「現在運営している業態のフランチャイズ展開を進めていきたいと考えています。何から進めていけばよいですか?」
これは、当社に相談に訪れるフランチャイズ展開を目指す経営者からよくいただく質問です。
フランチャイズ展開を目指すにあたっては、本部事業計画や加盟店開発計画の策定、フランチャイズパッケージの検討、契約書類・加盟開発ツールの作成など、やるべきことは多岐にわたります。
前述のようなご相談を受けた場合には、フランチャイズ展開に必要な内容をすべて抽出して、一つ一つポイントをお伝えしていくのですが、その際、特に“プロトタイプモデルを十分に作り込むこと”を念押ししてご説明するようにしています。
なぜかというと、プロトタイプモデルの完成度がフランチャイズ展開の成否を大きく分けるポイントとなるからです。
なお、フランチャイズ本部構築の進め方や成功のポイントについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
(1)プロトタイプモデルとは
プロトタイプモデルとは、大量生産を開始する前に確立する原型のことをいいます。
例えば、自動車メーカーが新型自動車をリリースする際、大量生産に入る前に、当該自動車の形状や部品など、大量生産する自動車の仕様を明確に定義します。
これにより、一定品質の自動車を効率よく大量生産ができるようになります。
フランチャイズ展開を開始する際にも、前述の自動車の事例と同じように、大量出店する際の原型を明確に定義しておく必要があります。
なぜ、このようなことが必要なのかというと、予め明確に定義した仕様と同じものを展開し続けることが、フランチャイズ展開の品質担保や出店スピード加速に大きく貢献するからです。
これはプロトタイプモデルを明確に定義しないケースを考えると、その効果がわかりやすいのではないでしょうか。
例えば、プロトタイプモデルの無い飲食チェーン店がフランチャイズ展開により出店を加速しようとすると、立地選定や店舗内外装設計などを都度検討していくことになります。
一つ一つの物件を吟味し、自社業態が当該物件で展開可能なのかを検討していくわけですから、当然出店スピードが低下することになります。
また、都度検討する、ということは、必然的に店舗によって特徴にばらつきが生じるということになりますから、当然品質を一定に保つことが難しくなります。
フランチャイズチェーンでは、どの店舗を利用しても一定水準のサービスを受けられることが、ブランドの信頼性を保つうえで極めて重要なポイントとなりますから、プロトタイプモデルが不明瞭な場合、チェーンの品質低下にもつながりやすくなります。
これらを考えると、フランチャイズ展開の成否を分けるポイントは、プロトタイプモデルにある、ということがお分かりになるかと思います。
(2)フランチャイズ展開前にプロトタイプモデルを構築する理由
では「フランチャイズ展開を進めながらプロトタイプモデルの在り方を模索する、という考え方はできないのか」とお感じになられるかもしれません。
これは、やろうと思えばできないことはありません。
ただし、フランチャイズ展開前にプロトタイプモデルを明確に定義するケースと比べると、間違いなく効率が悪い、という点は認識しなければなりません。
フランチャイズ展開を進めながらプロトタイプモデルの在り方を固めることができれば、以降の店舗展開は高品質かつスピーディーに進めることができるでしょう。
問題は、プロトタイプモデルが固まるまでに展開してきた店舗の存在です。
直営展開の場合であれば、既存店舗をプロトタイプモデルにあわせてブラッシュアップしていけばいい(とはいえ、店舗の構造やデザインなどには限界がありますが)のですが、フランチャイズ展開の場合、その店舗の経営者は加盟店オーナーです。
仮に、本部視点で見たときにプロトタイプモデルにあわせて店舗改装をした方が、収益性が向上することが明らかであったとしても、そこに対する投資は加盟店が行うわけですから、加盟店が同意しなければどうすることもできません。
加盟店にそれだけの金銭・人的資本を投下する余裕が無いことも想定されます。
そうなると、プロトタイプモデル確定前に出展した店舗はそのままの状態で残ることになってしまいます。
このような事象が発生すると、店舗間での提供価値やサービス品質にバランスが生じることとなり、最終的にはチェーン全体のブランド力低下につながる可能性があります。
このようなデメリットを考えると、焦ることなくはじめにプロトタイプモデルを固め、その後にフランチャイズ展開を開始することが最善の方策といえることがわかります。
(3)プロトタイプモデルとして明らかにすべき事項
プロトタイプモデルとして明確化すべきこととしては何があるでしょうか。
これは業種業態によって大きく異なることになりますが、一般的には以下の切り口で整理していくとよいでしょう。
①立地条件
間口、周辺人口・世帯数、駅との距離感、階層、店前道路からの視認性、商圏の性質(●●層の人口が多い等)など
②店舗の形態
店舗の面積、外装デザイン、内装デザイン、什器備品、看板、駐車場の有無、ホールと厨房のサイズなど
③収益性
初期投資金額、標準的な収益モデル(費用構造含む)、投資回収期間など
④運営方法
顧客が入店してから退店するまでの一連の流れ、店舗で実施する販促活動、営業時間、スタッフの配置、管理の在り方など
フランチャイズ展開において、フランチャイズ契約書や加盟店開発資料の作成は、フランチャイズ展開を進めるうえで必要不可欠なもののため、必ず検討されるものとなります。
しかしプロトタイプモデルは、フランチャイズ展開の重要要素であるにもかかわらず、仮にプロトタイプモデルが不明確であっても一応はフランチャイズ展開を進めることができるため、見落とされるケースが多い傾向にあります。
これからフランチャイズ展開を開始することを想定しているのであれば、まずは自社のプロトタイプモデルの定義が十分かを振り返ってみることをおすすめします。
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