人材育成

自発的人材育成の成功事例から学ぶポイントとは

コロナ禍で企業が求める人材が変わりました。
不確実な社会の動きに対応して、顧客の志向や行動様式の変化、材料の供給不足や価格の上昇、社員のマルチスキル化などに対応できる人材の育成が必要となってきたのです。

そこで、人材育成の成果がでている会社の事例から、いくつかの人材育成に効果的な取り組みのポイントをご紹介します。

なお、店舗ビジネスのキャリアの限界を突破する「のれん分け制度」づくりや成功のポイントを知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。

事業拡大したい経営者必見!のれん分け制度をつくる7つの手順と、成功の3つのポイント

社会の変化に対応し自発的に行動できる人材が求められてきている

コロナ禍で企業が求める人材が変わってきているようです。
従来は毎日同じ職場に集まり、同じ業務をしていましたが、不確実な社会の動きに対応して、顧客の志向や行動様式の変化、材料の供給不足や価格の上昇、社員のマルチスキル化などに対応する必要がでてきました。

このような状況に対応するためには、社内の人材を育成することが必要ですが、それは決められた業務をできるようにすることだけではありません。
人材が成長するということは、自ら考えて自発的に行動できるようになることです。

つまり作業マニュアルに沿って業務をできるようにさせたり研修を受けさせたりするのではなく、社員のスキルや対応能力、コミュニケーション能力を高め、その能力を最大限に発揮してもらい、貴重な戦力として継続的に会社に貢献してもらうことです。

自発的人材育成を成功させた会社の事例とは

多くの会社が人材育成の重要さに気づき取り組みを始めましたが、すべての会社が人材育成を順調に進めているわけではありません。

しかし、いくつかの会社では人材の育成に成功しています。
会社によって人材育成の成果がでることとでないこととの違いは何でしょうか?

そこで、筆者が伺った2つの成功事例をご紹介します。

●A社:教育業
この会社は、地域に根差した取り組みを行い小学生から高校生までが通う評判の高い学習塾です。
地域の学習塾のため進学校を目指す生徒ばかりでなく、学校授業の補習を目的とした生徒もいました。

そのようななか、個性的な塾長の生徒をやる気にさせ結果を出させる指導方法が話題となり、校舎を3つまで増やしました。

そうなるとすべての授業を塾長が行うことはできないため、社員に任せることになりました。
しかし塾長の授業のレベルを期待して入塾してくる子どもたちや保護者が満足する授業を提供することは容易ではありませんでした。
単に有名大学を卒業したり、テストの点がよかった社員が教育者として優れているわけではありません。

そこで、塾長はその塾の経営方針に共感し可能性のある人材を採用し育成をしました。
そして、数人の社員が顧客を満足させるレベルにまで成長し授業を任せられるようになりました。

塾長は生徒の指導法を社員にも応用しました。
塾長は生徒を指導するために、まず対話を繰り返し行います。

対話は生徒や保護者とともに年に2回、塾長が自ら行っている課題解決方法です。
生徒の様子をしっかり観察し保護者の要望を理解し、どのような教育方法がよいのか、個別に見定めます。

同様に社員に対して、社員のキャリアや特徴を理解したうえで、社員が求められている授業をできるように個別に支援しました。
例えば、塾長の授業の様子を撮影したビデオを見せ、社員の指導の様子と見比べ、違いについて考えさせました。

また、望ましい指導方法が身につくように、OJT(オン・ザ・ジョブトレーニング、職場での実務経験による教育方法)や研修を行ったり、1~3年後のスキル習得目標計画を作成し、定期的にレビューを行い、業務遂行能力や自己管理能力を高めるサポートをしました。
こうして塾長が誇れる先生に育ちました。

●B社:建設業
B社はインフラを構築、整備、点検する会社です。
大きくない会社ですが、現場は常に数カ所に分かれるため、現場のリーダークラスを育てて社員のスキルを向上させることが必要でした。

そのために、社員が自発的に行動できるように、人材育成に取り組み始めました。
いくつかの取り組みのうち、この経営者の方が一番効果のあったと思うのは、目標設定でした。

社員との個別の対話により、年間の目標設定をします。
その目標を達成できるように、経営者が時系列にマイルストーンを具体的にすることを手伝いました。

定期的に社員と達成度合いをレビューすることで、できた目標に対しては、社員は自信を持ち、できなかった目標については、どのようにすればできるようになるのか考えさせ、達成するための支援をしました。

また、人事管理制度の1つである評価と報酬も見直しました。
客観的に評価できるようにして、その評価に応じて報酬も連動させ意欲につなげました。

さらに、自主性や業務遂行能力が高まるに従い、権限委譲を行い、新しいことにチャレンジすることを推奨しました。
この結果、現在では、現場を任せられる人材が育ち、複数の現場の作業が重なっても業務を予定通り進めることができるようになりました。

建設業にとって計画通りに工事を進めることは、施主の意向や道路の占有許可など地域社会に与える影響からとても大切なことです。

自発的人材育成の成功事例から学ぶポイントとは

この2つの事例を通じて、人材育成のポイントと思われる点は次の通りです。

・経営者と社員の双方向の対話
 ・スキルや業務遂行能力向上のための短期的と長期的取り組みのミックス
 ・社員に自ら考え学ぶ機会を提供する
 ・達成すべき目標を明確にして共有する
 ・評価と報酬を連動させる
 ・権限移譲を行いチャレンジさせる

このように、社員を自発的人材に育成するためには、動機づけが大切です。
自発的に考え行動するということは自ら動くことです。
それには、対話を通じて社員に考えされたり、その考えた計画を有言実行させて、成功体験を味あわせたりして自信をつけさせ意欲を高めます。

また、達成した成果を会社がしっかり認めて評価し、その代価として報酬を連動させる人事管理制度も重要です。
そして、これらのベースとなるのは、自発的人材を育てるために前向きな姿勢を奨励し、多様な意見を尊重する企業風土の醸成や社員との信頼感を深める積極的な対話です。

人材育成がうまく進んでいる会社にはいくつかのポイントがありますので、これらから学ぶことで、自社の取り組みに活かしましょう。

(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)

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