画・開発系、事務・管理系の3つ考えられます。会社の事業規模により、道筋が明確に分かれてない場合があるかもしれませんが、事業規模が大きくなるに従い複数店舗展開の段階では、2~3系統必要になるでしょう。これは、少人数で全ての現場対応をしていた体制と、業務ごとに担当を分け組織として効率化を図る体制との違いによるものです。複数の系統があれば、従業員は、1つの業務に縛られず、役割に応じて得意分野を活かし、専門性を高めていくことができます。会社により、規模、業態、役職、人事制度など異なると思いますので、レベルや系統、役割などは、ご自身の会社の状況に適したステップをお考えください。

図2 外食産業のキャリア支援 例

(厚生労働省 職業能力評価基準をもとに筆者作成)

 タテのキャリアでは、店舗・営業系であれば、経験・能力に応じて、店舗スタッフから、店長などの管理者、エリアマネージャーなどの上級管理職への道筋があります。タテの動きは、専門性を高めるステップで、おおよその経験年数などにより、数年後の役割がステップアップします。
また、キャリア形成は基本的にタテの動きを主として進めますが、業務の幅を広げるヨコの動きもあります。ある従業員が入社後フロアスタッフとしてキャリアを積んできたとしても、従業員の能力が営業より会計に適している場合などです。そのような場合、ヨコへのキャリア形成が可能であることを示すことができます。

(3)自発的人材育成におけるキャリア形成支援の効果

キャリア形成支援による従業員と会社のメリットはどのようなものがあるでしょうか?以下の通り、従業員と会社、両者にとってメリットが大きいことがわかります。

従業員にとって

・自分自身の将来像がイメージできる。
・会社に対する期待や安心感を得られる。
・将来期待される役割との能力・経験のギャップを意識し、次の行動につながる。
・系統によりキャリアチェンジできることがわかる。
・会社が従業員を大切にしていることがわかる。

会社にとって

・従業員を動機づけられ、自発的人材育成につながる。
・優秀な人材の流出を防止できる。
・従業員の異動により組織の活性化や改善策の発見・実施につながる。

このように自発的人材育成をテーマとして、キャリア形成支援に取り組むことは、人事面だけではなく、会社の成長に貢献するものが多いと言えます。将来の自発的人材登用に向けて、まずはできることから取り組んでみてはいかがでしょうか。

(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)

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