(1)人手不足による経営への影響
人手不足が深刻になっています。10月に発表された大手飲食業の決算では、売上げが増えたにもかかわらず、利益が減ってしまった会社がありました。サイゼリアの2018年8月期の年間売上げは、1,540億円で、前年同期比3.9%の増収、営業利益は、86億円で、同23.9%の減収でした。また、中間決算でしたが、吉野家の2019年2月期第2四半期の売上げは、1,003億円で、同2.7%の増収、営業利益は、0.5億円で、同97.4%の大幅減益でした。両社とも売上げは増加していますが、コスト面では、食材価格の高騰に加え、人手不足による労働賃金の上昇があり、人手不足が経営に大きな影響を及ぼしているとのことです。
大手企業でさえも人手不足が悪化する中、中小企業の経営も深刻度を増してきています。経営資源の小さい中小企業は、給与など処遇での差別化は難しいことから、従業員にとって、「働きやすさ」や「働きがい」のある会社にして、しっかりアピールすることが、人材確保に非常に重要なことになります。
(2)人事評価制度と人材育成の連携
人事制度には、大きく分けて、採用、配置、評価、報酬、育成(教育)の5項目があり、経営理念や経営方針を人事制度の内容と一貫性を持たせることが、従業員のモチベーション向上や人材育成につながります。そこで、人事評価制度と人材育成との連携について、考えてみます。
人事評価を行うことで、評価基準に対しての成果の達成度合いが、定量的に把握できます。評価基準として、売上げや新規顧客獲得数、接客と調理の業務マニュアルの整備、従業員の定着率など複数の項目を設定することで、項目ごとに、各人の得意・不得意の業務や、強み・弱みがわかります。
ポイントは、人事評価の結果だけに焦点を当てず、なぜうまくいったのか、うまくいかなかったのか、なぜその結果になったのか、目標達成に対して従業員がどのように取り組んだのかなどを人事評価後の上司とのフィードバック面談で確認することです。従業員の考え方や行動に焦点をあて、競合や顧客、立地の状況など外的要因の影響とは分けて考えることで、従業員の強みを一層伸ばし、弱みを少しでも克服できるようにします。
次に、図1のような社内のキャリアプラン例を示して、従業員の将来について話しましょう。例えば、新規顧客獲得や売上げ増加について、評価が高かった従業員に対しては、次のキャリアとして、チーフや店長など具体的な役割や役職があることを紹介します。独立志向の高い人材が多い傾向にある飲食業界等では、社内でのキャリアアップに加えて“のれん分けによる独立”という選択肢を用意するところも増えてきています。次の目標が示されることで、さらに成長するための次の課題が明確になり、モチベーションンアップと人材育成につながります。
図1 モデルキャリアプラン例
一方、評価が低かった従業員がいたとします。従業員との面談で、理由や背景を確認しましょう。まず、話を聞くことが大切です。もしかすると、ご家族の状況などプライベートなことが業務に影響していたかもしれません。その上で、今後会社が期待することや本人が伸ばしたい、克服したいことの中からいくつか改善項目を共有して、対応策を具体化しましょう。
例えば、調理の手際が悪かった従業員の場合は、業務マニュアルを読ませるだけではなく、先輩社員を期間限定でアドバイザーにしてOJTを行うなど対応策を実施します。また、サービス・接客をさらに伸ばしてほしい従業員に対しては、外部の研修に参加する機会を提供することで、日常業務と違った視点から、接客に関する知識や行動、専門技能を高めることができます。
また、人事評価結果は、従業員各人だけで活用するのではなく、会社全体でも活用しましょう。例えば、「お客様に満足いただけるサービスを提供する」ことを経営方針としている会社では、サービス提供において、他社より優れた調理と接客技術の向上が必要です。会社が求める技能レベルと従業員全体の成果を比べた時に、会社全体として、調理の技能が不足しているのであれば、全社で外部の研修に参加するプログラムを用意する、もしくは、外部講師にきてもらい、集合研修を社内で実施する、といった方法があります。
(3)人事評価制度活用による効果
人事評価と人材育成と連携することで、従業員の強みの強化、弱みの補強、さらに、会社の経営方針と人事制度との一貫性の構築につながります。将来に対する取り組みである人材育成に会社が積極的に取り組むことで、従業員は、給与などの処遇以外で、職場に「働きがい」を感じるようになります。そして、全社として、成長する意欲を持った集団になることで組織としての一体感が醸成され、コミュニケーションの促進により「働きやすさ」につながります。
人手不足が深刻化する中、人材育成は最も喫緊のテーマであるといえます。人手不足は短期的な課題ではなく、将来に続く問題であり、人材育成は成果がでるのに時間がかかりますので、長期的視点で早期に取り組みを開始しましょう。
(コンサルタント・中小企業診断士 木下岳之)
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