人材育成

社員のキャリア支援において経営者が心掛けたいこととは

コロナ禍で需要は低迷しており、一時加熱した人手不足感は一服していますが、ポストコロナでは、さらに深刻な人手不足になるとも言われています。
その際、本当に不足する人材というのは、会社を引っ張っていくリーダークラスの人材です。
人材育成は時間がかかるため、今のうちに、社員のキャリア支援に着手しておくことが必要です。

その際、気をつけたいのは、個別の研修や施策を充実させても全体のキャリアプランが社員の目指す姿に必ずしもならないということです。
個別最適を集めても、全体最適になるとは限りません。
そこで、中小企業では、社員との対話を通じて、将来の夢、ワークライフバランス、家族や健康のこと、趣味、仕事への思いに寄り添いながら、社員が人生のなかで目指すキャリアを構築できるよう支援することが大切です。

なお、店舗ビジネスのキャリアの限界を突破する「のれん分け制度」づくりや成功のポイントを知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。

事業拡大したい経営者必見!のれん分け制度をつくる7つの手順と、成功の3つのポイント

(1)ポストコロナには深刻な人手不足が到来する

先日飲食店の経営者の方とお話しました。この方は、日頃から新聞や経済紙、業界紙などによく目を通し、最新の情報を仕入れ、新しいことがあれば前向きに取り組むタイプの方です。
最近読んだ雑誌には以下のような記事があったそうです。

「今はコロナ禍なので、求人有効倍率が少し下がっているが、日本が少子化に直面していることは変わらないので、近い将来必ずさらに深刻な人手不足になる。その時には、外国人の労働者など国が必要な対対策はしているだろうが、会社経営に一番問題になるのは、会社を引っ張っていくリーダークラスの人材不足だ。外国人でも日本人でも、社員を自発的に行動できる人材にまで育てるには簡単ではないし、時間がかかる。今のうちに、社員の人材育成やキャリア支援に着手しておくべきだ」

この経営者は、この見通しと考え方に共感し、キャリア支援に力を入れたいと考え、次のようなご相談をくださいました。
「雑誌等にはよくキャリア支援の事例等が掲載されているが、どれも大企業向けというかある程度会社の規模が大きい会社向けのようで、我々のような中小企業向けのいい事例が少ない。どういった方針で臨めばよいのだろうか?」

(2)個別最適を集めても全体最適になるとは限らない

筆者も同じように感じていましたので、中小企業におけるキャリア支援について、早速お話しました。そのときの話は、以下のような内容です。

一般的に、大企業の場合は、経験や年齢、職種などに応じて研修を用意し、同時にOJT(On the job training = 職場や現場で実務を経験させる教育方法)の機会を与え、順次新しい職務や職種にチャレンジする場を提供することが中心です。
このような教育制度は、いくつかのメニューの中から社員ごとに適した研修を選ぶことができるのがメリットです。
様々なメニューがあることから、カフェテリア形式とも呼ばれたりします。

一方、この形式の難しい点は、社員が自分の働き方に近いロールモデルを想定しながら、自らメニューを選び、キャリアをデザインしていく姿勢が求められることです。
自分に近いロールモデルの人が身近にいなかったり、そもそもどのような人材を目指せばよいのか思案している人に対しては、自身のキャリア開発の全体プランをうまく描くことができず、個別の研修は効果的だとしても、全体としてその社員のキャリアプランにあったものになるのかわかりません。

つまり、個別最適を選んでいっても、全体最適になるとは限らないということです。
これがこの形式の課題です。

会社経営でも同様のことがあります。
以前都内の地下鉄駅の近隣に、ある西洋料理のお店がありました。
お店の立地が少しわかりづらいところにあったため、このお店の店主は飲食店の検索サイトで選んでもらうにはどうすればよいか考えていました。

都内の数店舗を経験し腕に自信のある店主は、独自の他店と少し異なる西洋料理を提供しようと、メニューに工夫を凝らしました。
競合店と差別化を図るという戦略は間違いではありませんが、これだけではお店を探している顧客の検索にうまくヒットしませんでした。

なぜでしょうか?
それは通常顧客がレストランを検索するときは、「いつ誰とどのような機会に利用するか場面を想定している」からです。
いつも連絡を取り合っている友人グループでカジュアルにリーズナブルにイタリアンを楽しみたいのか、夫の誕生日を祝うためにすてきなワインと落ち着いた雰囲気で個室のあるレストランを探しているのか、その顧客ごとに求めている場面が異なります。

この店主のように、独自のメニューを開発したり、また、飲み物の品揃えを充実させたりしても、メニュー、価格、接客、内装や外装などを合わせたレストラン全体として、どのようなサービスを提供し顧客に満足してほしいのか、お店としてのメッセージが伝わるようにしないと、利用場面を想定した顧客の要望にミートしないのです。

しかし、お店のメッセージが顧客の要望にピッタリ合えば、すぐに検索サイトから予約が入ります。
つまり、いくら個別のアイテムを充実させても、これだけでは顧客の課題を解決することはできないということです。

(3)社員のキャリア支援において経営者が心掛けたいこと

このように、課題を解決するためには、個別の課題だけに対処するのではなく、「全体のストーリー」が必要です。
これは、中小企業の人材育成やキャリア支援にも当てはまります。

個別の人材育成メニューをしっかり揃え、それぞれが効果的であったとしても、社員数が多くない中小企業にとっては非効率かもしれませんし、求める人材像に成長することを支援する仕組みになっていないかもしれません。

中小企業は大企業と違って、経営者や上司と社員の距離が近いのが強みです。
この強みを活かし、社員との対話を通じて、将来の夢、ワークライフバランス、家族や健康のこと、趣味、仕事への思いに寄り添いましょう。

社員の仕事とプライベートの両面を知ることで、その社員が人生のなかで目指すキャリアを構築できるよう支援します。
全体ストーリーを一緒に考えて、そのために必要なメニューを準備して、社員をサポートします。

仕事もプライベートも充実するようなキャリア支援や人材育成を進めれば、社員の仕事に対する満足度や会社に対する帰属意識が高まります。
このように、中小企業ではキャリア支援といっても、新聞や雑誌に出ているようなメニューを揃えて終わりにするのではなく、社員の気持ちに寄り添い、社員の将来を一緒に描いていく姿勢がとても大切です。

(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)

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