多店舗展開

社員の仕事に対する姿勢を変える”目的意識”の持たせ方

「最近うちの社員の仕事が速くなってきました。また、この前は代替案を提案してきたんですよ。以前とは人が変わったようです」

これは、弊社が継続的にサポートをさせていただいている理容店経営者の言葉です。

サービス業は、飲食業や建設業とならび、人手不足が深刻な業種です。
加えて、サービス業は人を介してサービスを提供するため、機械設備を活用して高生産性を実現する製造業等と比べて生産性が低い(一人当たり売上高や粗利益など)と言われています。

この会社も例外ではなく、既存店の売上を高めていくためには限られた社内の人材が成長して生産性を高めるしか方法がなく、人材の成長が重要な経営課題となっていました。

そこで、弊社からは自発的に考え行動できる人材を社内で育成していくための方法論を提案させていただき、それ以降、この経営者は、社員を自発的人材に育成する取り組みを始めました。

社員のキャリア形成支援

各社員に将来期待する役職や業務、その際に得られる収入などを示し、将来目指すべき姿をイメージできるようにするキャリア形成支援

社員のスキルアップ支援

自身が目指すキャリアを実現するために、求められるスキルと現状を比較した能力評価、それにもとづきスキルのギャップを埋めるキャリアアップ支援

上記の話にあった社員は、そういった支援をして、当初はあまり変化はなかったそうです。
ところが、プライベートに変化があってから、考えや行動に変化が出てきたとのことでした。

今回は、その考えや行動の変化が起きた要因について考察してみます。

なお、店舗展開を加速するための人材育成システムについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。

多店舗展開を加速する人材育成システムとは


 
弊社YouTubeチャンネルも併せてご覧ください。

 

(1)目的意識が考えと行動を変える

実はこの社員は数か月前に結婚をしたそうです。
変化が出てきたのは、結婚がきっかけになったようですが、それだけではありません。
経営者の話から、会社による自発的人材育成支援の取り組みと、社員自身の仕事に対する意識の変化の両方が作用したと思われます。

当初は、キャリア形成支援により、5年後、10年後に活躍する分野や役職、目安となる給与などを話しても、変わった様子はなかったそうです。
これだけでは、本人の意識の奥に届きませんでした。
20代の社員は、働くことで収入を得て毎月生活をしていましたが、働くことの目的が、“自分のため”になっていたのです。

ところが、結婚というプライベートにおけるライフステージの変化に直面し、“家族のため”という視点が加わりました。

“家族のため”とは、大切な人のために将来にわたって健康に働き、安定した収入を得る必要があるということです。
つまり、会社によるキャリア形成支援と社員自身のライフステージの変化が結びつき、社員のなかで意識が変わったのです。

目的意識を持ったことが、考えと行動を変えました。

(2)目的意識のメリットと効果

目的意識を持つと、人はどのように変わるのでしょうか?
目的意識を持つと、以下のようなメリットがあると言われます。

  • 仕事や行動が速くなる(効率性が上がる)
  • さまざまなアイデアや施策が創出される
  • コミュニケーションが円滑になる
  • 組織風土が前向きになる、明るくなる

人に目的が生まれると、考えや行動に一貫性が出て、ゴールにより速く、より正確に到達できるようになります。
これは、一つひとつの行動に意味が出てくるからです。

その結果として、売り上げやコスト削減など経営目標の達成に近づきます。
もし、業務が計画通り進まなくても、トライアル・アンド・エラーを迅速に繰り返し、結果的によりよい施策を実行することができます。

また、目的意識を持つ社員が一人でも多く増えることで、前向き・積極的に取り組む組織風土が醸成されます。

このように、社員に目的意識を持たせることで、仕事の効率化や改善など直接的な効果に加え、会社の業績への好影響や組織風土の改善などにつながります。
組織風土が改善すると、さらに多くの社員が目的意識を持つようになり、会社全体に好循環が生まれます。

(3)社員に気づきを与える方法

社員に目的意識を持たせ、自発的に行動させるためには、社員自身に気づきを与える必要があります。
気づきを与えるために、経営者や上司が社員に対して、「目的意識を持て」や「自発的に行動しろ」と言っても効果がありません。もしろNGワードです。

これらの発言は、経営者や上司の意図とは逆に“目的意識を持っていないこと”と“自発的に行動していないこと”を示唆してしまいます。
気づきを与えるどころか、社員の行動を否定・非難することになります。

その代わりに、業務面では
「これは顧客にとってどういうメリットがあるかな?」や
「それが手に入ったらどうなるだろうか?」など、
仮定や見通しについて、考えさせる質問をするとよいでしょう。

また、生活面では、
収入が増えれば、趣味や自己啓発に使え多様な生き方が可能になること、
家族が増えても安定した生活を送れることなど、
今とは違う将来の目的を意識させることが効果的です。

冒頭の社員の例では、キャリア形成支援と社員自身の結婚というライフステージの変化が、社員に気づきを与えました。

社員が何によって気づきを得るかは、人それぞれです。
経営者や管理者としては、日常から各社員の発言や行動をよく観察し、何に興味・関心を持っているかをつかみ、社員の将来のキャリアについての話や気づきを与える会話をすることが大切です。

また、一度やって効果がなかったからといって、すぐにあきらめてはいけません。
気づきが得られるタイミングも、人それぞれなのです。
継続的に社員に気づきのきっかけを提供することで、安定的に、目的意識をもった人材を育成していくことができるのです。

まとめ

一度気づきを得ることができれば、目的意識が醸成されます。
目的意識を持つことにより、行動が自発的になります。

事業成長を実現している経営者は、売り上げを伸ばすことや人材育成などについて、強い目的意識を持っています。
そのため、リーダーシップや率先した行動、考え抜いたアイデアにより、事業を運営できるのです。

経営者と社員では、自発的に行動するための目的自体は異なります。
しかしながら、目的意識を持つことが、自発的な行動を生むことに変わりはありません。

(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)

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