人材育成

部下との対話型コミュニケーションの前に知っておきたい「質問」の改善ポイント

コロナ禍で経済全体の回復が不透明な状況において、人材の重要性を改めて認識し、自発的な取り組みができる人材の育成に力をいれる会社が増えています。
それらの会社の多くは、部下との対話の機会を増やして、「質問」により部下に考えさせ気づきを与えようとする対話型のコミュニケーション方法に取り組み始めました。

しかし、うまく機能しない場合があるようです。
それは「質問」によるコミュニケーションは、実はいつでも誰とでも簡単にできる手法ではないからです。
そこで、自発的人材育成のための対話型コミュニケーションの入り口として、“望ましくない”いくつかの質問例を参考に、「質問」によるコミュニケーションをとるうえでの改善ポイントをご紹介します。

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(1)部下との対話型コミュニケーションがうまくいかない経営者

「セミナーで勉強し、部下とのコミュニケーションを増やして、話を聞いて質問するようにしたのですが、逆にコミュニケーションがうまくいかなくなったような気がするんです」

これは、先日あるサービス業の経営者の方から伺った言葉です。
セミナーに出席したり本を読んだりして、率先して人材育成に取り組み始めました。
ところが、セミナーの内容を意識して、部下とのコミュニケーションを工夫したようなのですが、うまくいってないようです。

(2)対話型コミュニケーションはいつでも誰とでもうまくいく方法ではない

上司が伝えたいことがあるときだけ部下に話しかけるのではなく、部下との対話の機会を増やして、質問により部下に考えさせ、気づきを与えようとする取り組みは、自発的人材育成に役立ちます。
なぜなら、日常の業務の流れに任せるのではなく、自ら考えたり行動したりする機会を積極的に作り出すことが必要だからです。

そのため、ビジネスシーンにおける対話型コミュニケーションに関する記事や本、コーチングと呼ばれる手法の情報は少なくありません。
例えば、コーチングとは、「答えはその人の中にあるという原則のもと、 相手が状況に応じて自ら考え、行動した実感から学ぶことを支援し、相手が本来持っている力や可能性を最大限に発揮できるようサポートするためのコミュニケーション技術」のことです。

ところが、これらのコミュニケーション方法がうまく機能しない場合があります。
実はこれらは、いつでも誰とでも簡単にコミュニケーションできる手法ではないからです。
その1つの要因は、残念ながら上司のコミュニケーション能力不足です。

経営者や上司がとても優秀で、仕事に関する知識や経験が豊富だとしても、すべての経営者や上司がコミュニケーションに長けているとは限りません。
部下に答えを考えさせ、それを引き出すような対話型のコミュニケーションを実施するには、経営者や上司といえども一定の教育・訓練が必要なのです。

(3)部下との対話で心がけたい上司の質問方法とは

そこで、自発的人材育成のための対話型コミュニケーションの入り口として、“望ましくない”いくつかの質問例を参考に、改善ポイントをご紹介します。

望ましくない質問例1:「最近調子はどう?」

部下との対話の場において、この言葉からコミュニケーションをスタートさせる方は多いようです。
本題に入る前に、その場の緊張をほぐし話しやすい和やかな雰囲気にするため、アイスブレイクと呼ばれる投げかけです。

しかしその時にこの言葉はふさわしくありません。
気心の知れた間柄で最近の様子がある程度わかっている場合は問題ありませんが、上司と部下とのアイスブレイクとしては、「抽象的すぎて向いていない」のです。

しかし部下の最近の様子を尋ねることは、対話のスタートとしてはよいアプローチなので、改善ポイントは「もう少し具体的に質問する」ことです。
先ほどの例であれば、「いつも来てくれるお客さんと話が盛り上がってたね」や「この前ランチを頼んだ店、今週の雑誌に出てたけど見た?」などです。
つまり「Yes/Noで答えられ、かつ前向きに回答できる質問」が会話の導入としてスムーズなのです。

望ましくない質問例2:「売上が目標にいってないようだが、どうすればよいだろう?」

上司が部下に、売上目標が未達成な理由を、部下本人に考えさせようとしている質問です。
しかしこの質問では、話し方によっては、部下は責められているように感じ、委縮してしまうかもしれません。
また、経験不足で適切な回答を持ち合わせていない部下であれば、答えに窮するところです。

このような売上など目標について話をしたい場合は、例えば「この前フォローアップしてくれた顧客の注文いくつ入ったかな?」などと質問します。
つまり改善の方向性は「内容が具体的で、部下の行動に焦点があたり、未来志向な問いかけにする」ことです。
過去のことよりも、それを受けて、次どうするかといった将来に関する内容であれば、前向きに捉えやすく、部下も自分の考えを言いやすくなります。

望ましくない質問例3:「この会社(もしくは仕事)でやりたいことって何?」

この質問は一見すると、部下の行動に関した質問であり、未来志向な内容ですが、具体的にやりたいことが決まっていない若い人にとっては、少し難しい質問です。

現代は不確実性が高い世の中と言われています。
今回のコロナ禍も多くの人は予想できませんでした。
そのような環境において、自分が何を目指したらよいのか見定めることは、誰にとっても難しくなってきています。

特に若い人のなかには、条件がよい、休みが多い、業界が伸びている、といった表面的な理由でとりあえず就職した人も少なくないでしょう。
そして、働くなかで、自分に合っていると思われる職種に取り組んでいったり、将来をナビゲートしてくれる先輩に会ったりして、少しずつ専門性を高めながら、自分のやりたいことを発見していくものではないでしょうか。

そこで改善点としては、部下の志向を尋ねるような質問をしたい場合は、まず部下の特性や興味をある程度意識しながら、「上司がこの会社でのいくつかの職種や役職のロールモデルの話をした上で聞いてみる」とよいでしょう。
つまりあらかじめ話のテーブルの上に、部下が考える材料や身近な事例を上司がのせてあげるのです。
それらを見聞きすることで、部下はまだ見ぬ自分の将来を想像し、自分に置き換えて未来を考え始めることができるようになります。

このように、部下との対話型のコミュニケーションを試みる場合は、①内容を具体的にし、②部下の行動に焦点をあて、③未来志向な内容などを意識して、質問をすることです。
これらの工夫をすることで、部下が質問に答えられず黙ってしまったり、言い訳がましくなったり、話がかみ合わなかったりしてコミュニケーションが不調になることは、減ることでしょう。

そして何よりその対話のベースとなるのは、上司が心から部下の成長を願い、部下のことを第一に考えて、対話を心がけることです。
加えて、上司の表情や姿勢も部下には多大な影響を与えるため、言葉以外のコミュニケーションにも意識を向けることが、対話型コミュニケーションを円滑に行う上では重要です。

(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)

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