人材育成

社員にキャリアを考えてほしいと考える経営者にお勧めすること

経営者の想いはそう簡単には伝わらない現実

先日、弊社コンサルティングをご利用の経営者が「自分の人生なんだから、将来を真剣に考えてほしいけど、思うようには伝わっていない気がします」とぽつりとおっしゃいました。
そして続けて、「でもベテランの何人かの心には響いているようですけど」と微笑まれました。

その方は、ご自身で美容系のサロンを立ち上げ、都内の人気エリアに複数店舗を展開する、たおやかさの中にも凛々しさを感じさせる女性経営者です。
そしてこのコロナ禍で業績に影響は受けているものの、社員が将来に向けやりがいをもって働けるよう、多少時間に余裕のできたこのタイミングで、弊社コンサルティングにて「のれん分け制度構築」を始める決断をされたのです。

経営者と社員の間に必要な「啐啄同時(そったくどうじ)」

経営者の呟きを聞いた私は、以前、茶道の先生から聞いた「啐啄同時」という言葉が頭に浮かびました。
茶室には主に禅語の書かれた「茶掛」という掛け軸をかけるのですが、そこに「啐啄同時」と書かれていたのです。

先生の話は「啐啄同時とは禅語であり、「啐」は雛が殻から抜け出ることを外の親へ知らせる声、「啄」は親鳥が殻をつついて雛の出るのを助けること、つまり弟子の学びたいという姿勢が見えたなら、師匠はすかさず教えることでその教えが、より身に染みる」というようなものでした。

改めて調べてみると、「何事にも好機がある」というような意味で使われるようですが、逆に言えば、まだ外界へ出る準備のできていない雛の殻を親が自分のタイミングで破れば雛は死んでしまい、反対に雛の声に気づかず親鳥が放置していたら、弱い雛は殻の中で息絶えてしまう、ということです。

これは「経営者と社員」「経営者とのれん分け対象者」にも言えることではないでしょうか。
つまり求めている人にしか、そもそも経営者の気持ちは届かないが、求めている人がいたなら、経営者が声をかけないと、その声(気持ち)はしぼんでしまう、ということです。

経営者の想いを、言葉を変え、タイミングを変えて社員へ伝え続ける

なので、経営者の方にはそれぞれの社員が「求める」タイミングに合致するまで、根気よく自身の想いや独立のメリットを発信していただければと思います。

なぜなら人は基本的には自分のタイミングでしか動かないからです。
もちろん様々なきっかけから心は動きますが、それでも最終的には「自分が決めたタイミング」でしか行動は起こしません。
だからこそ、その人が動こうとするタイミングを逃さないように、経営者からの定期的な情報発信が必要なのです。

具体的には、自社HPで自身の理念やビジョンを明らかにする、社内報やイントラネット等で想いを発信する、それ以外にも、かなり負荷はかかりますが、社長ブログを始めてみる…などです。
そして「自身の理念、ビジョン、想い」の軸はぶらさず、取り上げる事象や事例などを変えることにより表現や内容を変えて、「基本的には同じことを違う言葉で」伝え続けるのです。

社員に将来を考える機会を与えるタイミングとは

とはいえ、そもそも「求めている人にしか声が届かない」のに、どうやって「求めてもらうか」は、経営者の考えを発信する以前の課題かもしれません。
これに関しては、弊社の経験則で言えば、「将来を考える機会を与える」しかないと思います。

先日、育児休暇を取得後、人事の仕事に復帰した女性管理職の方と話す機会がありました。
「会社でのキャリアの道筋と自分のライフプランをどうすり合わせていくか、これまで考えたことがなかったです。でも今回の経験から、後輩には早いうちにそういう機会があったほうがよいと思うのです。結果的に本人にとっても、雇用する企業にとっても無駄がないというか、お互いプラスだと思います。」
とのことでした。

また私のこれまでの研修講師としての経験からも、「将来の方向性と会社での働き方を考える機会」は、比較的若い時期に与えられたほうが、本人が得る気づきも大きく、その後のキャリア形成には効果的なようです。
もちろんキャリアを考える機会は、人生の節目では誰にとっても大切ですが、年代によってキャリアを考える目的が違ってきてしまうことは否めないでしょう。
なので、弊社でコンサルティングをさせていただく経営者の方には、「独立を考える人を中心とした若手に向けたキャリア研修の実施」をお勧めしています。

以前お伝えした通り、今やキャリアは会社で積み上げるものではなく、本人の身に着けて運ぶもの、という意識の方が多くなってきています。
だからこと、経営者の想いを伝えるとともに、社員の考えていることを知る機会をこれまで以上に意識して作っていただければと思います。

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