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人事評価制度と人材育成・定着率向上

(1)人事評価制度の必要性

人手不足問題は深刻さを増しています。厚生労働省が発表した2018年平均の有効求人倍率は1.61倍で、前年比1.11ポイント上昇し、1973年以来の過去2番目の高水準でした。政府は外国人労働者の受け入れ拡大に向けて在留資格を創設するために出入国管理法を改正するなど対応を迫られている状況です。
企業間で人材確保競争が激化している現代においては、効果的な採用活動を実施することに加えて、従業員の定着率を高める必要があります。それには、従業員の頑張った結果やプロセスをしっかりと評価する公正、公平な人事評価制度を導入して、従業員が業務に励みやすい環境を整えることが大切です。さらに、人事評価制度を人材育成と連携することで、従業員の成長とモチベーションアップも期待することができます。

(2)離職率と人材育成の関係

人材不足の時は採用に注力しがちですが、多くの従業員を採用しても離職する従業員が多くては、穴の開いたバケツに水をくみ続けるようなものですので、対応策として定着率向上により力を入れるべきです。
定着率向上に効果的な方法を考えるため、離職率と人材育成の関係を見てみましょう。厚生労働省が雇用動向調査と能力開発基本調査の結果を公表しており、図1に平成29年の調査結果の抜粋を示しました。代表的な業種として、製造業、運輸業・郵便業、宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業、その他サービス業をあげています。

図1 離職率と人材育成の関係

宿泊業・飲食サービス業において、青い棒グラフの「離職率」は30.0%(左軸)であり、調査した他の業界と比べ、最も離職率が高くなっています。(グラフにない他の建設業や不動産業などを含めて比べても同様)。また、OFF-JT(オフジェーティ)とは、集合研修や通信教育などの職場外での教育訓練のことで、OJT(オージェーティ)とは、職場で指導者に従い、実務を習得する訓練手法です。赤線で囲った棒グラフは、「OFF-JTをしていない企業の割合」で40.4%(右軸)、緑線で囲った棒グラフは、「OJTをしていない企業の割合」で45.2%(右軸)になっています。OFF-JT及び、OJTをしていない企業の割合を人材育成していない企業の割合とみなして考えると、生活関連サービス業の「人材育成をしていない企業の割合」が最も高く、次いで、宿泊業・飲食サービス業となっており、業界の中で、「離職率」と「人材育成をしていない企業の割合」がどちらも高い業界となっているようです。(グラフにない他の建設業や不動産業などを含めて比べても同様)。
参考に、製造業では「離職率」が9.4%、「OFF-JTをしていない企業の割合」は26.3%、「OJTをしていない企業の割合」は36.5%で、相対的に「離職率」と「人材育成をしていない企業の割合」が低くなっています。運輸業・郵便業も同様の傾向となっています。業界による特徴があるため一概には言えませんが、教育訓練を実施し人材育成に積極的な会社は、従業員の定着率が高くなっているようです。
とりわけ、宿泊業・飲食サービス業や生活関連サービス業では、人材育成を行っている企業の割合が低くなっています。そのため、人材育成の取り組みを行うことで定着率が高まることはもちろんのこと、それらの取り組みを求職者に対して情報発信することで、競合他社との差別化となり、人材確保へとつながりやすくなります。宿泊業・飲食サービス業や生活関連サービス業で働きたいと思っていて、企業の人材育成制度に満足していない人に自社の魅力を伝えることができます。

(3)人材育成における人事評価制度の活用

新入社員研修や新任管理職研修などの効果的なOFF-JTに加え、従業員数の多くない中小企業は、従業員に早急に即戦力となってもらうため、一人ひとりにあった教育訓練を実施することが望ましいでしょう。それには、人事評価制度を活用して、個人のスキルを客観的に把握した上で、作業指導やOJTなど個人の特性に応じた人材育成を行うことです。
また、前向きに教育訓練に取り組んでもらうためには、フィードバック面談において、評価結果とともに期待するキャリアプランを示すことが効果的です。従業員の成長意欲が向上し、学習効果が高まることが期待できます。このように、人事評価制度を人材育成と密接に連携させ、人材確保が喫緊の課題の中、公正、公平で信頼性の高い制度を導入して、従業員の定着率向上につなげましょう。

(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)

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