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経営者が陥りやすい社員モチベーションアップの落とし穴

「働き方改革の流れに対応すべく、残業を希望しない人材向けの仕組みを作りたいのですが、どのように思われますか?」

これは、先日当社にご相談に来られた、社員の意識やモチベーションアップに向けて様々な取り組みを行っている飲食チェーン経営者から頂いたご相談です。

現代は、個人のニーズが多様化している時代です。残業をたくさんして収入を増やしたい、能力を高めたい、という人材がいる一方で、プライベートを充実させるために仕事に費やす時間は極力少なくしたい、という人材もいます。ですから、本仕組みの導入は、個人のニーズが多様化する現代において、とても素晴らしい考え方だと思います。

ただし、残業を希望しない人材向けに「残業をしないでもよい制度」をつくったからといって、それだけで当該社員のモチベーションが上がるかというと、それは大きな誤解です。このようにお伝えすると「社員の希望に合わせた制度をつくっているのだから、モチベーションは上がるに決まっているだろ!」と反論を受けるかもしれません。しかしながら、当社がこれまで関与してきた企業の中には、事実として以下のような事態に陥っている企業があります。

  • 給与をあげてほしいという要望が多かったので、一律3万円の賃上げを断行したところ、社員は一時的に喜んではくれたものの、賃上げ前後で働きには大きな変化は生じなかった
  • 社員アンケートの結果「賞与が支払われるか不安」という声が多かったので、無理をして賞与を支給したが、「金額が少ない!」とまさかの不満を生むことになった
  • 残業時間数が多いことに対する不満が多かったため、会社の収益悪化を覚悟で人材を増員して労働時間短縮を実現したが、社員はより一層の労働時間短縮を要求してきた

どれも、社員の希望や不満に対応すべく、経営者が改革を断行した事例ですが、どの事例も、一時的な満足や不満解消にはつながっているものの、社員の継続的なモチベーションアップにつながることはありませんでした。

なぜ、社員の希望や不満に対応したにもかかわらず、モチベーションアップにつながらないのか。これを理解するには、人の持つ欲求を理解する必要があります。

(1)人間の欲求

人間には、大きく5階層の欲求があるといわれています。

それぞれの欲求の意味合いは以下の通りです。

自己実現欲求自分の能力を引き出したい
尊厳欲求他者から認められたい
社会的欲求集団に属したい、仲間が欲しい
安全欲求安全・安心な暮らしがしたい
生理的欲求生きるための最低限の欲求

上記の欲求を、社員が持つ欲求に変換していくと、以下のような形になるかと思います。

自己実現欲求仕事のやりがい、達成感
尊厳欲求評価、称賛、責任
社会的欲求経営者・上司・同僚との人間関係、会社との信頼関係
安全欲求労働条件、給与、会社の将来性
生理的欲求

上記の欲求階層を踏まえ、前述の事例で取り扱った「賃上げ」「賞与」「労働時間削減」がどの欲求にあたるかを確認してみると、どれも労働条件に該当する内容ですから、生理的欲求、安全欲求に該当することが確認できます。
ここで注意しなければならない点は、安全欲求や生理的欲求は「満たされないと不満に感じるもので、満たされてもモチベーションが上がるものではない」ということです。このようなものを、専門用語では衛生要因と呼びます。
例えば、飲食店に行くことを想像してみてください。お店のトイレを使用して、トイレがきれいに掃除されていたとして、そのことに対して「嬉しい!」と感じるでしょうか。おそらく、ほとんどの方にとって飲食店のトイレが奇麗にされていることは当然のことで、そのことに対して嬉しいと感じることはないでしょう。
では、仮にそのトイレがすごく汚れていたらどうでしょうか。この場合、そのことに対して強い不満を感じ、人によっては「二度とし利用しない!」と考えるかもしれません。
このように「満たされていても普通だけど、満たされていないと強い不満を感じる」というものが、衛生要因です。
話を戻しますが、給与や賞与、労働時間に代表される労働条件は、意外なことにも、すべて衛生要因に該当します。そのため、仮に労働条件を社員の希望にあわせて改善したとしても、それ自体がモチベーションにはなりえないのです。社員のモチベーションで悩んでいる企業の多くが、この落とし穴にはまっているのです。

(2)社員モチベーションアップに有効な人事システムとは

それでは、社員のモチベーションアップを実現するためには、どのような取り組みが求められるのでしょうか。弊社では、以下のポイントを押さえた人事システムを構築することを推奨しています。

①個人に期待する役割の明確化

人材のモチベーションや教育等で悩む企業の大半は、「会社が社員に期待すること」が不明瞭であり、会社の認識と社員の認識に大きなギャップがあります。
会社から期待されている役割が不明瞭であれば、仕事に対するやりがいや責任を感じようがありません。また、そのような会社では、社員の働きに対する評価も正しく行うことができません。
社員のレベルに応じて期待する役割を明らかにすることが、モチベーションアップのスタートラインです。

②役割を果たすために身に着けるべき能力、仕事に対する姿勢の明確化

期待する役割に基づき、各社員に求められる能力や仕事に対する姿勢を明らかにします。各社員への期待がより具体的になることで、各社員に「こういうことを頑張ってみよう!」というモチベーションの源泉が生れます。

③役割に基づいた働きの評価

会社が期待する役割に基づいて、各社員を適正に評価します。
経営者の感覚ではなく、期待される役割に基づいた絶対評価を行うことが重要です。これにより、②で生まれたモチベーションの源泉が加速度的に成長していきます。

④評価結果に基づいた報酬制度とキャリアアップシステム

評価結果を各社員の給与や賞与に反映させます。どのような評価を得ると、どの程度の昇給がなされるのか、賞与が支払われるのかを明示することが重要です。
また、社内におけるキャリアアップの流れ(例えば、一般⇒副店長⇒店長⇒マネージャー⇒部長⇒役員といったもの)と各フェーズの給与水準を示すことで、各社員が期待される役割に基づき努力し、会社に貢献した結果、自らの自己実現も果たせる、といった関係性が生れていきます。会社と社員のWIN-WINの関係が構築されることで、社員のモチベーションが最大化されるのです。

(3)あるべき人事システム導入によって会社が得られること

上記のような人事システムを構築することにより、会社は以下のようなメリットを得ることができます。

社員との信頼関係

職場環境改善に対する会社の本気度を示すことで、会社と社員間の信頼関係の土台が整います。

社員の意欲向上

社内におけるキャリアパスが明確になり、社員が将来の夢や目標をもって働ける環境が整います。

潜在能力の開発

各社員に期待される役割と評価基準が明確化されることで、会社の期待に基づいた社員の能力開発が進みます。

処遇への納得感

評価・報酬制度の透明性が確保され、処遇に対する納得感が生れます。

自立型人材の育成

期待される役割を実現するために各社員が行動すべきことを考える機会を提供することで、自ら考え行動する人材の育成につながります。


給与や賞与、労働時間といった労働条件は、働き手にとって重要なことは間違いありません。しかしながら、だからといってそれだけを対応していて社員のモチベーションが上がるのかというと、そういうわけではないのです。衛生要因と動機付け要因、2つの要素をバランスよく取り込んだ人事システムを構築することが、社員のモチベーションを高める最善の道なのです。

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